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NEO LAUTREC

クリス自らが運転する車で三人は郊外の閑静な住宅街にやって来ると、一軒の邸宅の敷地内に車を乗り入れた。


「アポなしアポなし」


クリスがいたずらっ子みたいに言うところをみるとクリスの家ではなさそうだ。

ドアチャイムを鳴らした。応答はない。クリスがドアを力まかせに叩いたがやはり応答なし。家人は不在なのか?

しかしイーサンとエヴァンはドア越しに聞こえる音に気づいていた。

ドラムの音だった。

クリスはスマホを取り出すと電話をかけた。


「ドアあけてくれよ、ジョーイ」


ほどなくしてドアの向こうに人影が現れて鍵を外す音が聞こえた。


「なんだい? クリス急に……」


ドアを開けながらその人は言った。

汗に濡れた黒いTシャツの半袖から出ている腕はラルフみたいに太いとエヴァンは思った。

黒髪の、ちょっと白髪交じりだがその人はまさしくロートレックのドラマーだった。

クリスの後ろに立つふたり、特にイーサンを見た彼の目にはたちまち驚きの色が広がった。


「レ、レイク?」


「その息子のイーサンとエヴァンだよ」


クリスは言った。ジョーイは言葉を失っていた。


「今日は通いのお手伝いが休みなんだ。そこらへんに座ってて」


リビングに通された3人にジョーイは言った。


「ビールはまずいよな、車だろ?」


とキッチンからジンジャーエールの缶を持って戻ってきた。

イーサンはジョーイが意識的に自分の方を見ないようにしているのに気づいた。


「あらためて紹介するよジョーイ。レイクの息子のイーサンとエヴァンだよ」


「はじめまして、イーサン・ギルバートです」


「エヴァンです」


「ジョーイ・クレイクです」


三人は握手した。その時はじめてジョーイはイーサンの目を見た。


「そんなに父に似てますか?」


イーサンが笑いながらたずねた。


「いや、レイクかと思ったよ。自分はこんな年になってるのにそんなわけないんだけどね」


「今日はイーサンとエヴァンがレイクのバンド参加の件でやって来たんだ。もちろんこちらとしては大歓迎なんだけど、いかんせん演奏するのは息子たちじゃないからな」


と言うクリスに


「やっぱりレイクは固辞したんだね」


ジョーイの声のトーンが下がった。


「当然だね」


そう続けるとジョーイは肩を落とした。


その時クリスのスマホが着信を告げた。


「おっと秘書からだ」


クリスは立ち上がって電話に出た。


「いや、大丈夫。運転中じゃない。え? つないでくれ」


クリスは相手が変わった電話に向かって大声で言った。


「わかった! ただし条件がある! 22時までにこっちに来い。1分でも遅れたら仲間に入れてやらないぞ。おっと、ギターだけは忘れるなよ!」


電話を切ってクリスは叫んだ。右手の拳を天に突き上げて


「レイク・ギルバート。参加決定! ロートレック完全復活!」


そして続けた。


「1分でも遅れてみろ、蟹の店のラストオーダーに間に合わない」



ドラマチックなその日の出来事をエヴァンとイーサンはそれぞれの愛しい人に語っていた。


エヴァンの場合。

とにかくラルフを抱きたかった。いつもより激しく強く攻めたてて、そして果てた。


「ねえ、それからどうなったの? 教えてよ」


と甘える恋人の髪をなでながら語ったのは以下のはなし。


ジョーイとクリス、クリスが緊急招集をかけたバンドメンバー。それにイーサン、エヴァンが待つシーフードの店にレイクは空港からタクシーでやって来ることになっていた。

エヴァンはどんな顔をして父親に会えばいいんだろうと思っていた。ここにいるはずがないイーサンとエヴァンである。気まずくなるのは嫌だな。


ライトをつけたタクシーが店の前に停まったのが、大きなガラスがはめ込まれた店内から見えた。降りてきたのはまぎれもなくレイクだった。その表情までは見えないがギターケースだけはしっかり携えているようだ。


ガタン! と椅子が倒れた。


椅子が倒れたことにも気づかずに立ち上がったジョーイが駆け出した。

店に向かって歩いて来るレイクと店から飛び出したジョーイが一瞬立ち止まった。


レイクはゆっくりギターケースを地面に置くと駆け寄るジョーイと抱き合った。

いつまでもいつまでもふたりの影はひとつになったままだった。


その話を聞いたラルフはそれはもう大変なことになったのは言うまでもない。

そしてその姿にエヴァンが再び欲情したのも言うまでもない。こっちもひとつになった。


そしてイーサンの場合。

レイクとジョーイの再会のシーンでシンディも泣いた泣いた。そして


「そのあと、あなたとエヴァンがいることを知ってどうなったの?」


とたずねた。


再びシーフードレストラン。

長い長い抱擁を終えたレイクとジョーイが店に入ってきた。レイクは40年ぶりのロートレックメンバーの中に息子たちの姿を見つけるとたちまち化石と化した。

そこにクリスがひとこと。


「素晴らしい息子たち、イーサンとエヴァンの依頼によりレイク・ギルバート、キミをロートレックの正式メンバーとして迎える」



ギルバート家。

「父さんの荷物、送ってあげなきゃな。ライブに向けてしばらくあっちで暮らすって」


「えー? そんなの困る。グレッグとセシリーに誰がギター教えてくれるのよ?」

 

「そっちかい!」


「あ、そうそう、パパにロートレック再結成のビッグニュースを知らせなきゃ。まだ公式発表前だけど。ロートレックのレイク・ギルバートの自慢の息子と結婚した特権よね?」


と言いながらシンディはレイクの息子にキスをした。


          THE END


「Puff, the magic dragon」より歌詞の一部を引用させていただきました。




 



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