第5話:空気より薄い転入生
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ナツキは、廊下を歩きながらつぶやいた。
「……なんかさ、ここ数日で、俺の常識が崩れてる気がするんだけど」
その隣で、リヴィアはメロンパンを見つめている。
「それは、玉子が支配してるせいかと……」
「いや、まだ引っ張る!?」
そのとき──教室の窓が、ガラッと開いた。
「しつれいします! セラ、遅れて登校です!」
羊の角が描かれたヘアピンを付けた少女が、勢いよく窓から入ってきた。
ナツキは固まった。
「……誰?」
「セラです! 3話から登場済みです!」
「メタ!? いや、お前いたっけ!?」
リヴィアは淡々と補足した。
「お弁当の時間、教室の空気と完全に融合していた方です……たぶん……」
セラはキリッとノートを掲げる。
「ノートには“ナツキさんは私をおぼえてない”と書いてあります!」
「未来予知かよ!?」
ナツキは眉をひそめた。
「てか、お前……どうして遅れたんだよ?」
「羊に道を聞いたら、3日かかりました!」
「お前の人生、ナビ役が草食動物なのかよ!!」
「おばあちゃんが言ってました。“道に迷ったら、羊に聞け”って!」
「そのおばあちゃんのナビ、たぶん崖から落ちるぞ!?」
「でも、羊もノートも裏切りません!」
「信頼の方向が極端すぎんだよ!」
教室の空気がザワッと揺れた。
クロエが不快そうに眉をひそめる。
「誰? その空気みたいな子」
セレスは優しく微笑んだ。
「新しい風が吹きましたわね。……空気清浄機的な……」
ナツキは思わず頭を抱えた。
「もしかして……こいつが一番ヤバいやつなんじゃ……」
リヴィアはぽつりとつぶやいた。
「セラさん、ノートに書かれてないと、自分の行動を決められないんです……」
ナツキは目を見開いた。
「それってもう……なんか信仰みたいなもんじゃん……いや、ノート依存症だろ!」
セラは誇らしげに微笑んだ。
「ノートには“わたしはだいじょうぶ”って書いてありますから!」
ナツキは遠い目をした。
「やっぱこの学校……マトモなの、俺だけじゃねーか……」
……そう思った、その時。
セラが、なぜかポーチをガサゴソと探り始めた。
「みなさんにチョコをさしあげます!」
ナツキ「今度は何!? 季節感どこいった!?」
セラはリヴィアに普通サイズのチョコを、ナツキには一口サイズのチョコを渡した。
そして──クロエとセレスには、顔よりデカいチョコを差し出した。
クロエ「……なぜ私たちだけ大きさが違うのかしら?」
セラ「おばあちゃんが言ってました。こわい人にはチョコは大きめをあげなさいって!」
クロエ「あなたね……」
セレス「まあ恐ろしいお嬢さん。ですが愛があるので、ゆるしますわ」
ナツキ「この教室、空気よりテンプレの方が濃いんだよな……」
――つづく
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