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悪魔の微笑み

中心にお互いに歩み寄ったアルフォンスと騎士三人。


「俺はブレットだ。ブレット・カルヴァート」


真紅の髪が印象的な彼はそう言って笑みを浮かべた。

そして左右隣にいる騎士たちを紹介する。


「で、左にいるのがセシル・オーティス。右にいるのがシリル・アーレンだ」


紹介されるとセシルは笑みを浮かべながら「よろしく」と言い、シリルは終始ダルそうにしていた。


「ん、よろしくー。……とりあえず、楽しませてねー」


アルフォンスはそう返して、定位置に行くべく引き返す。


その様子に軽く溜め息をつき、ブレットたちも定位置へと向かった。



両者が定位置についたのを確認し、火王は競技場中に声を響かせる。





「戦闘――――開始っ!!」





瞬間、ブレットがアルフォンスに斬りかかる。

既にその手には抜き放たれた剣が握られていた。


その速さはアルフォンスにとっても予想外で、一瞬対応に遅れる。


「遅いなっ!!!」


ブレットがそう口にし、剣を横に振るった。


――だが。


「こっちだよ」


そこにはもうすでにアルフォンスはおらず、その声はすぐ後ろから聞こえる。

そこではアルフォンスがどこが残酷な笑みを浮かべていた。

その手には剣が――――。


「――っく……」


ブレットの腕に僅かな痛みが走る。

彼の二の腕の部分には一筋の切り傷があり、そこから血が滲んでいた。

アルフォンスはその腕を蹴りそして踏み、剣を奪う。


「もっと楽しませてよ、こんなんじゃつまんないんだけど」


そう言った彼の背後に一瞬で迫った一つの黒い影。


「お望み通りに……!!」


その声はセシルのものだった。

セシルは自らの剣を振り上げている。


「わー、早いね。――でも」


瞬間、ブレットの身体が浮く。


「なっ――」


アルフォンスはブレットの身体を盾のように、自分の前にだした。


「っ――!!」


セシルはギリギリで剣を止める。

だがそこに一瞬の隙が生まれた。


アルフォンスはそこを見逃すことなく、攻撃をしかける。


アルフォンスのナイフが、ブレットの頭のすぐ横から姿を現しセシルを襲った。




――しかし、キーンという甲高い音が響く。



「っシリル――!!」



ブレットとセシルの間にはシリルが入り込み、アルフォンスの投げたナイフを弾き飛ばしていた。


「くそっ……手間、かけさせんなっ……」


そう言って、すぐに剣を持ち直しそれを横に振るった。

ブレットもそれに反応し、アルフォンスの手を振り払いすぐにしゃがみ込む。


アルフォンスは後ろにのけ反るようにしてそれをかわし、そしてそのまま後ろに飛び退いた。

だがその飛び退く瞬間に小型ナイフを三本取り出し投げつける。


騎士三人はそのナイフをその場所から散るようにしてそれぞれが違う方向に飛び退いてかわした。


そしてそれと同時に右手を前に出し魔法を唱える。


「「「深紅の業火(クリムゾン フレイム)――――!!」


瞬間、彼らの右手から人一人分ほどの大きさの火の玉がアルフォンス目がけて発せられた。


そしてアルフォンスが炎に包まれる――。




「やった、のか……?」




そう呟き、その燃え上がる炎を凝視した。

聞こえる音は炎の燃え上がる音のみ。

ブレットたち三人はふっと緊張を解いた。


だが――――。


「なっ――」


炎の中からナイフが三人めがけて襲い掛かってくる。


反応に遅れながらも寸前のところでブレットたちはかわしたが、それで精一杯だった。




――――そのすぐ後から飛んできたのだ、もう一本のナイフが。




気が抜けた瞬間に突然投げられた一本目のナイフを避けるのに精一杯の三人は、その一本目にしか目がいかずもう一本に気付くのに遅れてしまった。

そのナイフは彼らの喉元を狙っている。


辛うじて避けることはできたものの、“傷を負わずして”というのは無理に等しい。




――彼らの首筋に、すっと薄く、赤い線が刻まれた。




ブレットたちは恐る恐る、僅かに感じた首筋の痛みのところに触れる。

その手を見てみれば、そこには赤い血が。



「……はい、ボクの勝ち」



騎士たちの動きが止まる。


その声は確かに、アルフォンスのものだった。


そしてそれは炎の中から聞こえる。


いや、正しくは――――。


「反論は、ないよね?」


――――正しくは、炎の後ろ(・・)から。


炎が消え、そこにはアルフォンスの姿が現れた。


彼の体には一つとして、傷はついていない。


「……そんな――」


アルフォンスは変わらずの笑みを浮かべている。

あの何を考えているのか読めない笑みだ。


今のブレットたちにとっては、その笑みが、ただただ不気味にしか感じられない。



それはまるで、 “悪魔の微笑み”のようだった――――。









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