第3話 道具を作ろう!
朝日が木の葉の隙間から差し込んできて、私は目を覚ましました。
「ん……朝……?」
体中がバキバキに痛いです。落ち葉のベッド、思った以上に固かった……。
「いたた……首が……腰が……」
ゆっくりと起き上がって、木の空洞から外に出ます。森の朝は爽やかで、小鳥たちのさえずりが響いています。
「えっと、今日は……家を作らないと」
昨日の失敗を思い出します。魔法が使えない。力も普通。つまり、全部自分の手でやらないといけません。
「まずは……道具? そう、道具がないと木も切れないし……」
天界にいた頃は、何でも魔法で解決していたので、道具なんて使ったことがありません。でも、下界の人間は道具を使って家を作るんですよね。
「斧とか……ノコギリとか……」
でも、そんなもの持っていません。というか、お金もないので買えません。
「じゃあ……道具も作らないと……」
途方に暮れました。道具を作るための道具がない。これ、どうすればいいんでしょう。
お腹が「ぐぅ~」と鳴りました。
「あ……朝ごはん……」
昨日のフォレストアップルの木のところに行って、果物を三つ採って食べます。やっぱり美味しい。でも、果物だけじゃお腹がいっぱいにならないんですよね。
「お肉とか……パンとか……食べたいなぁ……」
でも今は我慢です。まずは家を作って、それから村を探して、お金を稼いで……
「よし! 順番にやっていこう!」
気持ちを切り替えて、まずは道具作りです。
「えっと、人間は石と木で道具を作るって聞いたことがある……」
周りを見渡すと、ちょうどいい大きさの石がいくつか落ちています。手に取ってみると、結構重い。
「この石を……木の棒にくっつけたら、斧っぽくなる……?」
でも、どうやってくっつけるんでしょう。接着剤なんてないし。
「紐で縛る……? でも紐もないし……」
考え込んでいると、足元に蔦が絡まっているのに気づきました。
「これ! 蔦を紐の代わりに使えば!」
蔦を引っ張ってみます。結構丈夫そうです。よし、これで行きましょう。
まず、手頃な長さの棒を探します。腕くらいの長さで、握りやすい太さの枝を見つけました。
「これなら……」
次に、石です。平べったくて、刃っぽい形の石を選びます。
「よし、これを……こうやって……」
石を棒の先端に当てて、蔦でぐるぐる巻きにしていきます。
「むむむ……なかなか上手く固定できない……」
何度もやり直して、ようやくそれっぽい形になりました。
「できた! ……と思う!」
手作り石斧の完成です。見た目はだいぶ怪しいですが、これが私の初めての道具です。
「さっそく試してみよう!」
近くの細い木に向かって、石斧を振り下ろします。
「えいっ!」
ゴンッ!
「いったーーーい!」
衝撃が腕に響いて、思わず石斧を落としてしまいました。そして見ると、木にはほんの少し傷がついただけ。
「え……これだけ……?」
もう一度挑戦します。今度はもっと力を込めて。
「えいっ! えいっ!」
ゴンッ! ゴンッ!
何度も何度も叩きつけます。腕が痛い。手のひらも痛い。でも、木には少しずつ傷が深くなっていきます。
「はぁ……はぁ……き、きつい……」
十回くらい叩いたところで、休憩することにしました。座り込んで、額の汗を拭います。
「これって……木を一本切るのに、どれくらいかかるの……?」
計算してみます。この調子だと、細い木一本切るのに……一時間? もっと?
「うそ……」
愕然としました。家を作るには、たくさんの木が必要です。そして、この細い木でさえこんなに大変なのに、家に使えるような太い木なんて……
「ダメだ……方法を変えないと……」
立ち上がって、別の方法を考えます。
「そもそも、木を切るんじゃなくて……倒れてる木を使えばいいんじゃない?」
森の中を探し回ります。すると、風で倒れたらしい木が何本か横たわっているのを見つけました。
「これなら!」
近づいて確認します。まだ腐っていなくて、しっかりしています。太さも手頃。
「でも……これ、どうやって運ぶの……?」
試しに持ち上げようとします。
「よいしょっ……!」
びくともしません。
「むむむ……!」
全力で引っ張ります。少し動きました。でも、重すぎます。
「引きずって……運ぶ……?」
片方の端を持って、引きずり始めます。ズルズル……ズルズル……
「おもい……すごく……おもい……」
十メートルほど引きずったところで、完全に力尽きました。
「はぁ……はぁ……ダメだ……これじゃ……いつまでたっても……」
座り込んで空を見上げます。青い空。白い雲。平和な森。
「天界にいた頃は……魔法一つで何でもできたのに……」
少しだけ、弱音が出そうになりました。
でも。
「……ううん、ダメだ。諦めちゃダメ」
立ち上がります。手のひらには豆ができかけていますが、気にしません。
「私は……私は、ここで生きていくって決めたんだから」
そう自分に言い聞かせて、もう一度木の端を掴みます。
「もうちょっと……もうちょっとだけ……頑張ろう」
ズルズル……ズルズル……
少しずつ、少しずつ。木を引きずります。
途中、何度も休憩しながら、それでも進み続けます。
気がつけば、日が傾き始めていました。
「はぁ……はぁ……」
そして、ようやく昨日寝た木の空洞の近くまで、丸太を運ぶことができました。
「やった……やったぁ……」
その場に倒れ込みます。全身が痛い。手のひらは真っ赤。でも、達成感がありました。
「これで……木材が一本……」
空を見上げます。夕焼けが綺麗です。
「明日も……頑張ろう……」
小さく呟いて、フォレストアップルを一つ食べてから、また木の空洞に戻りました。
今日も落ち葉のベッド。でも、昨日より心地よく感じました。
「少しずつ……少しずつ、進んでる……」
そう思うと、嬉しくなりました。
二日目の夜。私は少しだけ、この生活に慣れ始めていました。




