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Wheel 2

「まさかキミがレイクの息子だったとはね、いや驚いたよ」


クリストファー・スペンサーのオフィスをエヴァンとラルフは訪れていた。もちろんDELUGEの正式なマネジメントはすでに所属事務所であるスペンサーのスタッフに移り、ステージお兄さんとしての任務も完了していたが、DELUGEを世に出した功績者としてクリストファー(クリス)から招待を受けたのだ。


「母の葬儀に参列していただきました。ありがとうございます。こっちは友人の」


「ラルフ・アンダーソンです」


右手を差し出したラルフは見事に好青年を演じていた。


クリスは当時のことを思い出した。ロートレックを去ったレイクとはその後一度も会うことなくお互い別の道を歩んでいた。バンド解散後もクリスは業界になくてはならない存在として多忙な日々を送っていた。

そんなある日ニュースで痛ましい事故が報道された。トレッキング中の主婦が灰色熊グリズリーに襲われて亡くなるというショッキングな食害事故だった。


「被害者のルイーズさんのご主人、ただいまのお気持ちを」


リポーターの不躾で反吐が出そうなインタビューのマイクを手で遮った悲劇の夫の顔を見てクリスは小さく叫んだ。


「レイク!」


憔悴しきった表情の夫の映像の画面下にははっきりと「レイク・ギルバート」と名前まで出ていた。

葬儀に、クリスは駆けつけた。小雨が降りしきる中での葬儀の様子までテレビ局のカメラクルーが狙っていて憤りを覚えた。


「やあクリス、来てくれたんだ。ありがとう」


かすかな笑顔を作ったレイクの側らにふたりの息子が悄然と立ちすくんでいた。


その弟の方が弁護士の友人とともに今、オフィスを訪れているエヴァンだった。運命というのか縁と呼ぶべきなのか、クリスは不思議な感動を覚えていた。


「今日はビジネスではなく古い友人の息子としてキミと話していいかな?」


「もちろんです」


「ありきたりな質問だけどレイクは元気にやってるかい?」


「はい、事業の実権はほとんど兄にゆずってそのサポートをしながら悠々自適に暮らしています」


「失礼だが、会社の方は?」


「おかげさまで順調に伸びています」


「それはよかった……」


レイクがロートレックの正式メンバー入りを断ったのは父の事業を継ぐためだった。父が病に倒れるまでは好きな音楽で生きていくつもりだった。家族もそれを認め応援してくれていた。だが事情は変わった。


「あの、もしよかったら」


エヴァンは思いきって聞いてみた。


「父のむかしの話を聞かせてもらえませんか?父は過去の話はいっさいしません。ロートレックに参加していたのもなんとなくの周り人の話で知りました」


「夢を断ち切ったからレイクも辛かったんだろうな。素晴らしいミュージシャンだったよ」


そこに電話が入った。「失礼」と言ってクリスは電話で少し話したあと


「ちょっと席を外していいかな?申し訳ない。夜は蟹を予約してあるんだ。しばらくむかしの写真でも見ててくれ、小一時間で戻るから」


と言いながらふたりの前にノートパソコンを開いて保存してある画像を選びもう一度「本当に申し訳ない」と言うとオフィスを出て行った。


「忙しそうね、さすがクリス・スペンサーね」


と本来の姿に戻ったラルフが言った。


「こっちの業界ではもはや重鎮だからね」


マウスを操作しながらエヴァンは答えた。


モニターには次々と古い写真が現れた。演奏中のもの、ホテルでのプライベート写真、ヨーローパの観光地のもある。


「あら! もしかしてこれがお父さん?」


「髪、超長い! パンツのすそが広がってる! ファッションがレトロ!」


「あたりまえでしょ!ていうかまるでイーサンじゃない?」


「ほんとだ、兄さんそっくり! ロン毛の兄さんだ!」

 

初めは笑いながら画像を見ていたふたりだが、そのうち口数が減ってきた。


「ねえ、ラルフ」


「うん……」  


ふたりは顔を見合わせた。


「いつもいるよな、このひと」


「うん」 


「父さんの横にいつも一緒に写ってるよな」


演奏中以外の写真のどれにも父親の横に同じ人物がいた。演奏中の写真からそれがドラマーだと判明した。ただ並んで写っているのならまだ偶然と言えなくもないが、その人物と若い父親は常に密着してた。肩を組み、腰に手を回し、顔をくっつけて笑っている。マウスを操るエヴァンの手が若干震えていた。次のページを開くのが怖かった。ラルフもモニターから目が離せなくなっていた。はたして次のページには。


「OH MY GOD!」

 

エヴァンが小さく叫んだその写真には。ホテルと思われるベッドの中で父と例のドラマーがふざけて抱き合ってカメラに向かって笑いかけていた。その上半身は裸体だった。


「エヴァン、あなた大丈夫?」


ラルフはエヴァンの手を握った。エヴァンは完全に放心していた。


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