再び灯される光
邪神竜が要求したのは、彼の眷属になることだった。
リヒトは肉体のない、それも欠けた魂のような状態。それを他者のもので代用する形であっても、肉付けすること自体が輪廻の理に違反する。
それを超える理由が必要らしい。
竜と魂自体が一体化した状態にあるリヒトを邪神竜の眷属にするという名目で、輪廻転生の理から外れたことへの理由付けとし、眷属としてこの世界で役割を果たすために肉体を授けるという形式にする、というのだ。
その素材として、既に死んだ者の体を媒介とする、というものだった。
死んだ者の体をどうこうできるのも、最高神の一人である邪神竜だからこそである。
「ただ魂はその耳飾りに依存している。当たり前だが、貴様はあくまでも人間の魂であって、神にはなれない。それでもいいか」
リヒトは邪神竜の問いに迷いなく頷いた。
「もちろんです。体をまた授けてくださるだけで、恐れ多いことですから」
その言葉を聞くと同時、リヒトの足元と横たわる死者の体の下に、金色の光を帯びた黒い魔法陣が広がる。
「ならば与えよう。新しき器を」
邪神竜の一言と共に、二つの魔法陣がそえぞれ光を増し、リヒトの姿が光に包まれ、死者の体は光に溶けていく。
その光の輝かしさは魔力の質の高さを示すが如く眩しく、圧倒的な魔力の圧を感じた。
やがて光が収まっていき、魔法陣も消失して、リヒトが瞑っていた目を少しずつ開いていく。
「リヒト……眼が……」
彼の鋭い瞳孔の眼は、元の赤みがかった黒色だけではなかった。
片眼が、邪神竜と同じ金色の瞳――それは、彼の眷属である証であった。
闇である証の黒髪、リヒトという人間であった証の赤みがかった黒い瞳、リヒトの相棒の形見でもある赤い光沢を放つ黒い鱗、そして邪神竜の眷属である証の金色の瞳――それが、リヒトの新しい人としての姿だ。
「…………」
リヒトは自身の手を握りしめ、開く。それを数回繰り返した後、口元に笑みを浮かべた。
そして、アレシアに手を伸ばす。
過去のリヒトの姿が重なる――。
――アシュレイの部屋の窓から、彼女を“家族”のもとへ連れ戻した、あの時のように。
――躊躇する彼女の心を、後押しするように。
『「ほら、早くしろ」』
その言葉に、アレシアは伸ばされた手を掴んだ――瞬間、彼女の体は引っ張られ、優しい温もりに包まれる。
温もりを、感じた。それがひどく、彼女の心を震わせた。
「おかえり、リヒト」
「ただいま、アレシア」
再び、彼女の心に光が灯る――。




