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第1話|婚約破棄のあとで、紅茶を淹れました(連載版)

「――以上をもって、婚約は解消とする」

第一王子クラウス・フォン・ベルンシュタインは、澄んだ青の瞳でそう告げた。

金髪が光に揺れ、背筋はまっすぐ――まさに王子様然としている。



広間には、わざとらしく息を呑む音がいくつか落ちる。

私は一拍置いてから、ゆっくり頷いた。


「承知しました」

淡い青のドレスは今回の式のため、彼が用意したもの。

髪はきちんと結い上げ、鏡に映るのは物静かな公爵令嬢。


――18歳らしい取り乱し方は、していない。



「……弁明はしないのか?」

王子が眉を寄せる。

評価されることに慣れた彼ならではの戸惑いが見える。


「必要でしょうか」

その一言で、彼は一瞬言葉に詰まった。

泣くか縋るか――そんな展開を想像していたのだろう。


「君は、王妃としては感情が見えない。もっと明るく、民衆受けする妃が必要だ」


「そうですか」



――ああ、これは“推し違い”ですね。



私は静かに納得しただけだった。

彼は喝采の中で輝く舞台を求める人。

私は静かな時間と紅茶を愛する者。

求めるものが違うなら、仕方がない。


「では、失礼いたします」

礼をして踵を返す。呼び止める声はなかった。



屋敷に戻ると、部屋は驚くほど静かだった。

事情を察した使用人たちは、頭を下げるだけで余計な言葉はかけない。


「お疲れでしょう。お茶をお淹れしますか」


「ええ……いえ、今日は自分で淹れます」


湯を沸かし、茶葉を測り、カップを温める。

この一連の所作は、昔から変わらない。

こうしていると、余計な感情がきれいに沈む。

カップに注がれた琥珀色の液体から立ち上る湯気。

鼻をくすぐる香りは、いつもと同じ。


「……美味しい」


それだけで、今日は十分だった。

次のことは、また明日考えればいい――紅茶をもう一口飲んでから。

登場人物


アンネリース・フォン・ローゼンヴァルト

18歳/ローゼンヴァルト公爵家令嬢

物静かで礼儀正しいが、内面は落ち着ききっている。

紅茶と静かな時間を愛する。




クラウス・フォン・ベルンシュタイン

18歳/ベルンシュタイン王国第一王子

王族らしい自信家。喝采や舞台に慣れ、伴侶には自分を引き立てる存在を求める。

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