第68話 悪魔の所業は天使の所業か
本日は不本意ながらも予約投稿です。。
バッカという男には、念のためにトレントの枝を首にぐるりと巻き付けておいた。
酷く気味悪がったので、俺をだますと呪いが発動する枝と伝えておいた。
……当然そんな効力はないが、何もないところから枝が生えるので、悪魔的力としてこの力を認識したのだろう。
こっちも裏切られたらやばいので、念には念を……ってやつだ。
バッカが向かったのは白い壁が続く何もない場所だった。
熱心に壁を叩いて音を聞き始め、数歩歩いたところで今度は地面を調べ始める。
「ありました。少し離れててください」
「何が……レバー?」
バッカがかがんだ場所には、引っ張るタイプのレバーが地中に埋まっていた。
それを勢いよく引くと、地中の中で鈍い小さな音が響いた。
少し間をおいてからバッカが地面を手で掘ると……道が現れた!? あらかじめ仕掛けておいた通路か。
「この通路はザッハーク様も知らないんです。もしあのお方に命を狙われるようなことがあれば、ここを使って逃げようと話してたことがあって」
「ザッハークってのはそんなに恐ろしいのか」
「それはもう。悪魔に魅入られた王子なんて呼ばれたりもしてます」
「悪魔ねえ……」
出来上がった隠し通路に入り、その道の入口をふさぐ。
穴は外に通じていたようで、視界が明るく広がった。熱帯地域なのか、遠くがまるで蜃気楼のように見える。
「その仮面、外しといた方がいいです」
「素顔の方が悪魔っぽいかもしれないぞ」
仮面を外すとさらに恐怖するバッカ。
……その怯えた目、傷付くんですけど。
「は、半分色が違う!?」
「ターバンでも巻いとけば少しは隠れるか?」
「そうですね。その方が安全かもしれません」
新しい衣類を少し切り裂いて頭に巻き、仮面はアイテムバッグへと放り込んでおいた。
ザッハークと会ったときは仮面姿だったし、しばらくは身に着けない方がいいだろう。
バッカに引き続き案内され、着いたのはあばら家。
……こいつはこんなところで寝泊まりしているのか?
馬小屋の方がまだマシだろうに。
「ルオ。戻ったぞ」
「父ちゃん!」
そのボロ屋の隅っこに人が座っていることには直ぐ気付いた。
だが、思わず目を背けたくなるような状況だった。
そこにはミーコと大して年も変わらないであろう、ボロ布の少年がいた。
そして……その子の両目はふさがっていた。
「これが俺の……宝です。どうか預かってやってください」
「……なに? 父ちゃん」
「今日からお前はこの人に預けることにする」
「なんで?」
「そうしないと父ちゃんは、死ぬことになるんだ」
俺はこのクエストに怒りを覚え始めている。
どの選択を取っても絶望かよ。
権力者に悪魔を殺さないと仕事を奪われるバッカという男。
そいつにとっていちばん大切なものは目の不自由な子供。
こんなボロ家でギリギリの生活をしている二人。
……俺にそんな中で生き抜いてる、子供をさらえってのか?
ふざけんなよ。できるわけねえだろうが!
と、熱くなったところで三枚目の資料にあった、気を付けるがいい。それは悪魔の心でもあるのだからという文節を思い出した。
あの鍵を使った時点で……悪魔と成り代わったのかもしれない。
「おい、バッカ」
「はい。この子は俺の生きる意味そのものですからどうぞ預かってやってください」
「いらねーよ。俺が欲しいのはもっとギラギラしたものだ。悪魔だぞ? こんなキラキラしたガキじゃない。そうだな、代わりにこのボロ家をくれ」
「……こんな家、奪われたところで」
「勘違いすんな。俺が欲しいのは多少休めるスペースだけだ。トレントの枝、量産!」
……三十本くらいでいいか。
それとダイアウルフの結晶を細い釘のように伸ばせないか試したら、こっちも上手くいった。
「この木をどうするつもりで?」
「ボロ家をお前らで補修しろ。目が悪くても父親といっしょならそれくらいできるだろう?」
「うん。僕、父ちゃんといっしょならなんでもできるよ」
「おい小僧。俺は悪魔だ。そしてお前の父ちゃんは悪魔と契約した。俺のことを口外すれば、悪魔の力が働いて、お前の父ちゃんはいなくなる。お前も、お前の父ちゃんも、俺に協力すれば幸せになれるんだよ」
「そうなの? 父ちゃん」
「……ああ。本当に俺の子はここにいても?」
「言ったろ。俺が快適に休むためにお前の息子の力を利用するんだ。連れて行ったら利用できないだろうが」
「だ、だがこれじゃ悪魔の所業じゃない。まるで天使だ……」
「おいおい。天使だ悪魔だってのは心の中にしまっておくもんだ。お前にとっても悪魔と契約したって思う方が都合がいいだろ。なにせお前が俺にやろうとしていたことは、天使の所業じゃねー」
「……そのとおりだ。いざってときは覚悟をする。もう息子の顔まで覚えられたんだ」
だから、何もしねーよ! つか、できるわけねーだろ。こっちはむしろ泣きそうだわ。
大変な子供を助けるために仕方なく親として責務を果たそうとしてたんだろう。
くそ、ザッハークだったか。酷いことしやがる。どこの日本昔話だよ。
あの場にいた他の奴らもそんなのばかりだったのかな。
人には様々な事情があるものだが、現実でもそういったことって未だにある話なんだよな。
さて……補修は任せてと。
クエスト、廻る天輪を進行させるにはどうすべきか。まずはザッハークの父から預かったものを確かめるか。
……中身は鍵と本? いや、本じゃなくて日誌かな。パラパラと日誌をめくってみると、最初こそ日々の王政などが書かれていたが、徐々に内容が怪しくなってくる。この王は、近隣諸国の荒れ具合に心を痛めていたようだ。
随分と名君だったように思えるが、子供の育て方が分からなかったみたいだ。最後の方は子供のことで後悔ばかりがつづられていた。
そして……「隠し物の在処? 部屋の本だなの裏、鏡の枠を外した中、それに王室の絵蒼色の君主の右隅に隠されたもの……か。こっちの鍵は何に使うんだろ。宝箱の鍵か?」
「悪魔様ー、補修が終わりました!」
「……その呼び方は止めろ。俺を呼ぶときはジャッジと呼べ」
「分かりました。しかしこんな良い木、この辺には生えてませんがどうやって?」
「お前には関係ないだろう。ところで、この木を五本ほど出してやるから、それを売って食い物を買って来れないか」
「あ、悪魔から何かをもらうなんて……ああ、もう出してる!?」
「早くしろ。息子だって腹を空かせてるだろう。腹が減ってたら他の仕事を頼めないだろうが。その釘も売れるならまとめて出してやる」
「それじゃ同じのを十本ほど。そうすれば当面の食糧は買って来れます。あまりジャッジ様が出歩くのは危険でしょう?」
「……俺はしばらくしたら城に潜ろうと考えてる」
「しょ、正気ですか!?」
「ああ。ザッハークの父から遺言をもらった。俺には……あいつを探らないと帰れない事情があるんだよ」
今のところ大きな手掛かりはザッハークしかない。
なれば城にもぐりこみ、ザッハークを知る手段、つまり父親の遺言に従い行動するのが手っ取り早い在ろう。
バッカは少し不安がりながらも、材木をかついで出ていった。
「おい小僧」
「なぁに?」
「目が悪くても楽しめる遊びを教えてやる。何せ俺は……悪魔だからな」
さて、この次のお話からババッと進んでいきますよー!




