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第5話|困り始めるのは、向こうだった

王宮では、何かと手間取る日々が続いていた。

茶会の準備はいつまで経っても整わず、王妃は眉をひそめる。


ーアンネリース様がいた頃は、こんなことはなかったのに…


そう、誰もが思う。

夫人や子女、侍女やメイドたちも同じことを思うが、口には出さない。


書類の回覧も、噛み合わないことが増えた。

元婚約者の王子クラウスは、文官や大臣の報告を前

前に少し困ったような顔をして、重ねて尋ねた。


「これは…一体、どういうことだ?」


かつてアンネリースが間に入って整理してくれていた段取りや確認が、今は誰も補えない。


王宮内でも、小さな衝突が起きていた。

庭師と侍女の連携がずれ、炊事を担当する女性は手順を誤る。

すべては、以前ならアンネリースが取りまとめていたため、彼女がいないと自然に混乱が起きるのだった。


外交に関する問題も、ちらほらと浮上する。

宴の席や外務のやり取りで、王子は愛想や自分を立てることを優先し、結果として相手の国に微妙な誤解を与えてしまった。

昔なら、アンネリースが一歩前に出て、控えめながらも的確な助言や対応をしてくれていたはずだ。

今この混乱に、王は頭を抱え、大臣や外交官たちは、肩を落とし、静かに「アンネリース様がいた頃は…」と口にする。


――けれど、アンネリース本人は、このことを何も知らない。

王家がしぶしぶ婚約破棄を認め、実家には多額の補償が渡されていることも、王子本人には伝わっていない。


彼女は今日も、静かな屋敷で、紅茶を一杯手にしているだけだ。

そうして、王宮では小さな混乱が少しずつ広がっていく。


けれど、アンネリースは変わらず、日常を丁寧に紡いでいくだけだった。


カップを手に、紅茶の香りを楽しみながら窓の外を見る。

庭先では、屋敷の使用人たちが慌ただしく動いている。――一人一人が丁寧に仕事をこなしているのが分かる。


遠くで、誰かの声や蹄の音が聞こえる。

王宮か、あるいは元婚約者か……ふふ、どちらにせよ騒ぎは私抜きで回らないらしい。


それでも、今日の紅茶は邪魔をしない。――少なくとも、今は。

登場人物


アンネリース・フォン・ローゼンヴァルト

18歳/ローゼンヴァルト公爵家令嬢

物静かで礼儀正しいが、内面は非常に落ち着いている。

一人の時間と紅茶を愛する。婚約破棄にも動じない安定した自己肯定感の持ち主。



王妃

ベルンシュタイン王国王妃。

王子の母。息子可愛さで婚約破棄を王と共に渋々了承。

アンネリースの力量を理解し、王宮での混乱に眉をひそめる。



クラウス・フォン・ベルンシュタイン(元婚約者)

18歳/ベルンシュタイン王国第一王子

王族らしい自信家。母と父の庇護で自由に育つ。

喝采や舞台に慣れ、伴侶には自分を引き立てる存在を求める。

王宮内の混乱には無自覚。アンネリースの不在を知らない。

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