第83話 事後処理
春の嵐。今日は出掛けるのに不向きな一日となってしまいそうですね。
■王城付近■
自分がぶっ放したブレスにより、クエストは楽に終えたんだと思う。山竜が手に入ったのは偶然。使わなかったらどうやってクエストをクリアすることができたのかも分からないほど、ここに軍勢が集結していた。
切り札は持つべし。切り札を出すならさらに切り札を持て、か。策を練る歴史ゲーでも、もう少しまともな切り札を用意するよな。
いつかは石兵八陣なんて洒落た策略の陣でも敷いてみたいもんだ。
ザッハークと戦うにしても、モンスターオーブ、装備、どちらにも不安はあった。だが、終わりよければ全て良しだ。
ついにこの、長いクエストを無事終え……たんだと思う。
天使ソルージュの導きを手に入れるまでが大変なクエストだったのかな。
思い返せば色々あった。開始位置で王が死ぬフラグが立っていたり、託されたものを読み解いて、城の内部に潜入したり。アイテムを謎解きしてゲットするのにガチャ産クエスト道具が必要だったり。
……そして、二人の姫が指輪をはめて支配の力が作用。これがクエストの要であったなら、肝心の姫二人は王の厨房で働いてて、誰だか分からない。王の厨房に配属されると必然的に悪魔のリースに目を付けられる。そして料理ができないと王の厨房にはたどり着けないフラグがありそうだし、楽ルートがあるとしたら、姫二人とは別イベントで知り合うなどするのかもしれない。
本来クエストはノーヒントじゃ進行しないから、アドバイザーがいると思うんだけど。
それも見つけられなかったな。いや、出会ってる可能性はあるか。
クリア方法はいくつか用意されてるだろうけど……それもサポート機能任せなのか?
どちらにしても、このクエストで少し自分の考え方が変わったと思っている。
昔からガキっぽい感じがないと言われ育ったが、もっと考えがじじいになったかもしれない。
経験を積めば積むほどガキじゃなくなるというけれど、経験の積み方が大事なんだと実感した。
追い込まれ、甘えられない状況ってのは本当にきつい。でもその分、得られる経験値も大きいものなのだろう。その辺はゲームとおんなじだわな。
相手はもしかしたら、ただのNPCだったのかもしれない。
それでも俺は、感情的になれた。酷いストーリーも一部見せられたが、一皮剥けさせられたってわけだ。
なんて考えてたら、肩車してる小僧が俺の目をふさぐ。
「小僧、先が見えんぞ」
「悪魔様、お姉ちゃんたちのどっちかがいたずらしてくる……」
「子供のお尻って気持ちいいの」
「うふふ、プリプリのお尻よ」
「両方やってるな……お前ら、男子のケツをいじり倒したりすんじゃねーよ」
「だってプリプリなのよ? ルオ君のがダメなら、ねぇ?」
「そうね。ご主人様のはいいのよね」
「止めろバカ。俺のはもっとダメだろ!」
「……硬いわ」
「うん、力入れてる」
「歩いてんだから当たり前だろ! ケツの筋肉は歩いてるとき重要なんだよ」
「本当に? 私のも触って確かめてみてくれる?」
「断る」
「男の人ってだれかれ構わず触ってくるって聞いたけど、嘘だったのね」
「そりゃ犯罪者の思考だ……お前らには俺の世界が持つ常識ってもんを植えるとこから始めてやる」
「面白そう。よろしくね」
「常識かぁ。苦手だなー」
……ところ変われば思考は変わる。つか、そんな発想持ってる世界に生まれなくてよかった。
追う尻はひとつにしておけ、なんて名言があるくらいだしな。
……なんで尻の思考に切り替えられたんだ? と、こんなことをやってたら、もう城は目前だ。
■王のいなくなった王城■
この城に来るのも最後かもしれない。見納めだと思ってあらためて城内を見渡すことにした。
歴史ある古城だが、雷帝ベルベディシアの城に比べれば全然マシだ。
一階部分はざっと三十部屋くらいある。
一階中央には上り階段があり、奥には地下牢へ通ずる階段がある。
二階は左右に分かれて部屋があり、東側は行くことがなかったザッハークの部屋があるはずだ。
「じいさんはどこだ?」
「さぁ。私たち、着るもの探してきてもいい?」
「そんなら俺のズボンとルオの服も探してきてくれよ」
「分かったわ。ヨルダート様の捜索は任せるね」
「んじゃ小僧を頼むよ。ついでに別の用事があるんだ」
大したことじゃねーけど。この城と城壁の間には、俺がクエスト最初に来た広めのスペースがある。兵の訓練用とかに使うところなのかな。
少し歩いてここだったかなーという場所まで来た。
「マルダースだったっけ。王様、来たぜ。あんたの息子は望み通りに止めてやったが、あんたの望む止め方かどうかは分からない。けど、この地の観光地として認められれば、それは十分他の奴らに認められたってことになるだろ。あいつの罪が消えるかは分からないけどな」
どれほど賢い王だとしても、子供の育て方まで賢くできるとは限らないから。
……それから、王の埋められた穴付近に、バッカの墓を建ててやった。これは俺の意思だ。ザッハークに仕えたんじゃなく、こっちの名君に仕えた証とする方がいいと思ったからだ。
「お前の子供は大丈夫……なんて言って、クエストから連れて帰れなかったらどうしようかって不安に思ってるんだけど。その場合ってクエスト閉じるとやっぱ世界消滅すんのか? って、お前に言ってもしょうがないよな。ははは」
……そうだ。俺はここに墓を作りに来ただけじゃない。
帰り方が分からないというか、クエストの終了条件が分からないんだ。
クエストってのは大体最初の位置に戻ると終わりの出口があったりするだろ?
それを期待したんだが、そんなものどこにも見当たらない。
そもそもだ。クエストを通じて俺が得られそうな職業ってなんだ?
ここにきてやったことをさっき思い返したが、王の調理人ってのと悪魔っぽい行動、それから死んだ王の部屋から物色する物取りみてーなことしかしてなくないか!? あとはモンスターみたいになったやつらを皆殺しに……。
やべーな。他に何があった? 下半身にコーヒーぶちまけられたり、あとはあれか。牢屋を燃やしたな。それとそれと……ヤムってやつの不意をついてこけさせたり!? ろくなことしてねー!
クエスト結果が不安になってきた。どうしよう。
「おーい。こんなとこにいたのね。ヨルダート様は見つかった?」
呼んだのはシャフナーか。この酒癖の悪い女は一応姫なんだよな。
姫二人を助けたってのはギリ勇者っぽくね? でもその姫を結果として指輪で支配したんだよな。やっぱ悪役だわ。
「……悪い、感傷に浸ってたからじいさんは探してない」
「それ、お墓? なんか元気無いけど大丈夫?」
「報酬について考えてただけだよ」
「まさか墓前に添えちゃうの!?」
「いいや。墓にそんなもの必要無いよ。俺が好きなある武将にな、こういう名言を残した人がいるんだ」
「武将?」
「まぁ聞け。その人は自らの行いを振り返り、地位を持っても人は死ねば居場所などなく、生者にこそ居場所があるものとして考えていたらしい」
「死んだ人の居場所? お墓の話?」
「まだ続きがある。その人が死ぬときも、着の身着のまま埋葬し、飾りつけなどしないように命じたんだ」
「あら。私なら死ぬ時もきれいに飾って欲しいな」
「その結果、墓荒らしにあって亡骸をさらすことになってもか?」
「……そこまでは考えて無かった。そうね、そうかも」
「その人の場合はそんな意味じゃなかったんだろうけどさ。格好いいよな」
「ええ。なんだかそんなこと聞いたら、私もお墓は質素でいいかなって思えてきちゃった。我が君ってやっぱり面白い話を沢山知ってるのね」
「その呼び方もそろそろ終わりだろう。きっと支配だって解ける」
「無理じゃない? 天子様のお墨付きなんでしょ?」
……それも悩みの種だわ。
二人で墓前に祈りを捧げた後、城内へ戻って二階を捜索し始める。そこでアルナーと小僧も二階へ上がっていたようで、じいさんではない二人が連れていた別の人物を発見することになった。
「お前、確か掃除係の!?」
「その声は確か、料理をこぼしちゃった人!?」
「おっと、顔を隠して無かった。悪いな、半分違う色で」
「ううん。平気です」
「お前無事だったのか」
「ずっとお掃除の部屋に隠れてたの。あのね、やっぱりお給金がもらえなくて。だからこっちの部屋に、逃げるための準備を少しずつしていたの」
掃除係の名前は確かナンナだったか。
こいつが言う部屋は、兵士に怒られた二階西側手前の部屋だ。
確か勝手にツボを動かしてって言ってたな。あのときから準備していたのかもしれない。
「それでね。ツボの中に食事とかを入れていたの。化け物がいて急いで隠れたから見つからなかったし、食べ物もあったから助かったの。沢山悲鳴とか聞こえてて、すごく怖くて」
「なんにせよ、だな。ひとりでも無事で良かったじゃねーか」
「ええ、そうね。あなたお名前は?」
「ナンナです。きれいなお姉さま」
「まぁ。この子、私がお世話をしてあげる」
「そんな……それよりあの、王様はどうなったんですか?」
「観光地になった。以上。んじゃ二人とも、子供たちは頼むよ。俺はじいさんを……」
と言おうとしたら、トレントの杖を突いたじいさんがやってきた。少々機嫌が悪そうだ。
「遅いぞい! 姫たちも突然いなくなりおって……いや、無事に成し遂げてきたようじゃな」
「ああ。ただいまじいさん」
「主君よ。城の最上階まで来てくれんか?」
「分かった。全員で行こう」
色々やっていたジャッジさんですが、悪いいろいろが多かったようです。
結び目はどうなるのか。そして次は起なのか転なのか。




