鍵となるもの
昔、この世界には妖精と竜族しかいなかった・・・。
古の書から、それは語り継がれてきた。
この平和は永久に続いたことだろう。
しかし、突然とした、ちっぽけな事件でその平和は音を立てて崩れ始めた。
「・・・ふぁぁぁ」
起きると、そこにはふかふかのベット。
こんな朝は久しぶりだ。
しばらく、温かいぬくもりに触れていると・・・。
「あ、起きたか?」
ドアが開く音と共に彼が入ってくる。
「あ、うん。おはよう」
「ん。おはよ」
気付いた彼はこの部屋のカーテンを開ける。
暗闇に目が慣れていたせいか、降り注ぐ日差しが眩しかった。
アーミアはベットから降りる。
すると、ルシアは言った。
「ゆっくりしたら、そろそろ出るか?」
それは昨日約束したこと。
しっかりと覚えていたんだ。
・・・ゆっくりなんてしてらんない!!
「ううん!すぐ行く!」
ぐちゃぐちゃになった髪の毛を手でとかしながらいそいそと用意を始めるアーミア。
それを見たルシアは。
「そんなに急がなくても、俺はどこにもいかねぇって」
急ぐ彼女を、ルシアは微笑しながら眺めた。
そんなこんなで、彼らは街に出る。
相変わらず人が多くて賑やかだ。 こんなにも賑やかなのに、何故人種差別など、いらない法があるのだろうか・・・・。
不意に昨日のことを思い出してしまった。
それは、アーミアが妖精と人間のハーフだということ。妖精と人間とのハーフは最大の人種差別の対象だった。いや、“何かとのハーフ”悪い言い方だと“何かとのあいのこ”は世界が認めない。
そんな事を考えていたら・・・
「・・・れ?」
今まで隣にいたアーミアがいなくなっていた。
「ちょ・・・!?」
ヤバくないか!? もしかして、連れ去られたんじゃ・・・。
そう思い、周りを見渡す。
すると・・・
「わぁ!キレー・・・」
「・・・・・」
ポカーンとその姿を見るルシア。
その先には店のりんご飴に釘付けになっているアーミアの姿。
「ねぇ!ルシア、綺麗だよ!!」
目を輝かせながら太陽の光で反射して光るりんご飴を手にするアーミア。
「あれまぁ!ルシアの子だったのねぇ」
「あぁ・・・いや・・」
店の店員の言葉にぎょっとするルシアに対し、アーミアは自分が危ない位置にいるということを微塵にも思ってない様子。 どうも、アーミアの性格に慣れないルシアは。
「それ、一個頂戴」
「え!?」
ルシアはお金を店員に渡す。
「毎度~!」
りんご飴を買った彼らはそそくさとその場を後にする。
ルシアの後をヒョコヒョコと着いてくる少女。
そんな彼女に疑問をぶつける。
「なぁ、オマエさ。そんなに堂々としてて怖くないのかよ?」
「・・・・?」
何が何だか分からなそうな顔をしている。
ルシアは彼女の頭を指さしもう一つ付け足す。
「髪飾りの件もあるし、そんなにのんきにヘラヘラしてていいの?ってこと」
すると、やっと分かったようだ。
加えていたりんご飴をおいしそうに食べながら答えた。
「だって、逆にオドオドしてたらおかしくない?」
「は?」
あたかも当然のように口にする。
それと同時にアーミアの肩に乗っているルナがルシアと睨みつける。
「だから、縮こまってたらそっちこそ怪しい人に見えちゃうじゃん。だから、周りの人たちと同じように振る舞ってた方がバレやすいのもバレにくくなるでしょ?見た目は、耳だけ抜いて普通の人間と同じなんだからさ♪」
尖った耳を触りながら分かりやすく説明する。
それに賛同するかのように「キュキュウ!」と元気よく鳴く。
「・・・!」
ルシアはこの時、何かを感じ取った。
アーミアは・・・本当にハーフなのか、と。
「なぁ、そこの」
「・・・?」
アーミアの近くにある男が近づいてきた。
・・・怪しいな・・・。
そう思ったルシアは彼女の前に出た。
「何か用っすか?」
「・・・あっいやっ」
ルシアがいるという事を知らなかったのか、いきなり挙動不審になる男。
ローブを被った男はルシアが目をそらしたすきに逃げ出そうとした。
「あ、コラッ!!」
それに気づいた彼はローブの先端を捕まえ、奴の胸倉を掴んだ。
そして、上から睨みつけるように威圧する。
それに対して、アーミアは彼の背中にピッタリくっついている。
・・・逃げ出そうとしたとはいえ、怪しい奴には変わりない。
少し怯えているようだ。
「誰だ。オマエ」
無表情で攻め立てるように言う彼は獣のような瞳をしている。
赤い瞳が、燃えているようにも見えた。
「・・・っ!スイマセン!!」
この声で一気に注目の的になる。
周りは野次馬でいっぱいになる。
人が集まれば集まるほどこっちには不都合だ。
やはり、みんなの目がいくのはルシアの後ろにいる彼女だ。
「クソ・・・。ちょっとこっち来い」
ローブの男の胸倉を掴んだまま、ルシアとアーミアは狭い路地裏に入っていく。
昼のせいで太陽が真上にあるせいか、路地裏もいつもよりは暗くない。
「・・・んで?何でコイツに声かけたんだ?」
「・・・ぁの・・・」
声が震えていた。
その彼の目にはルシアの腰につけている剣が映る。
殺られるとでも思っているのだろうか。
「・・・ちゃんと言ってくれれば何もしないよ・・・」
はぁ・・・と軽いため息をつく。
ボソボソとだが言葉を並べていく。
「僕・・・その髪飾りのこと・・・知っていて・・・」
「・・・!」
「どんな!?どんなことを知っているの!?」
身を乗り出し、必死に問いかけるアーミア。
「その話をするには・・・まず、誰もいないところで話がしたいです・・・」
すると彼は被っていたローブを脱いだ。
とても可愛い容姿をしていた。
15~17歳の間くらいだろうか。
「僕の名前は、フォバレーゼ・アシムと言います。・・・アーミアさんの髪飾りの・・・第一責任者だったんです・・・」
と彼は言った。




