ふりかえる
ある日の昼休み。会社近くの店で昼食を食べたあと、少し休もうと思って公園に入った。そこは商業施設に隣接する広い公園で、大型の遊具の他に、フリスビーのできる芝生の広場や、水遊びのできる噴水などがあって、周囲を遊歩道がぐるりと囲んでいる。人気のない小さな広場を選んでベンチに腰掛けた。
平日の昼間は人がまばらで、木々に囲まれた小さな広場の周縁に置かれたベンチは、ぽつんと取り残されたように静かだった。遠くの遊具のあたりでは、まだ就学前の子どもたちの甲高い声がし、保護者が子供の名前を呼ぶ声も風に乗って途切れ途切れに聞こえていた。風が通ると、木々の葉が擦れる音がして、それが公園全体のざわめきと混ざっていた。
ベンチの前の地面には、鳩が数羽歩いていた。利用者の昼食のおこぼれをもらうことがあるのだろう、十数羽の鳩が集まってきて、地面をしきりにつついたり、ベンチの周りを警戒心もなくうろついている。
よくある光景だ。特に気に留めることもなく眺めていたのだが、そのうちの一羽が妙に目についた。首の向きに違和感があったのだ。その鳩は他の鳩からもやや離れた場所にいて、こちらに右半身を見せていた。
他の鳩は首を前後に振りながら動き回っているが、その鳩はじっとして動かない。どうやら何か気になるものがあって向こうを向いているのだ、と合点する。昔から近視で視力にはあまり自信がないのだが、鳩の顔がのっぺりして見えるのは後頭部しか見えていないからだろうと思った。
なんとなく「振り返らないだろうか」と思いながら見ていた。しばらくして、その鳩がクルッと首を回した。正面を向いたはずなのに、その横顔には凹凸がなかった。目も、くちばしも、凹凸の影もなかった。そのつるりとした頭を前後に揺らしながら歩き出す。
一拍おいて、心臓がはねた。背中に冷たい汗が伝う。
さっきまで自分は、鳩のような「顔のないなにか」と見つめ合っていたのだ。その後姿を観察しているつもりで、得体のしれない何かもまた、私をじっと見ていた。
その「顔のないなにか」はもう私には興味を失ったようで、他の鳩の群れる中へ向かって歩いていった。その歩き方は普通の鳩と同じで、首も前後に揺れていた。
さっきの角度は、もうどこにもなかった。




