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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

むかしあたしが死んだ家

作者: 松本遊心

感情の先

 あたしは神を信じない。だってそんなものいないから。


 おじさんに笑顔で話かけられた。眼が濁っている。世の中の汚いものをたくさん見てきた眼をしている。

 おばさんは身の回りの世話をしてくれる。仮面の内側ではすごく面倒くさい表情をしている。

 あたしには感情がない。なくなった。まだちいさいけれど、いつからか人の感情を()(くせ)がついた。


 9歳の夏、実の父親に性的な暴力を受けた。はじめはなにが起こっているのか理解できなかった。

 母親はあたしが物心つくころから、このヒトに殴ったり蹴られたり、物を投げられていた。

 学校から帰って、あのヒトと家に二人きりになるのが怖い毎日になっていた。

 男は一日のほとんど家にいた。大きな瓶のお酒を紙コップで飲みながら、馬がたくさん走っているテレビをいつも観ていた。

 あたしが学校の宿題をしていると、おかまいなしに抱えられ布団に転がされた。泣いても叫んでも引っ搔いても、大きな手でほっぺを強く叩かれた。

 母はだんだん家に帰ってこなくなり、やがていなくなった。男は日々、狂ったように家の中を破壊し、それに疲れるとあたしに視線を向けた。

 学校の先生に相談した。児童相談所というところを教えられ、先生と一緒に話を聞いた。これまでのことをすべて話した。

 話を聞いた所員の男の人は、これから僕と一緒にあなたの家に行こう、お父さんと話をするから、それから後のことは考えようといった。あたしはうなずくしかなかった。

 家に帰ると、男はあたしの帰宅時間が遅かったせいもあり、眉が吊り上がっていたけど、後ろに立つ所員を見ると、一転して笑顔になった。

 子どものあたしから見ても、所員が男にいいくるめられているのがわかった。15分くらいの大人の会話は終わり、お子さんも精神的に不安定なところが見受けられるので、注意して見守りください、といって帰っていった。

 残されたあたしの記憶は、その後いくつかなくなっている。

 はっ、と意識がもどったとき、部屋中血まみれで裸の男の首に包丁が刺さっていた。布団の上でまったく動かず、見開いて濁った両眼は天井を見ている。あたしも全身が血だらけだった。そのときなぜか、裸だからシャワーですぐに洗い流せるや、と思った。


 あたしはいま保護司の老夫婦のお世話になっている。すごく感謝している。だけど・・・。 

 おじさんの眼はほんとうは笑っていない。何かを探るような視線をあたしに送ってくる。

 おばさんは慣れてきたんだからそろそろ自分のことくらい自分でやれ、と暗に告げている。


 あたしは二人に訊きたかった。「あなたは神を信じますか?」



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