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“貴方様”の正体


アレシアとリヒトの再会は、少年にとっては眩しすぎるものだった。

無意識にも()()との再会という夢を重ねてしまう。


そんな想像をかき消すように視線を彼らから外すと、隣に立つ邪神竜を見た。


「キミ、そんな姿になれるなら早く教えてよ。そうしたらもっとラクできたのに」


「聞かれてもいないことに答えなきゃいけない道理はない」


鼻で笑うようにして言った邪神竜に、少年は溜息をつく。

しかし今後、何かと動きやすくなったことに変わりはない。

少年はプラスに考えることにして、過去への思考をやめた。


「じゃあ、やりたいことも終わったし、道草は終わりにしよう。さっさと出て次の国に行かないと、火王様に何て言われるかわからないからね」


そう言って少年は来た道を戻り始める。

歩みを進めながら、彼は隣を歩く邪神竜に問いかけた。


「あのさ、僕と君の物理的な距離があるとき、僕の意識を君と繋げることはできる?」


「は? 何でそんなことを聞く?」


「君に手伝ってほしいことがあるんだ」


「ほう? この俺様を使い走りにするのか」


邪神竜の声のトーンが急激に下がる。――が、少年の次の言葉で機嫌が一転した。


「五属性全ての魔法を使いこなす奴がいるんだ。僕の姿は知れてしまってるから会えないんだけど……興味ない?」






太陽と月(ヘリオスセレーネ)に来た時と同じ時空の裂け目を通って森の中へと出たのは、邪神竜のみだった。


そしてそれを出迎えたのは、五属性全ての魔法を行使できる陰陽の聖騎士団現団長――


「貴様がその“ジュリア・アディンセル”か?」


――“貴方様”と呼ばれるその人と、その御一行である。


「そうよ? でもどうして、アンタがあたしの名前を知っているのかしら。限られた人だけしか知らないはずなんだけど」


亜麻色の髪はウェーブがかり柔らかい印象を与えるも、ウルフカットにされた髪が彼女の気高さを主張する。

そして何よりも印象的なのは、その瞳――ヘーゼルアイだ。複数の色が混在している瞳は、この世界では彼女しか持ち得ないだろう。


「ほう? この俺様を前にそんな毅然とした態度とは。誉めてやろう」


「あら、それは光栄ね? それよりも、その姿のまま、堂々とあたしの前に立った理由わけを聞かせてもらおうじゃないの」


邪神竜は口角をあげると、腕を組み、まるで見下ろすかのようにジュリアを見る。


「情報交換だ。貴様が求める“奴の居場所”と引き換えに、【名無しの双子】の居場所を教えてもらおう」


「……なるほど。【名無しの双子】がいるところに彼が現れるってことね」


ジュリアは青年を見定めるようにしばらく見つめ、やがて笑みを浮かべた。



「――いいわよ。乗った」



その言葉に、邪神竜だけじゃなく、彼女の取り巻きも驚きに瞠目する。彼女の取り巻きからは、悲鳴に近い抗議の声があがった。


「いくら貴方様とはいえ、国家機密ですぞ!? その情報を差し出したとなれば、さすがに貴方様でもただではすみませぬ!!」


「それが何か問題でも?」


「なん、ですと……」


愕然とする取り巻き達に構うことなく、ジュリアは続ける。



「あたしはあたしの思うが儘に動きたいの。立ち塞がる敵がいるなら倒すだけでしょう。――ね?」



それは、牽制だった。

“敵”に成り得るのなら、例え味方だったとしても、彼女は容赦しないだろう。


彼女に圧されるように、言葉を飲み込み黙る取り巻きに満足したのか、笑みを深めたジュリアは青年に向き直った。


『国家機密だから、心話で失礼するわね』


邪神竜は一連のジュリアの行動に、噴き出すように笑う。

そして一頻り笑った後、ジュリアの心話に応えた。


『元よりそのつもりだ。貴様、なかなか面白い性格をしているな』


『それはどうも? それより、【名無しの双子】の居場所よね。――彼女たちなら、地上には居ないわ』


『と、言うと?』


『自然と一体化しているってこと。彼女たちは地下の主人となっているわ。彼女たちの飼い主の下でね』


『なるほどな。一応聞くが、それ以外に情報はあるか』


『あたしが提示できるのはここまでよ。十分でしょう?』


二人が互いに威圧的な笑みを送り合うと、次の瞬間、青年の背後に時空の裂け目が現れる。


「待って。彼は、あたしのことをアンタに何て言ったの」


「何も? 五属性全てを使いこなす奴、としか」


「じゃあ、伝言を頼むわ。




――いつでも待ってる、と」







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