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ロートレック

クリス・スペンサーのオフィスにイーサンとエヴァンはいた。

イーサンに言わせれば「出張」というのは嘘ではない。前社長である父親を、自らが作った堅牢な砦から救い出すための出張だった。


「レイクからは参加を断る返事をもらったよ」


「そうですか……」


と落胆するエヴァン。


「今日は父をなんとかステージに立たせて欲しいとお願いに伺ったのですが……」


とイーサン。


「でも僕はまだあきらめちゃいない。他のメンバーも。ドラマーもね」


クリスの口からドラマーという言葉が出て、イーサンとエヴァンはちょっと緊張した。


「父とドラマーの、あの、ジョーイさんとのことは僕も弟も承知の上で今日は来ました」


「そうか、エヴァンにはこの前は悪いことをしたね」


「悪いこと?」


とエヴァン。


「昔の写真だよ。キミたちに見せる前にいくらでも隠すべき写真は隠すことができたんだ。でもあえてそれをしなかった」


「わざと見せたんですか?」


エヴァンはちょっと不快そうに言った。


「DELUGEの件でキミと会うことになってちょっと調べたんだ、キミがレイクの息子だと知ったときは本当に驚いたよ。そしてキミがどんな人物かもっと知りたいと思ったんだ。それで写真を見せるか見せないか決めるつもりだった」


エヴァンもイーサンも黙ったままだ。


「これでも年をとったぶん、人を見る目はあると自負している。ちょうどロートレックの再結成の話も出ていた。言い方が悪かったら許して欲しい、僕は賭けに出たんだよ」


クリスは続けた。


「レイクがこの計画に参加する可能性なんてほとんど0だということくらいわかっていた。そこにキミが現れた。イチかバチかの賭けに出たんだ。そしてキミには写真を見せるべきだと判断した。でもこれだけは誤解しないで欲しいんだが。ロートレックの再結成は営利目的では断じてない。もちろん再結成ライブが実現したらそれなりの収益は発生するだろうがそんなことは大した問題じゃない」


クリスは静かに、熱く語り続けた。


「僕はただ大切なふたりの友人の背負った十字架を取り除いてやりたいだけなんだ、たとえ取り除けなくてもいっしょに背負ってやることもできるしね。ちょっとクサいけど。僕にとってロートレック時代は人生のいちばん輝いていたときだったんだ。レイクとジョーイにもそうであって欲しかった」


「クリスさん、ぜひお願いします! 父を救ってやって下さい」


イーサンがクリスの目を見つめて懇願した。


「でもクリスさん。僕には父のありのままの写真を見せてもいいと判断したのはなぜですか?」


エヴァンが心の中にくすぶっていたわだかまりを質問した。


「そりゃあキミと友人の弁護士のラルフくんを見たらわかったよ、キミほど父親を理解できる息子はいないだろうってことくらい。これでも人を見る目はあるほうなんでね」


エヴァンは赤面した。


「そして今日こうやってキミ達兄弟がレイクのために僕を訪ねてきてくれた。実はひそかに待っていたんだよ。僕は大いに感動している。ところで蟹好きかい?」


「蟹? ええ好きですよ」


とイーサン。


「この前はごちそうさまでした」


とエヴァン。


「よし、じゃあ蟹を食べよう!とびっきり美味い蟹を。その前にちょっと寄り道してもいいかな?」


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