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裏切り者

アルフォンスとしての姿へとなった少年は、もう一人の自分を通して見える光景に笑みを消し、呆れたように溜め息をついた。


やはり国の騎士団というのは強い訳で、そんな彼らに闇は次々と殺され着々とその数を減らしている。


「あーあ。やっぱり結構強いなぁ……。ただの寄せ集めじゃあ全く歯が立たないか」


暫く黙り込む。

そして少年は小さく呟いた。


「――そろそろ、行こうかな。自分でも狩らなきゃ、僕としてもつまらないしね」


瞬間、彼の姿がその場から消えた。








「くそっ……こんなにいちゃ、どんなに殺ってもキリがねぇ……」


一人の騎士が息を切らしながら今さっき自分が殺した闇の者を見下ろした。

門の前で謎の少年から聞いたことを思い出し、それが現実であったことに絶望していた。

闇の存在を否定していたが、今この状況下でそれを認めざるを得えない。


「それも女も子どもも関係なしとか……精神的にもやられてくる……」


本来守るべき対象を殺さなければいけないというのは、騎士としてのプライドや、誇っていたものが揺らぎ崩れるようであった。感情を噛み殺すように、下唇を噛む。


そんな彼の後ろに静かに忍び寄る影が一つ――。


「――っ?!」


突如感じた殺気に振り返れば、闇の女が剣を振り上げていた。


しかし騎士は何もせず、ただそれを見つめることしかできない。


涙に潤んでいる彼女の瞳は絶望と悲しみに満ちていた。


その辛そうに歪められた表情に剣を振りかざすことができなかったのだ。



斬られる――そう思った、その時。




目の前の女の右腕が彼女の体から離れ、その手から離れた剣が宙へと飛び、右腕が騎士のすぐ横に落ちた。


そして――――



「うっ……」


うめき声と共に鈍い音が響いたかと思うと、闇の女の胸に刺さる一本の短剣。


女の目から溢れ出た涙が頬を伝う。

その一滴が零れ落ちると同時に、その胸に刺さった剣が引き抜かれた。


倒れこむ女のすぐ横に、彼女の剣が落ち地面に突き刺さる。



「お、まえ、は……」


騎士は目の前にいるその少年の姿に目を見開いた。


「何ぼーっとしてんの、死ぬよ?」


そう――アルフォンスである。


女から引き抜かれたはずの彼が持つ剣には、一滴の血もついていなかった。

それのせいも相まって、アルフォンスの表情も飄々としており、彼が人を殺したということを微塵も感じさせない。


「何で、お前がここに――」


疑問と混乱に、言葉が上手く出てこない騎士がようやく口にできたのはそれだけだった。


「さぁ、何でだろうねー?」


あの感情の読めない笑みを浮かべそう言うと、アルフォンスはその場を離れていく。


そうして彼は次々と闇の者達を斬り殺していった。

ただ斬るだけ――魔法を使っていない。

彼の持つ剣もただのそれだった。


それなのにこの強さ、騎士は思わず呆然とした。




『どうして……?』


そんな言葉がアルフォンスによって斬られる闇の者達の口から発せられる。


闇の者達は、彼があの闇の少年と同一人物であることを知っていた。

そして彼らに伝えてあったのは、最終的にはアルフォンスの姿をした少年が騎士団を倒すというもの。


『裏切り者――……』


そう言う者もいた。


しかしそんな彼らに少年(・・)は悪びれる様子などあるはずもなく、返された言葉はあまりにも冷たく酷いものだった。


「――どうして、なんて……そんなの決まってるでしょ? もう用済みだから。キミ達に残された役目は、死ぬことだけ。それに“裏切り者”とか、どの口が言うわけ? 最初に裏切ったのはキミ達でしょ」


それに言い返す者はおらず、その言葉を聞き終えたときには皆既に息の根を止めていた。


少年は蔑むように死んだ彼らを見、そしてその場を後にし別の場所へと向かう。

そんな少年の顔は、いつもの笑みではなかった。


ただただ、憎しみに染まっていた――……









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