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神殺しの少年は世界の終焉を望む  作者: 桐生桜嘉
名無しの双子の過去
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名無しの死者の記憶


彼らは、産まれたその瞬間から、亡き者として扱われた。

【第一世】という輝かしい肩書きすら失い、存在ごと消された。




親である双子の神は言った。

「失敗した」と。


双子の神は、互いが互いに似た子を望んだ。

それが失敗に繋がったのだ。

互いの要素を共有した結果、境目が無くなってしまった。

水と氷、人間と(ドラゴン)――境界線がなくなった存在は、人間でも(ドラゴン)でもないキメラとして生命を受けることになる。


彼らに与えられた名は、“ジェーン・ドゥ”と“ジョン・ドゥ”。

それ即ち、“名無し”を意味するもの。

親の苗字すら継げなかった彼らは、何者にもなれなかった。



神の失敗作を、“化け物”と呼ばれるような彼らを、国を治める者の娘息子として民衆に知らせるわけにはいかない。

皇子や皇女と呼ばれるような座に置くことなどできなかった。


そうして彼らは、その存在ごと秘密裏に深海へと流されたものの、その体質の影響で死を迎えることはない。

そのことを双子の神はわかっていた。元より、命を奪うつもりはなかった。

かといって、その扱いに困ったのも事実。


そうして形作られた彼らの関係性は、親子とは縁遠いものになった。



神々において、美を司る氷ノ神は“目と耳、声”の役割を持ち、知を司る水ノ神は“頭脳”の役割を持つ。

つまりは、それらに関する能力に秀でた神々の血を色濃く受け継いだ名無しの双子は、この世に生を受けてからその身に起きた出来事を全て記憶していた。


産声を上げたときの、愕然としていた親の表情を。


己の姿に恐れ慄く人々の姿を。恐怖の色を浮かべる視線を。

存在を拒絶するような悲鳴を。


そうして彼らは、自分たちは存在してはいけないのだと、早くに悟った。


だから深海に捨てられたことを、必然なのだと受け入れた。


捨てられるその時、初めて親の手に抱かれた。

しかしその目に映る己の姿の醜さに、体を包む親の手が冷たく感じた。


海に沈みゆく中、片割れの体を抱きしめ合う。

自分たちを包む水が温かく感じ、地上と離れていくことに心のどこかで安堵した。




深海で暮らすのも慣れてきた頃。

水と氷の王――すなわち名無しの双子の親が海底まで訪れた。

母は言った、「捨てたつもりはなかった」と。そうして双子が暮らす場所として、氷の神殿を作り上げた。

父は言った、「こんなことしかできないが」と。そうして神殿の内部に膜を作り、地上と同じ暮らしができるようにした。


その頃、双子の神は二回目の人間誕生に挑み、達成したときだった。

その時気づいたのである。

一番最初に“失敗作”と称したのが生みの親である彼ら自身であり、その扱いが人々に“化け物”と呼ばれる所以となったことを。

しかし、そのことに本人たちが気づいたときにはもう遅く、名無しの双子と呼ばれる娘息子は地上における居場所を早々に失くした。


双子の神にとっては、親としての罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。

しかし、名無しの双子にとっては、初めて親から受けた贈り物であり、愛情だった。

興奮して寝られない夜を過ごすほどに、彼らの心には喜びが溢れた。


それが最初で最後の、贈り物であったとしても、愛情であったとしても、一度受けたという事実が彼らにはたまらなく嬉しかった。





そんな彼らに、転機は突然訪れた。


「あら。こんなところに建物があるなんて思いもしませんでしたわ」

「わぁ! ねぇ()()様、見て! 妖精さんって本当にいたんだね!!」


彼らの前に現れたのは仲睦まじい親子だった。

そして、双子の目に映る親子の姿は、髪も目も暗闇に包まれたような黒色をしていた――。




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