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隣の席の黒髪巨乳美少女は俺にだけ甘い ~練習期間から始まるビタースイーツラブ~  作者: きたみ詩亜


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第1話 赤いリボンと、まだ甘くない距離

 二月の教室は、どうしてこうも落ち着かないんだろう。


 理由は分かっている。

 バレンタインが近いからだ。


 女子たちが机を寄せ合って、「友チョコどうする?」とか「本命いるの?」とか、妙に楽しそうに騒いでいる。


 俺――武松潤は、そのざわつきを聞き流しながらノートを取っていた。


 黒髪短髪、紺のブレザー。

 成績も運動もそこそこ。

 特に目立つことのない、平均的な男子高校生。


 ……のはずだ。


 ただ一つだけ、誰にも言っていない特技がある。


 お菓子作り。


 クッキーも、ガトーショコラも、わりとちゃんと作れる。


 でも、それを隠している理由は簡単だ。


 隣の席にいるのが、森山由依だから。


 紺のブレザーに赤いリボン。

 肩までの黒髪はさらりと揺れて、光を受けると少し茶色がかる。

 ぱっちりした目に、気の強そうな眉。

 笑うとえくぼができる。


 そして——


 制服の上からでも分かる、ふわりと丸みを帯びた胸元。


 ブレザー越しでも主張する柔らかさは、なんというか……マシュマロみたいだ。


 俺は慌てて視線をノートに戻す。


 見てない。今のは事故だ。


 森山はクラスの中心だ。


 毎年この時期になると、女子たちに小分けにラッピングしたお菓子を配る。


「森山、今年も可愛い!」


「ありがと。ちょっと作りすぎただけ」


 さらっと言う。


 女子限定で。


 俺には一度もない。


 それが普通だ。


「なに、潤」


 不意に声をかけられる。


 顔を上げると、森山がこちらを見ていた。


 赤いリボンが胸元で揺れる。


「別に」


「欲しいなら言えば?」


「女子限定だろ」


「当たり前でしょ」


 即答。


 ツン、と顎を上げる。


 こういうところが、森山だ。


 距離は近い。席は隣。


 でも、壁はちゃんとある。


  ※


 その日の放課後。


 俺はコンビニにいた。


 目的はシャンプーと洗顔フォーム。

 本当にそれだけだ。


 なのに。


 お菓子コーナーの前で、見覚えのある赤いリボンを見つけた。


 森山だ。


 真剣な顔で板チョコを見比べている。


 カゴの中にはラッピング袋も入っている。


 俺は思わず声をかけた。


「森山?」


 びくっと肩が跳ねる。


 振り向いた顔が、みるみる赤くなる。


「な、なに」


「何してんの」


「べ、べつにいいでしょ?」


 露骨に動揺している。


「チョコ選んでるだけだし」


「女子に配るやつ?」


 森山は一瞬固まる。


「……違う」


「違うのか」


「違わないけど!」


 どっちだ。


 俺がシャンプーを持っているのを見ると、森山はじっとそれを見つめた。


「潤こそ、なんでここにいるの」


「日用品」


「……ふーん」


 なぜか少し安心した顔。


「誰かにあげるのか」


 何気なく聞いた瞬間、森山の表情が曇る。


「関係ないでしょ」


 その声は、いつもより小さい。


 翌日から、森山は少しだけ俺を避け始めた。


 目を合わせない。


 挨拶も短い。


 昼休みは女子の輪の中。


 放課後はすぐ帰る。


 三日間。


 理由が分からない。


 バレンタイン前日。


 帰り際、校舎裏を通ると、家庭科室に灯りがついていた。


 こんな時間に?


 なんとなく覗く。


 中にいたのは——森山。


 一人で。


 エプロン姿。


 赤いリボンは外し、髪を後ろでまとめている。


 真剣な顔でチョコを混ぜているが、明らかに慣れていない。


「あっ」


 小さな悲鳴。


 チョコが分離しかけている。


 俺は思わずドアを開けた。


「火、強すぎ」


 森山が振り向く。


 驚きと焦りが混ざった顔。


「な、なんでいるの」


「たまたま」


 嘘だ。気になっていた。


 テーブルには、少し歪なチョコ。


 市販の板チョコの空箱。


 俺は察する。


「女子に配るやつは?」


「もうある」


 即答。


「これは?」


 沈黙。


 頬が赤い。


「……自分で作りたかったの」


「なんで」


 森山は視線を逸らす。


 ブレザーを脱いだシャツ姿。

 マシュマロみたいな柔らかさが、余計に目立つ。


 俺は慌てて視線をチョコに戻す。


「ちゃんと、作りたかったの」


 小さな声。


 不器用に混ぜ直す。


 何度もやり直す。


 やっと形になったチョコは、少し歪んでいた。


 森山がぽつりと言う。


「……あんまうまくないな、これ」


 悔しそうに笑う。


 俺は一つ口に入れる。


 少しビター。少し硬い。


 でも、ちゃんと甘い。


「うまいよ」


 森山が顔を上げる。


「ほんとに?」


「ほんと」


 沈黙。


 心臓がうるさい。


「森山、ありがとう」


 自然に出た言葉。


 森山が固まる。


「な、なんで潤がお礼言うのよ」


「なんとなく」


 しばらく見つめ合う。


 そして、小さく。


「……女子限定じゃないの、これだけだから」


 鼓動が跳ねる。


「じゃあ誰に——」


「ばか」


 真っ赤になって睨む。


 でも目は逸らせない。


 バレンタイン前夜。


 赤いリボンは、まだツンとそっぽを向いている。


 けれど——


 ほんの少しだけ、甘くなり始めていた。

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