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Berlin nacht 1

ギルバート家のリビングではDELUGEとロートレックのCDが交互に流れていた。

ふたごのちびっ子たちは曲に合わせてダンスしている。ラルちゃんにも踊らせようと奮闘していた。


「シンディ、DELUGEはいいけどロートレックは車の中とかで聞いてくれないかな?」


やんわりとレイクが苦言を呈した。


「ダメよ。子供たちの情操教育よ。過去のロックは歴史の勉強。デスメタルは前衛ロックの勉強。あとはレイクがギターを教えてくれれば完璧なんだけどな」


気のせいか最近よくロートレックの名前を聞くことが多いなとレイクは苦笑した。この前はバンドの練習で久しぶりにマイクに「ロートレックのレイク・ギルバート」と呼ばれ、家にはいつのまにかロートレックのCDが侵入していた。

それでもロートレックの曲が流れると指が自然に動いてしまう自分にはあきれてしまう。


リビングの電話が鳴った。シンディは「はいはーい」と言いながらCDのボリュームを絞って子機を手にした。その顔がみるみる輝いた。逆にレイクには不吉な予感がした。


「レイク電話よ! クリス・スペンサーって名乗ってる!」


「クリスから?」


シンディから子機を受け取ると自分の寝室につないだ。


電話を終えリビングに戻るとシンディが目を輝かせて待っていた。


「すごい! ロートレックのCD聞いてたらクリス・スペンサーから電話がかかってきたなんて。パパに言ったら大騒ぎだわ。またサイン欲しいって言うわね」


イーサンが選んだ女性シンディの屈託のない明るさにはいつも救われるとレイクは思った。

クリスからの電話はレイクにはとても重い内容だった。


「ロートレックを期間限定で再結成しようと思ってるんだ」


とクリスは言った。


「再結成?」


「昨今のブームだよ。けっこうあの頃のバンドが再結成してるのは知ってるだろ?」


「それは知ってるけど」


「それでレイクにも参加して欲しいんだ。エヴァンに聞いたよ、もう悠々自適な生活なんだろ?」


「エヴァンと会ったのか?」


クリスはDELUGE絡みでエヴァンと面識があることを告げた。


「いい息子を持ってるな、レイクは。その意味でもキミの選択は正しかったよ」


選択、という言葉がレイクの耳に刺さった。バンドを去る選択、バイであることを封印する選択。そして恋人を捨てる選択。


「返事は急がないから。いい返事を待ってるよ」


と言ったあとでクリスはつけ加えた。


「ベルリンのライブ、キミとのラストライブだったけど。あの時の熱狂を忘れたかい?」


忘れるわけがない。レイクの中でも最高のステージのひとつだった。そして永遠に忘れてしまいたい夜でもあった。


「ねえねえ、聞いてイーサン。今日はすごいミラクルがあったの」


夫婦の寝室でシンディは夫に話した。


「ロートレックのCD聞いてたらなんとクリス・スペンサーから電話があったのよ」


「へえ? 父さん、まだメンバーとつながりがあったんだ。で何の話だったって?」


「知らない。ちょっと聞けない雰囲気だったもの、だから私わざとふざけちゃった」


「クリスって母さんの葬儀にも参列してくれたんだ。バンドのリーダーだった人らしい」


「そうなんだ。DELUGEのデビューもクリス・スペンサーの推しで実現したらしいわね」


「なんか最近わが家にロートレックブームが来てるな」


「あら、私は生まれた時からロートレックブームの渦中よ。パパのおかげで」


と言いながらシンディはパソコンを開いた。


「聞かず嫌いのあなたに今日はロートレックの動画を見せてあげる」


「別に嫌いだなんて言ってないさ。父さんがなんとなく触れられたくない感じだったから息子としては遠慮してたんだってば」


「なら、なおさら再認識なさい。ロートレックの神的なすごさを」


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