20世紀の遺物
「ラルちゃーん」
ギルバート家のリビングでツインズが巨大テディベアと格闘している。
「ラルちゃんの負けー」
「ラルちゃんて……もっとひねれよな、ネーミング」
イーサンは笑って子供たちを見ていた。
その背後の壁ではテディベアと戯れている、会うことも叶わなかった孫たちを永遠に歳をとらない祖母が笑顔で見守っていた。
ドアチャイムが鳴った。イーサンが出てみると宅配業者の荷物がふたつ。どちらも同じような梱包。しかもどちらも妻のシンディ宛だった。
「シンディ、キミ宛の荷物が届いてるよ」
キッチンに向かって声をかけた。
「やったー! もう届いたんだ、ネットで注文してたの。あれ? こっちは何かな?」
身に覚えのない方の差出人はラルフだった。
「あ! DELUGEの新作! キャー! 最高!」
DELUGEはラルフの幼なじみがボーカルをしている人気急上昇のデスメタルバンドだ。そのデビューになぜかエヴァンとラルフが絡んでいたらしく新作が出ると律儀にシンディに送ってくるのだ。
そしてもうひとつの荷物はこれもCDだった。
「そっちは?」
と問うイーサンの目の前にCDを近づけて
「ジャジャーン! 20世紀最強のロックバンド、ロートレックよ」
「げっ」
「失礼だわ。レイクにも私にも私のパパにもずいぶん失礼だわ! 撤回なさい!」
「わかったわかった、悪かったよ。まさかいきなり前世紀の遺物のCDをつきつけられるなんて思わなかったものでね」
「私はロートレックの曲が子守唄だったの! そんな恵まれた環境で育ったのっ!」
ロートレックの大ファンだったシンディの父親はイーサンが大のお気に入りだった。イーサンと、というよりロートレックのレイク・ギルバートの息子と娘がつき合っているというまさかの事実を知ったときには激しく感動した。
結婚が決まって初めて二つの家族が会食をする時、シンディの父親がいきなりレイクにサインして下さいと言って妻に叱られたのも懐かしいエピソード。
「父さんが帰ってきてその遺物を見たらどんな顔するかな。あれでなかなかシャイだからな」
「楽しみねー。レイクにそろそろグレッグとセシリーの英才教育始めてもらおうかしら?将来のロックスターよ、あの子たち。そして私は最強のステージママになるの」
将来のロックスターたちは今はまだテディベアのラルちゃん相手に格闘家になるべく修行中だった。




