第86話 森の急襲、新たなる訪問者
また冬の寒さに戻り気味な一日、皆さま暖かくしてお過ごしください。
明日は休みですが明日から三日間分全ての幹事を務める著者です。
誰か、やってくれよぉーー!
■デイスペル国、北の森■
織田さんとの会話後、放り出されたのは元々いた場所だった。
よくしゃべる人だったな。K社か……俺が好きなゲームメーカーのひとつだ。楽しいゲームを作りたい。そんな雰囲気が伝わってくる人……いや、ウサギだった。
しかし、ヘヴィな状況だ。精神的にしんどい。
メールシステムが復旧したみたいだが、届いた数が六千件弱って。スパムメールじゃねーのかこれ……こんな状態で読めるかよ。
「あーしんどい。勘弁してくれよ。家、戻りてー。エナジードリンク飲みてー……ナギサちゃん、与那、親父……元気にしてるかな。アキトやヒナタも元気かな。学校どうなんだろ。強がったけど、これからどうしたらいいんだ……」
『あなたはもうひとりじゃない』
実際に聞こえたわけじゃない。だけど、あのときの声、優しかった。
「ソルージュ……」
『辛いとき、悲しいとき、かの者たちはきっと、あなたの助力となるでしょう。あなたがそうしたように。あなたがそうであるように』
「そういう気分でも無……誰だ!」
ぼちぼち日が沈みかけている空に、何か飛んだような影を見た。
ここは森だ。トレントが大量に出るから気を抜けない場所だった。
だが、トレントとは違う。影にしては妙に小さめだった。空を飛ぶ獣型モンスター? でも調査したときそんな奴いなかったぞ。
「貴様、なんだ」
……声だけが聞こえるが、森の中じゃ位置が良く分からない。
敵なのか?
「さぁな。なんだって言われても。姿も見せない奴に答える理由はない」
「どこから湧いた? 修行中の俺に遭遇するとは不運な奴め」
いきなり襲い掛かってくんのかよ、冗談じゃねーぞ! こっちは満身創痍でいろんな疲れのピークだ。
……半分NPCって死んだらどうなんだ? 頭のどこかに死んでもリスボーンするかもっていう余裕があったのに。
今の俺はどうだ。死んだら消滅するんじゃないのか? って不安が神経をさらにすり減らせてる。
考えんな。ストレスでハゲるぞ、俺……!
遠距離から何かを投げてきた……それだけだ。トレントの枝で簡単に防げ……「っ! 形だけ手裏剣の炎の塊!? 熱っ!」
「びびってるのか。臆病な奴だ」
初めて見るタイプの攻撃だ。炎ってこんな形にできるもんなのかよ。特別な力か? しかも裂傷と炎熱の同時性能。しかもただのけん制程度の投てき攻撃。こいつはやばい奴に会っちまった。
「びびってなんかねーよ。突然襲われたら誰だって慌てるだろ。姿を見せないお前の方がびびってんじゃねーのか」
「ふん。とんだ甘ちゃんの発想だな。関係無いだろ。死ねばその先などあるものか」
「……そこだ!」
黒い影をとらえてトレントの枝を投げつけてやった……が、確かに影はあったはずなのに、そこには何もない。
「どこを狙っている。俺が見えないんだろう?」
くそ、眼下のモンスターオーブ、なにかセットしておくべきだった。どうする、どうすれば……右手を挙げて仲間を呼ぶ? やり方が分からねーんだよ、ソルージュさん、大事なとこだけ勿体ぶるなよな。とにかく奴を見つけないとどうにもならない。
挑発して油断を誘うべきか。
「ざけんな、見えてるわ! お前の黒い姿がくっきりとな!」
「ほう。少しは見えているのか。それならこれはどうだ。見えまい」
……あれ、適当に言ったんだけどな。黒い服でも着てるのか。
素早く動けることに心酔してるタイプだ。実は全然見えてないんだけど。
木と木の間を行き交っているのだけは分かる。
俺を直接攻撃しないのは余裕のつもりか、あるいは力を誇示したいだけか。一か八か! 行き交う間にトレントの根っこを張って絡ませてやる。
「そこだ!」
「……残像だ」
「がはっ!」
根っこを張って捕らえたと思ったのに、その影は消えて代わりに俺の体ごと吹き飛ばされた。
トレントの木が近かったからぶつかってなんとか大怪我にはなってない。
お陰で周囲のトレントが動き出しちまった。俺が接近し過ぎて初めて動き出すんだよな、こいつら。
「ちっ。軽い体だ。雑魚が動き出しやがった。しまいにするか」
「待てよ。いきなり攻撃だけして、はいさようならってか。冗談じゃねーぞ! ただでさえこっちは虫の居所が悪いってのに」
周囲を観察するが、奴の姿はやはり見えない。
「ふん。ならせいぜい強くなることだな。その程度の実力じゃ、下等な虫を踏みつぶすのと大差ない」
「言ってくれるじゃねーか。今は本調子じゃねーだけだよ!」
「口だけは達者だ。じゃあな。つまらない奴」
……一瞬、その言葉を放った間を見逃さなかった。赤く光る眼。
そこに思い切りトレントの枝を投げつけると、わずかにかすめたようだ。
「ちっ……」
「おとといきやがれ。ざまあみろ。クソ野郎」
「まぁまぁの殺気だった。しかしなんだこの枝は。ふざけてるのかお前。まぁいい、今日だけは見逃してやる。命拾いしたぜ、お前」
「誰が変な奴だ! 名前くらい名乗っていけ!」
「弱い奴ほどよく吠える。いいだろう。俺の名は夜影。弱いまま次に顔を合わせたら、その首、離れてると思いな」
突然襲ってきて好き放題。くそ、タイミングが悪いだけなんだよ!
だが、襲われてはっきりしたことがある。
……足が前に出なかった。近づくのすら怖いんだ、今の状況が。戦って死ぬかもしれない自分が。
だからもう、現実のことやジャッジメントのことをごちゃごちゃ考えるのは止めにした。
俺が生きてなきゃどうしようもねーんだ。
強くなって、守らねーといけねー。誰かが助けてくれるなんて甘えた考えでいたら、また何かあったときどうするつもりだ。リルがまた助けてくれるのか? そんな都合よくいくわけない。
まずは……城に戻ろう。
■修復中廃城前■
城の近くまで行くと、不愛想なガチウサギが数人城の前で道をふさいでいた。
入ろうとする俺に待ったをかけてくる。
「お前ぇ。誰みょん」
「みょん?」
「知らない顔みょん」
「変なやつみょん」
「みょん……」
「雷帝の城に何の用だみょん」
「雷帝に仕えてるんだけど」
「腕章どこみょん服違うみょん?」
「そっか腕章、腕章ね……」
「あーーーーーー! お兄ちゃん! 帰ってきた!」
腕章どうしたっけと考えていると、ミーコが城の内側から手を振っているのが見えた。
これなら探すまでもないか。
あやうくおてんば姫にもらった方を出すとこだったわ。
「……ミーコ、ただいま」
ちょうどタイミングよくミーコが来てくれて、ガチウサギの間を通って俺を引き入れてくれた。
「なんだみょん。お前の仲間かみょん」
「うん! ミーコのお兄ちゃんだよ、みょん太さん」
「みょん太じゃないみょん。みょん吉だみょん」
「みょん太はこっちみょん」
「みょん蔵はこっちみょん」
「だー、もう! みょんみょんうるせー!」
「なんだみょん。急に怒ったみょん」
「お兄ちゃん、リアラット族嫌いなの?」
こいつらはリアラット族っていうのか。見ない間にミーコは仲良くなったんだな。
まぁ、女の子に好かれそうな種族ではある。プレイヤーが来たら大変な人気種族になりそうだ。
「ふう。別に嫌いじゃねーよ。さっき世話になったばかりだし」
織田さんは眼鏡をかけたリアラット族だったらしい。少し人寄りな特別仕様だった気もするけど、あれは課金アイテムの類だろうか? クリエイター特典ってやつか?
「ふーん。ねぇ、それよりミンニャさんに聞いたよ! 山のようなお宝を掘りに行ってたんでしょ? その、ミーコのお誕生日を気にして……別にいいのに」
……あの猫、そんなこと言ったのか!? ミーコの土産は考えてたし報酬も確かに多いけど。
「……ああ。ミンニャはいるか?」
「んーと、今日はお仕事でいないみたい。雷帝様はいるけど、会いに行く?」
「報告しないと後々怖そうだからそっちが先かな。レドのおっさんもいないのか?」
「うん。人がくる準備してるみたい。何日かしたら船旅をした人が沢山にゅーこく? してくるんだって」
「……そうか」
俺は非公開エリアにいるって話をしてたもんな。
プレイヤーが来るってことは、いよいよリリースされて、この国はプレイヤーであふれかえるわけだ。
準備はしておかないといけないだろう。
通常プレイヤーから見たら、俺はどう映るんだろう。
「それよりお兄ちゃん、頭の上、なんか光ってるよ?」
そりゃメール通知だ。今は見たくねー。オフにすんにはどうしたらいいんだ?
「……気にすんな。流行ってるんだよ、これ」
「ふーん。新しい魔法なのかなぁ。雷帝様のとこに行くなら、ミーコはお部屋で待ってるね。お土産、楽しみにしてるね!」
……なんか少し癒され疲労回復した気分だ。
少女の笑顔って魔法みたいな効果があるのかな。
「おい、お前もさっさと通れみょん。邪魔だみょん」
「へーい。そうだ、あんたらさ。さっき北の森で襲われたんだけど、この辺やばい奴いたりしないか? 夜影っていう……」
「やや、夜影!? 夜影に襲われたみょん!?」
激しく動揺してるガチウサギもといリアラット族。余計なこと言ったかな。
「……いや、やっぱなんでもないです」
結局ミョンミョン語尾に耐えかねて離脱。
なんとなく他の人らが距離を取ってたのは調子を合わせるのが大変だからじゃなかろうかと思った。
さて、アポ無しだけど雷帝、ベルベディシアのとこに顔出しておくか。
■廃城、王の間■
「ですから。何度もお伝えしたはずですわ。何もかも不足しているのよ、いるのね、いるに違いないのだわ!」
「落ち着いて下さい雷帝。こちらも話している通り、人出が全く足りていいないのですよ。同行できてもひとりまでです」
「大人数で向かえないのだわ。強力な戦力を増やせればひとりでも足りるかもしれないのだけれど、いないの。港への備えだけで手いっぱいですのよ」
「それは分かりますが……おや?」
やべー。なんか知らない男性と熱談してる最中だったわ。
腕章もつけてねーし衣装も織田さんにもらった奴だから、雷帝に怒られるかな。
にしても誰だろう? 見たことが無い人物だ。
「少々立て込んでいまして。ご用でしたらまたの機会……」
「いましたわ! 彼こそ戦力ですわ! ですからひとり付けるのですわ! そうすれば三日、いえ二日で調査を終わらせられるはずなのですわ!」
「はい?」
なんか勝手に話を進めてるような気がする。
あいさつだけしてさっさと戻り、職業のことをだな……。
「彼は?」
「妖魔ですわ。半分だけ」
「……スリークオーターなんだけど」
「スリークオーターの……妖魔!? それはどういうことでしょう? 私は何も聞いていませんよ」
「シュイール。あなたが存じてないのも無理はありませんわ。わたくしだってね。驚かされたのですわよ。あの小娘。いいえ、おばさんになったあの娘にですわ!」
……なんか微妙に言い直したけど、そこを気にしてるんだな。雷帝の前で年齢関係の話はタブーにしよう。
それにしてもシュイール? どこかで聞いたような……待てよ。
確かリルから手紙を預かった治療院の名前だったか。間違いなく関係者だろう。
「あの、もしかしてシュイール治療院の人ですか?」
「ええ。シュイール治療院は私が運営している施設です。初めまして。シュイール・ウェニオンと言います」
立派な人だな。治療院運営ってことはお医者さんなのか。
優しそうな雰囲気がある。ひとかどの人物には礼儀正しくだ。
「こちらこそ。ジャッジです。リルから渡された手紙があるんです」
「雷帝、少々失礼しても?」
「構いませんわ。その間にジャッジはわたくしの前まで来なさい」
「……血の補充ですか」
「ええ。ミーコをミンニャに任せて長らく留守にしたわよね」
「……はい。好きなだけどうぞ」
「いただきますわぁ……!」
まぁ王の間に入って俺に気付いた瞬間から機嫌がよくなっていたのには気付いていたんだけど。
血ってまずくない? とは怖くて聞けない。
血を少し瓶に入れながら真剣な目で手紙を読むシュイールという人物を見る。
苦労がにじみ出ているというか、忙しすぎて睡眠不足な顔立ちにも思える。
まさに医者の中のエリートっぽい雰囲気がある。
俺の体にある闇色のモヤ、ジャッジメントに関する力。この人なら分かるといいんだけど。
「……要件は分かりました。雷帝。先ほどの依頼、引き受けることにします。それからしばらくこの城に滞在もしましょう」
と、手紙を読み終えて顔を挙げたシュイールさんは、瓶の血をすする雷帝を見て、困惑した表情を浮かべる。
「す、少し刺激が強すぎますね」
「あらぁ。採血ならよくなさってるじゃありませんのぉ……」
「摂取と採血をいっしょにしないでください!」
「もっと言ってやって欲しい……それより二人がさっき話してた依頼って?」
「そうでしたわ。わたくしったらつい。ジャッジ、あなたに雷帝であるわたくしから直接の任務を発行します。三日後の早朝、パーティーを組んでドルダール鍾乳洞の調査をお願いしますわ」
「任務に……パーティー!?」
さてさて、新登場人物の夜影さん。正体は今のところ不明です。
お城で登場した人物、シュイール・ウェニオンさんはシュイオン先生と呼ばれるお医者様です。
ドラディニア大陸という地の出身ですが、彼は我が主のためにに登場した人物の一人です。
鍾乳洞調査という、ついにクエストらしいクエストが発行されました。
ドルダール鍾乳洞と言いますが、リスナー様方は鍾乳洞というとどのようなものを思い浮かべるでしょうか?
クエスト概要や職業関連の内容などなど、お楽しみ頂ける要素が後に控えておりますので、まだまだパクリマを楽しんでくださいね!




