第76話 支配共鳴の指輪
無事試験が終わり合格しましたぁー! しかし後二つか三つほどライセンス取得せねばなりません。
指輪をはめてぼーっと見つめ合う姉妹。右手に吸い込まれた紙。
慌てるじいさんに説明を乞うと……「それは支配共鳴の指輪じゃろう。マルはきっと、その指輪でザッハークを止めようとしておったんじゃな」
「支配共鳴?」
「その指輪を身に着けた者に永続的な支配を及ぼすとされる愚術。どのように造られたものか分からん遺物じゃ。実在しておるとは思わなんだが」
愚術とか遺物とかすごーく嫌な予感がするんだけど。
「俺が右手に持ってた紙は?」
「浮かび上がった紋章を見るに、支配の源、つまり支配者の印と見受ける。文献が確かなら、そろそろ発動条件が整うじゃろう。簡単に言えば、お主は二人の姉妹の支配者となってしまったわけじゃな」
「わけじゃな。って冗談じゃねーぞ! こっちは花も恥じらう高校生だってのに!」
「なんじゃ? 高校生って」
くっそ、都合のいい代表ワードが通じねー。
今のところ焦点が合わない目をして抱き合った姉妹が口を軽く開いてぼーっとこっちを見ている。
このまま逃げるのがベターか!?
ダメだ、奴ら動き出したぞ。
「我が君」
「ご主人様」
「……うむ。やはり支配共鳴の指輪で間違いない。ふうむ、わしも礼儀を払って主君と呼ぼうかのう」
「酔っ払い系女子とズッコケ系女子を支配とか、何の罰ゲームだよ! くそ、支配されてるなら……おいお前ら、その指輪を外せ!」
「承知しました。我が君」
「従います。ご主人様」
すんなり言うことを聞いてくれる系女子になったわけ?
なぜか薬指にはめやがった指輪をさすさすしてるだけなんですけど。何してんの? 突き指治してんの?
「我が君、命令を遂行できません」
「ご主人様、ダメみたいです」
「支配共鳴の指輪は解除方法が無いという。双方が死ねば解除されるはずじゃがのう」
「……あー! この指輪があったら簡単にザッハーク倒せたかもしれねーじゃねーか! どうすんだよ!? クリア不可能になったとか言わないよな?」
「ふむ。マルはどのようにしてザッハークに指輪をはめさせようとしておったのか。どちらにしても主君。ザッハークめに狙われる十分な根拠ができてしまったのう」
「主君に我が君にご主人様って。メイド喫茶にでも来た気分だぜ……うええ」
「なんでわしを見て吐き気をもよおすんじゃ!?」
……そういやこの姉妹にザッハークはご執心なんだっけ。
「どうしよう、じいさん」
「かっかっか。今更どうにもならんわい。娘二人を助けた時点で主君には責任があるじゃろう。可愛がってやるといい。わしも含めてな?」
「うっ。うええーっ」
「アルナーよ。今度はお主か……」
「俺も吐きそうなんですけど。いろんな意味で」
つか、支配共鳴ってのはなんだ?
単純に誰かを支配するってだけじゃないのか?
「じいさん。この指輪って魔法道具だよな?」
「遺物に関しては一概にそうとは言えんがのう。それに魔術道具と呼ぶ方が最適じゃろうな。ザッハークも昔から魔術の研究をしておった。古来より伝わる魔術研究の成果が、主君の右手に宿った印に似たものじゃ」
この右手の紋章か。引っかいても何しても消えない。体の内部に溶け込んだみたいだ。もしかすると、クエストの途中経過で得られる力かもしれない。
「それは支配の源という紋章じゃろう。わしの歯にあるのは解放の源という一般的な印で、主君のものとは違うものじゃ。この源を用いて対象に作用させることを、わしらは魔術と呼ぶんじゃが……主君の考えや力と一致するかのう?」
つまり、この世界では図形っぽいこれを使って特別な力を発揮できるってことか。
少なくともパクリマの世界内とは違う魔法だろう。俺の持つ力とも全く関係ない。
「一致しないな。じいさんには説明しておこうか。俺の左半身は妖魔という化け物の体でできている。ほら、この顔を見れば分かるだろう」
「……それで顔を隠しておったのか。妖魔、妖魔……ううむ、わしの知識には存在せんのう」
「そうだろうな。源ってもんの代わりにモンスターオーブってのを体に宿すことで、最大四種の力を使役できる。そのひとつがこれさ」
小さい枝を出してみると、じいさんは改めて関心するような目に変わる。
そろそろ能力の使い過ぎだ。少し休憩しないと。
「木を放出する力など、これまでに見たことが無い。それは神に近しい力じゃな。ふむ、妖魔というのは神々しい存在なのかもしれぬのう」
神々しいね。リルやベルローゼはそんな感じがしたな。もっと神々しいっていうと、水の上に立っていた、あの猛毒王女か。あれは一体何者だったんだろう……っと、こっちの世界とごっちゃになるといけない。じいさんへの説明はここまでにしておくか。
それよりも……「お前らちょっと離れてくれない?」
「我が君、そんな……」
「おそばに置かせてください」
「支配共鳴は主従の証を強制する力があるんじゃ。言うなれば、妻というより主の盾や懐刀のようなものだったはずじゃが……主君はわしという知識の宝庫だけでなく、姉妹まで配下に入れたわけじゃな」
「……はぁ。そんじゃ共鳴ってのはなんなんだ?」
「わしにも詳しくは分からんが、何かが共鳴するんじゃないかのう?」
「なにが?」
「……色気、とかじゃったりして」
適当だなおい! 知識の宝庫じゃなかったのかよ。すでに色っぽいんだからそんなもん強化しなくていいわ。
仕方ない、どっちかで調べてみるか。
「おい、シャフナー」
「我が君、何でしょうか?」
「……少し調べるから、左側をこっちに向けてくれ」
嬉しそうに左を向けてみせるシャフナー。
どうにか解除せんと落ち着かない。でも、クエストの間だけだよな。
……おかしいな。そんな命令してないのに違う行動をとり始めたんだけど。
「あの。ひざの上に乗れとは言ってないんですが」
「ちゃんと調べて」
「姉さんずるい!」
「……お前ら、普通にしゃべれるのにわざとやってないか?」
「あれ? どうしてバレたの?」
「くすくす。姉さんと小声で話してたのが聞こえちゃったのかな」
聞こえてねーよ、命令違反した不審な行動だよ! くそ、じいさんの会話で裏合わせして、俺をからかいやがったな! 危うく語尾をだっちゃにしろとか命令するとこだったじゃないか。
「いいか、ふざけてる場合じゃねーぞ! 心配したじゃねーか!」
と、ふざけようとしていた自分に反省するように思わず声が大きくなるわけで。
「うふふ、心配してくれたんだ。私たち、そんなに操られてるって感覚はないから安心して。でも、多分だけどあなたには逆らえない。それに……何かが大きく変わった気がするの」
すっと袖をめくって見せるシャフナー。
それを見た俺の表情は曇っているだろう。
シャフナーの一部の肌色が、俺の妖魔の肌色と似ている部分ができていたからだ。
シャフナーはきれいな褐色肌だったはず。突然こんな色になったりはしない。
「どう? 我が君と同じ色でしょう?」
「ああ。その呼び方は変えないのな……体に異常はないか?」
「平気みたい。ねぇ、木の枝はどうやって出していたの?」
「説明してできるもんでもないと思う。だが、状況から考えて、俺の力がシャフナーにも宿ったと?」
「分からない。でも、自分に力強さを感じるの」
「支配共鳴の効力が、もう出始めたのかもしれんぞ」
「アルナー。お前もか?」
「ご主人様が調べてみて?」
そう言われてシャフナーと入れ替わりに同じようにひざの上に乗るアルナー。
だからやってる場合じゃねーんだよ!
少し荒っぽく肌の色を確かめるが、どちらかというと俺の右半身ぽい色合いが見て取れる。
アルナーの褐色肌はシャフナーより薄目だから、あまり目立たない。
シャフナーには妖魔の、アルナーにはヒューマンの力が宿った……のかもしれない。今のところ分かるのはそれだけだ。
ちなみに指輪は触れようにも触れることができない。
わざと絡みついてくるアルナーを押しのけているとじいさんが話を切り出してくれた。
「主君よ。驚きの出来事で途中までじゃったが、残りの道具も見せてくれんかのう?」
「ああ。お前ら支配されたってんなら俺にコーヒーでも用意してくれよ」
「うふふ、いいわね。私も飲みたいし用意してくるわね」
「からかうの、楽しいのにな。ちょっと残念」
状況を考えろ。ここ、他人の家を一時的に借りてるだけなんだぞ。
「うむ。それで残りの道具はどのようなものじゃ?」
「王の隠し部屋で見つけた道具だよ。これだ」
「むぅ!? これは……主君よ、この矛をよく見るんじゃ」
「蒼色のプヨプヨに包まれてるんだろ? それが魔法だと思ってたんだけど」
「主君と同じ支配の源が刻まれておるようじゃが、まずは置いておこう。こっちの証書は城の所有証明で、わしがマルに与えたものじゃ。手紙は……予言を記したものじゃな。読み上げるぞい」
予言書……クエスト攻略の鍵というか内容がそれか。
「異界より参られしフェリドゥーンは新たな役を欲している。彼の者、二人の王女を従え、英知なる者の助言と共に敵を討たんとす。その者、死することなく封じねば、内に秘めたる水毒がやがて世界を滅ぼすだろう。だが、方法はある。ソルージュに従い古の指輪を探すのだ。あるいはそれが叶わぬのなら、イブリースの繰り返される与奪の証を……紙が切れておるな」
「おいい! 肝心なそういうとこ! なぁじいさん。繰り返される与奪の証ってなんだ?」
「もしかするとじゃが……主君よ、すまぬ。与奪の証については少し思い返す時間が欲しい。じゃがひとつ分かったことがある。主君こそが英雄の再来なのじゃろう。この国でフェリドゥーンの名が意味するのは英雄ということじゃ。つまり主君は英雄であり悪魔なのかもしれんぞ?」
「悪魔英雄《チュウニ過ぎる呼び名》なんてそんな肩書ご免だぜ……そんで、矛は結局どうしたらいいんだろう……ってお前らまた勝手に!」
じいさんと二人で話してる間に、コーヒーを用意し終えていたシャフナーとアルナーが矛を触っていた。
本当に光物に目がないな……って矛が二つに割れてるぅ!?
まさかぶっ壊れたのか!? いや、矛じゃなくなってる? すっぽ抜けたみたいだが……「あははは……触ってたら、抜けてこうなっちゃったの」
「姉さんって怖いもの知らずよね」
「アルだって熱心に触ってたじゃない?」
変な触り方すんな。つか、俺が触ってもなんともなかったのにどうしてだ?
「ちょっと貸してみろ。戻す……ダメだ戻らねー。あれ、右手が反応したぞ」
「どうやら支配の源に関わる武器だったようじゃな。双方に何か文字が浮かび上がっておる……どれ。牛引きの殲滅槍。こっちは支配の刺突剣と書かれておる。これも遺物で間違いないじゃろうな」
つまりどっちも貴重品ってわけか。でも俺にはウスバカゲロウがあるしな。売るようにとっておくか……ってあれ。武器どこいった?
「槍が手になじむわ」
「軽いから私にも扱えそう」
「早速主君からの献上品とはうらやましいのう」
「何も言ってねーよ……って二人とも、その指輪と武器がくっついてねーか?」
「本当だわ」
「シャフナー、その槍ちょっと構えてみろよ」
「どうやって? 私、武器を振るったことなんてないわ」
「こんな感じで、こう突くのが武器……」
「えっ? 体が勝手に……きゃっ」
キャッて言いながら勝手に槍をすごい勢いで振るって正面に突き刺すどころか放り投げるシャフナー。
バッカの家の扉まですさまじい速度で飛んでいき、扉を貫いて外にまで飛んでった。
……うそだろ? お前、ゴリラの娘だったのかよ!?
「……ゴリラだ」
「ち、違うわよ! 我が君がやったんでしょ? でも、信じられない。こんな力……」
「じゃあ私が槍を持つから姉さんはこっちを使って! ……あれ? 手から離れない。どうしよう!?」
「ふうむ、支配の源についてはよく調べる必要がありそうじゃのう」
「いいから槍、取って来なさい!」
あーあ、バッカになんて謝ろう。元々あばら家だっただけに、正面の大半が吹き飛んじまったじゃねーか。しかしすげー威力だ。
こいつはもしかしたら……と考えてたら、槍を拾って戻ってきたシャフナーが慌てた様子。
「た、大変。こっちに兵士が向かってきてるわ!」
「……もう来たか」
この図形がどんなものかは考えてあるので、後ほど出て来るとは思いますが、解説をすると
キリのいいところで章が終わらなくなるのは目に見えているのでこちらは先延ばしに。




