放課後 1
退屈な授業も無事に終わり、このまますぐにでもGOHOMEしたいのだが今朝のボクシング部見学の件が頭によぎっている。先輩はいつでもいいとは言っていたが、こういうのは早めに終わらせるに越したことはない。だが、行きたくない、めんどくさいと心の中で大声で叫んでいる。
自然と昇降口に行こうとする足を無理やりにでもリングに向かわせよう。そう思ったのだが、考えてみれば俺はボクシング部がどこにあるのかを知らない。これで行かない、いや、行けない理由が出来たので昇降口へと足を再び進めようとすると、下駄箱の陰から爽やかなツラが顔を出した。
「あれ、鼓太郎? ボクシング部を見に行くんじゃないの?」
なんつうタイミングで出てくるんだよこいつは、もはや狙ったとしか思えんぞ。
「ボクシング部の場所を知らないからまた今度行こうと思ったんだよ、悠お前こそ何してるんだ?」
「俺? 俺は鼓太郎が何かにかこつけて見学に行かないだろうなと思ってたから、家の仕事にぎりぎり間に合うかどうかの瀬戸際で待ってたんだよ」
「ストーカーかよ」
幼い一緒にいるとこうも人の考え方がわかるものだろうか。俺はいまだに悠の考えはわからない、いやわかるにはわかるがわかりたくないというのが正確な回答だ。
「ボクシング部は体育館の地下にあるらしいから行ってきなよ、今日は着ぐるみは着ないんでしょ。俺は今から家の仕事だから一緒にはいけないよ、残念」
悠は肩をぐっと下げ、ため息をつく。
「なんでお前も見学に来ようとするんだよっ、てか仕事はいいのか仕事は。おっちゃんになんか言われるんじゃないのか?」
「おっと、そうだったさすがに親父に怒られるわ、それじゃ俺はちゃんと教えたからなー」
悠はローファーをコツコツと鳴らしながら昇降口を去っていった。我ながらうまく見学に行かない理由が出来たと思ったが伏兵が潜んでいたのは予想外だった。面倒だが、あんなに念を押されたら行くしかない。
「行けばいいんだろ行けば……」
再び、足をターンさせ体育館へと向かう。
体育館に近づくにつれ、バッシュがキュッキュとフロアにこすれる音が耳に響く。帰宅部にとって学校の放課後は何か異世界チックに感じてしまうのは俺だけだろうか。
体育館に着いたはいいが、どこから地下に行くのかがわからない。バスケ部に聞くのは俺の人見知りが発動して無理だ。ここまで来て引き返すのもやるせない。体育館の玄関で変な人と思われないように何か用事がある風で俺は立ち往生していた。
「あの、どうかされましたか?」
うん?
俺が体育館の玄関で上履きを脱ごうか脱ぐまいかで時間をつぶしていると、後ろから声がかかった。振り返るとそこには俺がこの学校で関わってはいけないナンバー1の月志摩京子の姿がそこにあった。
「え、あ、いや、なんでも」
なんでここにいる? 確かに月志摩は女子にしては背が高いからバスケ部に入っていたりする可能性もなくはない。でも、もう部活は始まっているし、一年生が遅れていくことなんか運動部ではダメだろう。ましてや、月志摩が遅れてくることは考えにくい。
「どこかの部活を見学されるとかですか?」
月志摩は上履きを脱ぎ、きれいにそろえてから俺に振り返る。足をそろえながらしゃがんだ瞬間にも漂う気品。むさくるしい体育館の玄関が突然、凛と澄んだような感覚になる。
「えーと、……あなたもどこか見学っすか?」
質問を質問で返すのはみっともないが、しょうがない。月志摩の真っすぐな瞳に気圧されながらも言葉を紡いだ俺を誰か褒めてほしいくらいだ。
「私は、少しボクシング部にお尋ねしたいことがありまして」
え? ボクシング部にお尋ね?
「ボクシング部に入部するんすか?」
「いえいえ、そういうわけではなくてですね。昨日商店街で困っていたところをウサギの着ぐるみを着た方に助けてもらったんですよ。私、たいしたお礼もできずにそのままにしてしまっていて。なので、地元のこの学校にボクシング部で誰か知っている人がいないかと思いまして。名前も年齢もわからないんですけどね」
最後にえへっと笑う彼女に俺は二つの意味で胸が締め付けられた。
今回も少し短いです、すみません。
何か感じたことがあればリアクションなどしてくれるとありがたいです。




