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エヴァンの場合 2

スーザンの家。あの時、憔悴しきったレイクが頭を抱えていた同じソファーに今夜は息子のエヴァンが座っている。どうやらお土産は爆弾らしい予感がした。

スーザンが持ち帰ったピザを広げてビールを出してきた。


「はい、アメリカ人の魂のジャンクフード召し上がれ」


「ありがとう」


瓶ビールを一口飲んでエヴァンは切り出した。


「父さんはバイだったんだね」


やっぱりきた。爆弾がドカン。


「そうよ。あなたたちがカミングアウトした時、とっても苦しんでいたわ」


「スーザンはずっと知ってたの?」


「知ってたわよ。当時レイクの恋人にも会ったことあるわ」


エヴァンはクリスのオフィスで見た黒髪のドラマーを思い出した。

そして父の40年前の秘密を知るに至ったいきさつを話し始めた。


「そういうことだったの。驚きよね。レイクが40年間必死に封印してきた過去がまるで地殻変動によって地表にむき出しにされたって感じよね、本人が知らないところで」


「その原因の地震を起こしたのは僕たちのカミングアウト?」


「そうじゃないとは言えないけど。あの時ね、レイクも過去をカミングアウトしようとしてたのよ、止めたのは私だけど」


エヴァンは何も知らなかった。あのカミングアウトでいちばん苦しめたのはイーサンだと思っていた。

父親はもっと苦しんでいたのか。

あの時の、母の墓前にたたずむ父親の後ろ姿を思い出した。父さんはきっと母さんにすべて話していたのだろう。家族を欺いて生きてきたことを。


「父さん……」


エヴァンは絶句した。


「大丈夫? エヴァン」


スーザンが横に来てエヴァンを抱きしめた。


「それで、父さんはあのドラマーの恋人を捨てたの?」


「そういうことになるわね。今ようやく理解されてきたゲイやLGBTがあの時代どんなだったか想像できるでしょ? 当時の彼らには未来はなかったの。会社経営者がゲイだなんて社会的信用はまず得られなかったわね」


「じゃああのままロートレックに残っていたら父さんたちは別れなかった?」


「たぶん。レイクたちは今のあなたたちほど愛し合っていたもの」


クリスのオフィスで見た父親と恋人の笑顔がよみがえってきた。それにラルフの顔が重なった。

無理だ。僕には無理だ、ラルフと別れるなんて絶対無理だ。


「ねえエヴァン、私もひとつだけ荷物をおろしていい?」


エヴァンはうなずいた。


「レイクも知らないことだけど。ルイーズの葬儀の時ね、彼来てたのよ、レイクの元恋人……」


「え?」


「ずっと離れた場所であなたたち家族を見ていたのよ。私ね、テレビカメラが回っているのがどうしても許せなくて抗議に向かったの。もちろん彼はテレビ局の人間じゃないけどテレビクルーの後ろに紛れていたのね」


スーザンは続けた。


「目が合って声をかけようとしたらあわてて立ち去ったわ。でも泣いてたわ、彼」


エヴァンはすっかり混乱していた。今すぐラルフに会いたい! 


「ごめんね、私もずっとそのことを背負っていたの。レイクの中ではすでに終わった過去の恋愛だったかもしれないけど、元の恋人の中ではずっと続いていたんじゃないかとその時思ったの」


スーザンは強い酒に変えた。それをエヴァンにも勧めながら続けた。


「誰かに言ったら自分は楽になれるの。でもときに相手は傷つくわよね」


「スーザン、ちょっと泣きたい気分だよ。泣くのはいつもラルフの方なんだけど……」


声も出さずに泣く甥をスーザンは抱きしめることしかできなかった。

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