第94話 新しい修練
見直し時間が伸びていますがぎりぎり間に合いました!
■廃城、図書部屋■
「38……39……筋肉痛がやべえ!」
「悪魔様、頑張って。次が40だよね」
パクリマのシステムはすごい。それは現実のそれと変わらない痛みに切り替わったからこそ、感じることなのだろうか。
昨日の修行に引き続き、朝は腕立てを行っているのだが、とにかくきつい。今日はミーコではなく小僧が上に乗っているのだが、大して食事を食ってなかった小僧の方がミーコより軽いのに50回もできそうになかった。
「よ、40……ギブもー無理」
「まだ40回だよ? でも、数え方がなんとなく分かったかも」
小僧は俺の上に乗り、足し算の方法を覚えている。
小僧もナンナも算数から学習することにしたらしい。
こうやって上下でカウントすれば、数値を覚えるのに苦労はしないと思ったのだ。
そんな朝修行だが、周りにはミーコもナンナもいたりする。
「さて、俺は操術の次のステップに移る」
全然遊び足りないのだろう。小僧よりミーコが不満そうな顔をしている。
「えー。腕立てやろうよぉ」
「ダメだ。何せクエストが明日なんだからな。今日中に準備することがあるんだよ」
「それじゃ、悪魔様の邪魔にならないよう調理場に行ってくるね」
俺の背中からゆっくり降りる小僧を、ナンナが優しく手引きしてやっている。
ミーコも気が利くが、小僧にはまだそれほど慣れていないようだ。
「ルオ君は僕が連れて行きますね。それと主様。昨日ミンニャ様が、大きく開いた壁の様子を見に行って欲しいと言ってました」
「ミンニャが? 分かった。修行はそっちでやるか」
「そういえば今日もヨルダート様がいませんけど、どうしたんですか?」
「さぁな。まぁあのじいさんのことだ。この世界の様々なことに夢中なんだろうよ。俺に利をもたらす何かを優先してくれるし、心配は無いさ」
「きっと、王のことで感謝してるんですね。速く姫様たちも来れるといいのに」
「……俺の予想だと、あいつらはソルージュ様にこってりしごかれてるんじゃねーかなって。特にアルナーな」
「あははは……僕もそんな気がします。それじゃ行こ、ルオ君」
「うん。ありがとうナンナ」
二人を見送ると、ミーコがじーっと二人を眺めていた。
「なんかさぁ、二人ともちょっといい雰囲気……」
「バカ言うな。まだまだ子供だぜ。ミーコはおませさんだな」
「違うもん。ミーコはお兄ちゃん一筋なだけだもん」
「はいはい。なぁミーコ。時間あるならちっと修行手伝ってくれよ」
「いいの!? いっしょに行くね!」
……つっても地味な修行になるだろうけどな。まずは立ち入り封鎖にしたあの穴の場所までいくか。
■城内、奥の大穴■
前に来たときとそんなに変わってない風景の場所に来た。
確かここには市場の人らがいたんだよな。
「お兄ちゃん、ここで何するの?」
「さぁて。見て来いと言われてもな。ま、今回の修行はどこでもできる。修練の書の続きだ。無事に目標は達したんだぜ。見てな」
がれきが撤去されてるが、小石なんかはまだこの辺にある。
そのうち三つに操術を付与し……軽く動かしてみる。
「わぁ。石が三つとも勝手に動いてる」
「こいつが初歩の初歩クリアの証だ。修練の書、次のページに進むぜ。そうだミーコ。この本読み上げてみな」
「うん。ミーコだっていっぱい勉強してるからちゃんと読めるよ」
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修練の書『蒼光支配術師
支配の源編
支配の源基本概要
支配の源はその名の示すとおり、対象を支配し従属させる力を持つ。
これは生物、無機物問わずであり、付与した印の強弱や種類により支配力が代わる。
念写の籠手により与えた支配をどう使うかは修練次第。
相手に付与する方法も、直接触れる以外に手順が存在する。
印付与には多大なる労力を要する。
まずは部位支配から極めるとよいだろう。
基本技『与印術』
与印とは、相手を支配するための術のひとつである。
初歩の印は『操』。局所的に印した部位を操る術を得る。効果時間は相手の抵抗能力による。
対象に気付かれにくい基本にして崇高なる扱いやすい術である。
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『操』印術、修練その1
・片手腕立て伏せを日に100回こなすべし。
・躍動のすね当てで接近、退避方法を学ぶべし。
・念写の籠手による印の付与を修練すべし。無機物、例えば石や木材などから試すべし。
・スタミナを付けよ。さもなくば直ぐに疲れ果てるだろう
『操』印術、実践その1
・念写の籠手に支の文字を指で刻めば、発動するだろう。これは事前に記しておき発動させることも可能である。持続中は消耗する。
・同時に三つの小さなものを操れれば次の段階へ移進むべし。
※※※
「すとーっぷ!」
「えっ?」
「そこまでが前回までのあらすじってわけさ。そっからは俺が読む。良く読めたぞミーコ」
「えへへ……はい、お本返すね」
さて、初歩の次は何かな……。
※※※
『操』印術の修練その2、『飛』印術の修練その1
・スクワットを1日300回せよ。足腰を強化しさらなる躍動を。
・指弾きの練習をせよ。高音が鳴るまで繰り返すべし。
・念写の籠手で自らの肉体に『操』術を施すべし。さすればどうなるかは己で感じるべし。
『操』印術派生『飛』印術による弾印、実践その2
・念写の籠手に弾の印を刻むのだ。そして付与した弾印を対象に向け、指弾きにより飛ばすべし。
・いかに良く響く音が鳴るかで、その飛距離や効果は変化する。
・二種類存在する効果は次のとおりである。
人差し指……弾いた正面扇範囲に蒼色光を飛ばし、その範囲内の音を支配するバフを付与する。対象人数が多いほど疲弊する。
中指……弾いた正面扇範囲に蒼色光を飛ばし、その範囲内を強制ノックバックさせる。修練を積むと対象を絞り、より強いノックバックを引き起こす。
・全ての弾きが制御可能となったら次の修練に進むべし。
※※※
「……」
「お兄ちゃん?」
「なにぃーーー!? 人差し指で指パッチンだとぉーーー!」
「指パッチンってなぁに?」
「ミーコ、手を貸してみろ。こいつは激ムズなんだぞ。こうやって親指を他の指と腹合わせさせてだな……」
ミーコの人差し指版でパチンッ! っという快音が鳴った。
俺の心はそれとは逆にボキッという音が鳴った気がした。
「ちょっとだけ指が痛いけど面白いね!」
「あ、ああ……こいつはやっぱり天才なのか」
「お兄ちゃんもやってみてよ」
そうだ。できないのは現実の話だ。ここは何せパクリマの世界。
俺にだってきっと、できるはずだ!
スカッ。
スカッ。
スカッ。
「……」
「ミーコに指元を見せて。えーと……分かったぁ!」
「なんだと!?」
「お兄ちゃん、人差し指で指弾きするときにね。長い中指の位置が悪いから上手く鳴らないんだよ」
「どういうことだ?」
「だって他の指に当たって音が鳴るんでしょ?」
「他の指に……当たる?」
「うん。ミーコの指見ててね?」
するとパチリとキレイな音が鳴るが、確かに他の指に慣らしている指が当たっていた。
指のサイズ感は確かに考えて無かった。ミーコの手は小さく細かく動くから鳴らしやすいのか。
よし。なれば今度こそ!
「おりゃあーー!」
パチリッ。
パチリッ。ととても小さい音が鳴った。
よし、これなら……今度は『弾』の印を書いて……まずは壁にでも飛ばしてみるか。
「行くぜ。まずは中指から。飛印術、初歩。『弾』!」
おお! 中指だとキレイな音が鳴る。蒼白の光が確かに正面へ飛んだぞ。こいつはすげー目立つ。隠密では無理だな。
……んん? なんか壁がすげー動いたような。
「か、カベ!?」
「なんだ? カベまでは届いたと思ったが、この『弾』てのはたると対象がしゃべるのか? でも俺、中指でやったよな」
「危ないカベ。なんてことするカベ」
「……お兄ちゃん。カ、カベがしゃべってるよぉー!」
新しい修練は指弾き……だけじゃないですよジャッジさん。
スクワット300回。シャカシャカとやっていただきましょう。




