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復讐劇の本質


その言葉は双子だけに向けられたものではない。アシュレイが、かつての自分自身に言いたいことだった。

そしてそれは、まさに、闇の少年の“復讐劇”の本質とも言えるものだった。

アシュレイからしてみれば名無しの双子と呼ばれる彼らに、何かしら通ずるものを感じたのかもしれない。

それ故の言葉であり、その意図にはこの復讐劇に希望を見出していることが含まれていた。



届かない声を叫び、届かない願いをぶつけ、そうして自分たちが望んだ夢を認知してもらう。



叶うかどうかじゃない。



それを望んだ自分という存在を、その一つの考えが存在したという事実を、認めさせるのだ。

その記憶に。

その心に。


刻み込むように。


その相手が世界であり、神であり、王であり、そして──親であった。





闇の少年は言った。


「僕らは、奪われた者、与えられなかった者、そしてそれらを認知されなかった者だ。この世界ではそれが当然とされ、見向きもされない。それに抗おうすれば“悪”とされる」


その口調は、まるで幼子を諭すように落ち着いていた。


「だから、“復讐”という名目で声を上げるんだ。少数の声は排斥される。だが、その人数が増えれば? その声をあげる者に力があれば? 立場は変わるどころか逆転することさえ有り得るだろうね。……僕は、君たちにも、そう願うような何かがあると思うんだけど、どうかな」



双子は沈黙した。

二人はまるでお互いの存在を確かめ合うように手を取り合う。



「トト様とカカ様に、届くのカナ?」


「届けるんだよ。ぶつけに行くんだ」


「ねぇねたちに触れてくれるんですの?」


「触れさせるんだ。相手の認知を変えてね」



双子は見上げた。太陽など知る由もない暗闇の中で、その光を求めるように。


そして、互いに握った手に力を込めて。

互いの目を見つめて。


笑う。




「その話、受けますわ」

「何をすればイイ?」




彼らの復讐劇が始まった──。








「まさかアシュレイに気づかされるなんてね」


「何をです?」


「別に。独り言だよ」


双子と一旦別れた深海からの帰り道、アルフォンスはふと呟く。


アシュレイが双子に向けた言葉は、図らずして闇の少年にも希望を与えていた。


少年は、天使を殺したこの世界へ、“悪”と決めつけられた奪われる側という立場からの復讐として、闇雲に動いていた。

同じ目に合わせ、その傷の痛みを味わわせてやることしか頭になかった。


しかし、心に巣食う虚無感がずっと拭えなかった。

それもそうだろう。

その先が、ないのだから。



同じ目に合わせた後は?


その傷の痛みを味わわせた後は?


何が得られるというのだろう。


快感? 達成感? 否、虚無感だった。


なぜなら、そうしたところで、失ったものは戻ってこないからだ。


復讐はただの手段に過ぎない。

その根本は、本質は、アシュレイが言ったように“認知してもらうこと”だった。


天使の清らかさを。


闇の潔白さを。



ただ、幸せを望む一人であることを。



そして訴えるのだ。


悲しみを。憎しみを。

それを抱くことすら許さないこの世界に。



少年は、天使を失ってから初めて、生きることに意義を見出した。



「さてと。ここからが本番。復讐劇の開幕だ──」




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