第90話 コンセントレートモンスターの噂
「49……50……無理だー。このままじゃ腕が折れる、頼むミーコ、降りてくれぇー!」
「ダメだよぉ。まだ50回残ってるよ?」
「んなこと言ってもこの体、やっぱゲームの体じゃねぇぇぇぇ! がはっ」
「お兄ちゃん、潰れないで。しっかりして!」
……しっかりして、って元からゴリラじゃねーんだからな。
今日から始める片手腕立て伏せライフで上に乗るとか、子供の体重だって鬼だろ。
「いいトドメの言葉だったぜ……」
「お兄ちゃーーん!」
「朝っぱらから何してるんですか? 遊んでる暇があなたにあるんですか!?」
早朝の片手腕立てトレーニングを行っていたら、目覚めていたミーコが上に乗ってきたわけで。
そこに訪れたミンニャが呆れるのも無理はない。
しかし遊びとはひでー表現だ。
「早速修練してんだよ」
「あら。ミーコちゃんに踏みつぶされるのが何の修行になるのかしらね」
「お兄ちゃん、まだ50回残ってるよぉー」
「早朝から俺の腕を骨折させたいのか……ああ、そうだミンニャ。宝の取り分はどうするんだ?」
「今はあなたに預けておきます。頂いても処理する時間がありませんので」
「それって信用し過ぎじゃねーの。全部使い込んだらどうすんの?」
「私の仕事を永久に手伝わせます」
「……ちゃんと避けておくわ」
「よろしい」
「そうだミーコ。拾ってきた食料品を食事作ってる人らに渡しといてくれないか?」
「うん。ねぇお兄ちゃん、お宝しまわなくていいの?」
「出しっぱなしは不用心か。ん? 腐っちまった王の食料品が混じってるな。蒼色のモモ…うおお!?」
並べられていたお宝の山をしまいながら、ヘンテコなソレに触れた途端、突然光り出しやがった!
これってまさかソルージュの力か? あれ……「どっこいせっと。ようやくじゃわい」
「ヨルダート様。なんか空気が変わったよ」
「……じいさんに小僧? それに掃除係の……」
「ナンナです。僕も本当についてこれたんですね」
「悪魔様の声?」
「かっかっか。これぞ瞬きの共犯玉という道具の力じゃ」
目の前に姿を現したのはじいさんたちだ。
さっきのヘンテコな玉から出て来たのか!? ミンニャがぼう然としてる。つまりあれだ。また厄介ごとを増やしたわけだ。
「いったいどこから入ったんですか? これでは警備の意味がありませんね」
「多分だが、俺の能力のせいだろう。三人共、昨日ぶりだ」
「うむ。早速じゃが主君よ。わしらはソルージュ様に選定された者のようじゃ。姫二人とは役割こそ違うようじゃが、主君の支えになる者としてわしらを使ってくれい」
「目が見えないから何ができるのか分からないけど、頑張るよ」
「ナンナもお掃除くらいしかできないです。ごめんなさい」
元々小僧は連れて来るつもりだったからな。ちょうどこれから人出不足にもなるとこだろうし、助かるだろう。
「ナンナと小僧はミーコと勉強。その後は思い切り遊べ。それが大人でいう仕事だろ。俺もまだまだ勉強しなきゃならねー年だけどな」
「でも、お掃除は?」
「掃除はしてくれると助かる。けど、掃除はみんなでやればいい。お城の手伝いもな。そうだろミンニャ?」
「……また勝手に。仕方ありません。新しいお手伝いを雇ったと魔王様には報告しておきます。お給金はちゃんとあなたが払うんですよ?」
「分かってるって。さて、出かける腰を折っちまった。じいさん、少し仕事があるから外すぜ。子供らを頼めるか?」
「無論じゃ。ここの書物は勝手に読ませてもらうぞい。この年にして新たな知識を身に着けられるとはのう。血沸く、血沸くじゃわい」
「姉妹二人はじいさんたちと一緒じゃないんだな」
「ううむ、あの二人はソルージュ様にちょいとしごかれておるじゃろうなぁ……」
「そうか……無事ならいいよ。んじゃ頼むな」
「ミーコちゃん、いい子にしててね。ジャッジさん、ついてきてください」
「へいへーい」
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「悪魔様、面白いお話、今度聞かせてね」
「僕もまた、掃除を教えて欲しいです」
「しっかり勉強しておけよ。そしたら遊んでやるからな」
ミーコたち三人は同じくらいの年齢だろう。じいさんとはいえ大人もいるし、しばらくは安心してみてもらえる夫かな。
大きくため息をこぼしているミンニャの後ろを追い、図書部屋を後にした。
■廃城、静かな一室■
ミンニャに連れて来られたのは、上の階の静かな部屋だ。テーブルと椅子以外は特になにもない。
話すには持って来いなのだろう。
「の隣の部屋が城内用のレンズになり、こちらの部屋は私室にする予定です」
「ふーん」
「いろいろと不足してる物がありますよね?」
「そうか? 殺風景でよくない? ……よくないね、ちゃんと買ってもらわないとね!」
……ミンニャには世話になり過ぎていて頭が上がらないというか、弱みを握られているというか。
「次々と面倒ごとを増やさないでください。報告するのだけでも大変なんですよ?」
「分かってるって。じいさんたち以外にあと二人増えるかもしれないことも先に伝えておくわ」
「……分かりました。そうやって事前に伝えてくれればいいんです」
「たはは……」
「たははじゃありません! まったくあなたときたら……」
「ストップストップ。話が進まないぜ。クエストの話をするんだろ? 俺、さっさと修行に戻りたいんだよ」
「それについてもお話します。今回のクエスト、ドルダール鍾乳洞の調査ですが、目的地は南の港付近です」
「港ね。まだ行ったことがねーかな」
俺は市場と城の周囲、そして北の森程度しかまだ知らないが、港も多数存在するようだ。
大陸中央付近にある島だから、下手すりゃ港だらけだったりするのか?
「目的は調査とありますが、クエストの役割はいくつか必要になります。ジャッジさんのこれまでのようなクエストではありません」
「というと?」
「ドルダール鍾乳洞にはモンスターが出現しますから、荒事になるでしょう。しかも周囲は鍾乳洞ですから、崩れる危険がないかも調べないといけません。そして……」
「ちょい待った。パーティーを組むって言ってたよな。そんなに沢山のモンスターが出るのか?」
「それは行ってみないと分かりませんが、ここからが重要な話です」
「悪い。続けてくれ」
「この鍾乳洞内部の地図を作製することが依頼の主になっているようです」
「地図? 入り組んでる道ってこと?」
「それだけではありません。鍾乳洞がもしかしたら地下大空洞に繋がっていて、南の大陸であるトリノポートに直接向かえる可能性があるらしいのです」
「……まじ? 船で何日かかかるんだろ?」
「必要なのはあくまで手がかりです。大空洞に接続されていた場合に限りますが、その時点で引き返して来て欲しいそうです」
「地下道を通行すれば船無しで島と大陸を結べるってわけか」
「そういうことです。道の整備が出来れば交易路も増えますからね」
重要な仕事だな。だが……参ったな。
「俺、地図なんて上手くは書けないぞ?」
「そこでパーティーというわけです。構成は全部で互名。あなたと戦士がひとり。中衛サポート役、治癒術師、そしてスカウトです」
「スカウトって……そっか、地図はそいつが書くんだな」
「集合場所は二日後早朝に南の港前です。今回のクエスト報酬は先払いにしてもらいます。先ほどの方たちを含め五名分の着替えや寝床、食事などを手配しておきますが、問題ありませんね?」
「無いよ、助かる。報酬が余ったら、ついでにここの家具でも買ってくれ。なんなら尻尾用のクシを買っても構わねーぜ?」
「にゃっ!?」
「はっはっは。んじゃ俺は修行に戻るぜ」
「お待ちくださいニャ!」
「ん? まだ何かあるのか。急ぎたいんだけど」
「北東の海岸付近にCMが出現したと聞きました。妖魔としての実力補強もお考えなら行ってみるといいかもしれません」
「コンセントレートモンスター? なんだそれ」
「同じ個体と酷似した、より強力なモンスターのことです」
「上位種か!? 直ぐ行ってみる。北東だな?」
「はい。倒せないと判断したら引き返すことも必要ですからね」
「分かってるよ。そんじゃよろしくな」
「ちょっ……もう! 扉はもっと静かにしめてくださいニャ!」
そんな猫語尾を聞きながら急いで城を飛び出した。
コンセントレートモンスター……テンション上がるぜ。どんな種のモンスターだろうか。
■廃城、入口付近■
城の入口付近には相変わらずガチウサギ……リアラット族がいるが、そいつらを飛び越えて北東を目指す。
妖魔用モンスターオーブゲットとブルールミナスの初歩特訓。
どうせなら北の森にも向かってトレントのモンスターオーブをチャージしてから向かうか。
本日二話目はCMこと、コンセントレートモンスターの噂です。
こちらはレアエネミーとでもとらえてもらえればいいかなと思います。
作者の意味合いとしては濃縮された……という意味にとらえたいところです。
濃いめのモンスター。濃厚なモンスター。
そんなニュアンスです。




