第84話 そして知る己の現状
84話にしてついに現状が明らかに。
城の上へ続く階段を上って最上階へとたどり着くと、そこは素晴らしく見晴らしのいい、城から望む天守閣だった。
「いい景色だが、これを見せるために?」
「違うわい。宝物庫で良いものを発見したんじゃよ。主君よ、これを右手に持ってくれんかのう」
渡されたのは紙きれだ。しかしこれは見覚えがある。
「これ、あの図形か? 俺の右手にあるものとは違うみたいだけど」
「特別な源じゃな。この城の文献によると、建物自体がその源を利用して造られたとあるんじゃ。その源の名前は【統一】と言うらしい」
統一の源か。支配と同じくらい強い響きだ。
「これをどうするつもりだ? 源ってのは発動する対象が無いと特に効果はないんだろう?」
「そこでこの場所じゃよ。ほら、みてみぃ」
じいさんが杖を突きながら手招きする場所へ行くと、壁に白い文様があり、子供の落書きにしてはきれいな図形が並んでいた。
俺より先にシャフナーやアルナーがその壁に触れたりしているが、何も起こらない。指輪とは発動の仕方が違うのだろうか。
「じいさんはこの壁にある紋様が発動したらどうなると思う?」
「ううむ、お主らが来ぬ間に考えてみたんじゃがのう。足が生えて動いたりして」
「それはないわー」
「それはないわよね」
「ないわね」
「僕もそうはならないと思うな」
「うん。ならないと思います」
「なんじゃいなんじゃい。よってたかってロマンが無いのう」
ロマンねえ。こんなでかい城に足が生えてついて来られても困るわけで。なんなら町中破壊する迷惑な奴に成り下がるだろ。
統一のルーンってくらいだから、城の内部を好きにいじれるとか? まぁいいや。やってみよう。
じいさんから渡された紙を持つ手で壁の図形に触れてみる。すると……指輪のときと同じような反応があった。
紙は俺の右手に吸い込まれて、支配の源の下側に新たな紋様を浮かび上がらせる。これが統一の源か。
「なんか城滅茶苦茶揺れてるぞ!?」
「む? なんじゃ? わしの額があつい!」
「僕はお姉ちゃんたちが触ってたお尻が……」
「私は右のほっぺの虫歯あたりが熱いです!」
「あら、私は何ともないわ」
「私もー」
……姉妹以外みんな何かの影響を受けたのか? 支配と統一の源、どっちもすげー光ってる!?
「こ、これは……」
その瞬間、激しい光に包まれた。うっすらと眼を開けると、真っ青な空中に浮かぶ金色の輪の上に立っていた。
目がくらむような光景。その正面に薄い白衣のような恰好をした誰かが両手を広げて立っているように見える。
『二つの源を手に入れましたね。あなたの長きにわたる旅もこれまでです』
「……クエスト終了条件が二つの源を手に入れることか。あんた、ソルージュさんだろ?」
『ええ。あなたにとっての廻る天輪は、見つかりましたね?』
「絶望の先にあるまばゆい希望。そんなところかな。それでも完璧にはこなせなかったよ」
『とても良い答えです。それでは……』
「ちょっと待った! 俺が戻ったら小僧たちはどうなる?」
『あなたに与えられる職業とその力。それにより彼らはきっと、あなたが支えて欲しいときに訪れてくれることでしょう。さぁ、右手を掲げて。これは終わりでなくまだ始まりに過ぎません。あなたの新たな旅立ちに、私の祝福を授けます。天輪を知るあなたに、光の導きがあらんことを』
「うっ……」
更にまぶしい光の後、激しい風によってその天輪から落下したと思った。が、俺は地面に尻もちをついていた。
■デイスペル、北の森■
「痛つつ。とんだ祝福の風だわ。戻った……んだよな。シャフナー、アルナー、じいさん、小僧、ナンナ……誰もいないか」
右手を確認すると、紋様は宿ったままだった。なんなら着替えそびれていた下半身のコーヒーまみれも同じ状態だ。どうせならアルナーから受け取って着替えておけばよかったな。
ゆっくりと起き上がり周囲を観察する。クリア報酬と思われる数々のアイテムが転がっていた。
確認より回収が先なのは鉄則。最も重要そうなものを除いて、全てをアイテムバッグに詰めた。残したのは……職業獲得の証明書だ。
「職業獲得の証明書、使用」
『ごごけ、ごの、ググググピガガ』
くそ、ダメなのか!? 俺の状況を知るためにクリアしたようなもんなんだぞ。
「相変わらずバグって……」
『追加限定職業の証書使用を確認しました。対象となるバグの可能性大と判断します。直ちに保護エリアへ移送させます。トリプルA事態の発令を申請済み。K社担当へアクセス願います』
なんだ!? 突然周囲が固まったような。
「なにが起こった!?」
『開発担当より総括へ連絡です。バグ状況は極秘裏のものですので外部との情報をシャットアウトしますが、クエストをクリアしたことに相違無しと判断します。所定の指示に従いバグのみの修正対応を試みてください。プレイヤーへの干渉はこちらの担当指示以外禁止します』
……もしかしてクエスト中にかなり時間経過してたのかな。対象のバグってことは俺を運営側が把握したのか。
……つか、本当にパクリマ中だったんだな。
「うおおおおお!? 落ちる!」
いきなり地面に穴が開いて下に落とされた。
アイテム回収してなかったらどうするつもりだったんだ!?
『システムエラー、トリプルAの対象を確保しました』
「こんにちは、初めまして。工藤翔也君」
穴から落ちた先は文明が桁違いに進んだような場所だ。そこにいたのはGMっぽい眼鏡をかけた、ウサギ。
いやいや、もっと偉い人かもしれない。特注アバターかな。
「……なぜ俺の本名を?」
「それはテンプルヴァイスを所持しているからだね。個人情報は保護されているから安心してください」
「そっか。オメガを受け取るときに書いたもんな。率直に聞くけど、俺はどうなってるんだ?」
「状況は追って説明しないとかな。確信から言う前に職業の説明とかしなくていい?」
なんかすごくうれしそうな顔してるけど、こっちは冷や汗もんなんだわ。でも、まずは……。
「どっちも知りてーけど、一番知りたいのはそんなことじゃない。俺、生きてるの?」
「生きている。しかし我々六社だって困っているんだ。今の事態に」
「今の事態?」
「説明はするつもりだ。驚くことになるだろうけどね」
「どういうことだ? 俺の本体は病院で点滴でもしてるってこと?」
「それができたら良かったんだけど」
「わけが分からねー。まさか勝手に動いてるとでも? 無意識で動くなんてできるわけね……あっ」
「その顔は心当たりがあるんだね。実はナナフシというプレイヤーからとても悪い事態が起きた話を聞いてね」
「ナナフシ? それって確か、ゲーム攻略雑誌書いてる人だよな」
「そのとおり。ダッシュというプレイヤーがおかしいことになっているとね。そのダッシュという名のプレイヤーは自分のことをジャッジメントと名乗ったそうだ」
まさか……いや。可能性はあった。俺の本体、つまり現実の肉体をジャッジメントが乗っ取ったとでも? だが、この話し方からしてそうとしか思えない。
「……話がやばそうなんで先に楽しそうな職業の説明、聞いてもいい?」
「はっはっは、いいとも。君の得た職業、それは……蒼光支配術師。横文字が嫌なら蒼き支配者とでも呼ぶほうがいいかな。天輪を獲得し二人の姫を救った者のみが得られる隠し職業のうちの一つだよ」
「蒼き支配者……?」
『残りシステム隔離時間は10分です』
「おっと。やっぱり先に順を追って状況を話さないとダメみたいだ。私の名前は織田隼人。K社所属の開発責任者のひとりだ」
「K社の開発担当? そっか、歴史ゲーの。だから嬉しそうなんだな」
「おや、うちの会社を詳しく知ってるのかい?」
「歴史好きなんでね。俺の職業クエストは歴史絡みだったんだろう?」
「そのとおり。うちの開発陣が作ったクエストだ。ちなみに君が回した魔チャポンの中身、あれね。実装前に設置したうちの一台だったんだよ。当たりだけ全部引かれちゃったんだよね。いやー参った参った」
「やっぱ、あれもバグってたんだ」
「バグではないよ。確率を設定前だったのさ……っとそこから話すのはまずいかな。君の状況をもっと分かりやすく話そう。ズバリ、君はプレイヤーでありNPCになっている」
「……は?」
NPCでありプレイヤー。まさにバグリマスオンライン状態。
そんなことより職業の概要? ええと……ブルールミナスこと蒼き支配者については
もう少しお待ちくださいね(逃げ)




