再会
「リヒト……? ほんとに……リヒトなの……?」
絞り出すようなか細い声は期待に震えていた。
「あぁ。随分待ったんだぞ? ……ったく、このままずっと気づいてもらえなかったらどうしようかと思ったぜ」
アレシアをからかうような、悪戯心が垣間見える話し方は、紛れもなくリヒトのそれだった。
呆れた表情でわざとらしく溜息をつきながら、やれやれと首を左右に振る。
アレシアは目の前の状況に理解が追いつかない。
死んでしまったと思っていた彼に、もう一度会えることがあろうとは。
震える手を伸ばし、リヒトに触れようとする。……が、その指先が彼を通り抜けてしまう。
抱かざるを得ない期待は虚しくも簡単に破られ、アレシアは今の状況が夢ではないかと疑った。
「大丈夫、夢じゃない。現実だ」
触れられない事実に、通り抜けた手を呆然と見つめ、期待がしぼんでいくアレシアにリヒトが言う。
彼女の視界に映るよう屈んで、安心させるように微笑みながら。
そう、彼は、そういう人だった――、いつも光を与えてくれる人。
アレシアの頬を溢れる感情が伝い、それに伴うように声が零れる。
「感動の再会で盛り上がっているところ悪いけど、もう一つやりたいことがあるんだ」
そんな二人を見ていた少年が、彼らに話しかけた。
「あくまでも“魂”であって、実体は伴わない。――けど、方法がないわけじゃない」
それはアレシアだけでなく、リヒトも初耳だった。少年が何をしようとしているかは定かではないが、不穏な雰囲気が漂う。
そんな中、少年の背後に時空の裂け目が現れ、その中から彼が取り出したのは――死体だ。
「これ、今が使い時かなって。どう? キミならできるでしょ。邪神竜くん」
少年が発した名前に、アレシアとリヒトは耳を疑った。
「そんな、まさか、邪神竜様と契約しているのか!?」
「異例なことも純粋な闇だからなのかと思っていたけど……、そんな、まさか……」
恐怖に近い感情に汗が滲む二人に構うことなく、反応がない邪神竜に少年は続けて言う。
「この世界の人間は神に作られたんでしょ? キミ自身だって人間の姿になれる――」
そこで少年はハタと気づく。邪神竜の人間の姿を見たことがないことに。
「――え、できるよね? 下位の神たちができるのに、まさか邪神ともあろうお方ができないなんてこと」
「できるに決まっているだろうが。愚弄するのも大概にしろ」
いつも脳内に響くように聞こえるというのに、真横から聞こえた声に目線をやると、そこには、癖のある濡れ羽色の長髪を高く一本に結び、金色に光る切れ長の目を持った青年が立っていた。
服は黒い布何層か重ねて纏ったようなもので、少年は顔をしかめる。
「あー、服の解像度低いね」
「貴様……その口ごと顎を喰らうぞ」
腕を組み、仁王立ちしている青年――邪神竜は、少年を睨みつけ鋭い歯を見せつけた。
「そんな怖い顔しないでよ。それで? 肉体を持たせることはできるの?」
少年の問いに、邪神竜は溜息をつきながら答える。
それは、一人の創造主としての答えだ。
「できないことはない。――が、条件がある」




