第60話 依頼達成と所属国の決定
紫色の木なんて現実味を帯びていないもの、モンスターに決まっているだろうと思ったが……こいつは木だ。
あまりにも珍しかったんで、小枝を落としてアイテムバッグに放り込んでみた。
他の木の枝も少し持って帰ろう。
材木つっても斧やらチェンソーやらがあるわけじゃないし、大木を持って帰るのは無理だ。
……こんだけ拾えば十分か。エルダートレントでもいるの、期待したんだけどな……と、まだ小さいトレントっぽい根っこがある。こいつでラストにしよう。
「ポミョオーーー?」
「……小さくて変なトレントだな。子供トレント?グゴゴゴとか言わないのか」
小さな根っこを突いてみると、直ぐ近くにいるとても小さいタケノコみたいなやつが動き出した。
トレントってのはシミュラクラ現象のように、目と口があって人の顔のようなものを幹部分で表現している。
こいつには眉毛みたいな部分もあり、口や目がくりくりと動いてはっきりしているように思える。
もしかしてこういうのがエルダートレントって言うのか?
「ポミュオ?」
「悪いな。これも依頼なんだ……」
「ポミュオ?」
……うっ。なんか小さく首をかしげる仕草が小動物みたいに思えてきた。
俺はトレントに好かれる体質なのだろうか?
しかし散々同胞を倒した俺になついてくるとは……だが、相手はモンスター。心を鬼にして!
「ポミュオ?」
「俺にはできねー……そもそもこいつがトレントなのかも分からねーし。こんな小さな生物のことなんて本に書いてあるわけねーし。危険なモンスターにも見えないけど。どうしよ、これ」
「ポミュオ」
そいつは俺の持っているトレントの枝が気になるらしく、その周辺をてこてこと歩き回りだした。
トレントって根を伸ばしてるから二足歩行はしないと思うんだ。
「こいつはもしかしたら森の異変か? 魔王様に連れてって見せてみるか」
「ポミュオー」
「しかし変わった鳴き声だな……」
結局俺のそばから離れないそいつを肩に乗せて連れ帰ることにした。
討伐したのはトレントが20体ほどと、クモっぽいモンスター1体。素材はトレントの小枝20個に、俺の能力で水増ししたトレントの枝30本で合計50本。それからクモの吐き出した糸を無理やりアイテムバッグに詰め、さらに周囲の枝40本、紫色の枝5本も入れておいた。報告内容はトレントの異常な多さと紫の木がいびつに生えていたこと、そしてこの小さいトレントもどき。
短時間の成果としちゃ十分だろう。
■デイスペル、王城外■
城付近まで戻ると、ちらほらと鎧を着た人や、市場の人らを見かけるようになった。
もうじき夜が来るからか、皆せわしなく行動している。
灯りはというと、地底で見たような灯ろうのようなものが設置されていた。
中を観察すると、やはり動いているなにかがいるようだ。
「ポミュオー?」
「お前も気になるか、これ」
「……」
「ポミュオォー」
「おい、中に枝を入れたら燃え……ないな。ハイタッチしてる!?」
「ポミュオー」
「……」
灯りの中にある光源はゆらゆらと揺らめいている。こいつらが、人のハイタッチのような行動をするのが見て取れた。
不思議な光景だ。互いに意思疎通しているかのようだが……。
やべ、遊んでる場合じゃない。急がねーと。
■デイスペル城、王の間■
駆け足で玉座の間まで戻ってきた。とっさに飛び込んでくる気配を察知してひらりと回避する。
「お兄ちゃん! どうして避けるの?」
「汚れてるから飛びつくのは無しだぞミーコ」
「えー」
ぼろい玉座の間には、絶魔王であるベルベディシア、ふてくされているミーコ以外に数名の人がいた。レンズのマスターであるレド、受付のミンニャに市場の人、それからレンズの係と思われる身なりの良い人が数名。
ミーコを見て楽しそうに微笑んでいるのは魔王様だけだが。
「ふふふ、さっきまであんな顔していたのに元気になったわね」
「おう、早速仕事をしてきたんだってな」
「それでは私は退散してー……ニャッ!?」
「どこ行こうってんだミンニャ」
この場にいるやつらは全員、何かしらの仕事を引き受けてる最中なんだよな。
タイミングが悪かったか。
「魔王様、報告は後日の方がいいですか?」
「構わないわ。ここで話してもらえるかしら」
「それならお言葉に甘えて」
アイテムバッグに放り込んだ素材を取り出し、森の状況を簡潔に報告すると、全員が驚きの表情へと変わった。ちっと数が多かったかな。
「……後から出したトレントの枝……あなた、それだけのトレント材を集めるのにどれほど期間が必要か分かっているのかしら」
「数だけじゃないですよ。相当良質なトレント材だ。しかもこの太さや長さならエルダートレントのものだろう……こりゃ北の森は相当まずい状況だな」
「こっちの枝を見てください。こりゃアレードの毒を持つ枝です。森全体に感染は広がっていないようですが、このままだと危険です」
「セグメントスパイダーがいたんですね。良質なシルク材になる糸を吐くので持ち帰ってもらえたら助かったんですが……」
口々に違う反応を示されるが……俺にはまったく分からない内容だ。
寄らば文殊の知恵ってか。やっぱマンパワーってのは大事だな。
魔王様は冷静ながらも話に加わり、微笑んでいるままだ。さすがに魔王を名乗るだけはある。可憐なる王の器。果たして俺が王佐の才となれるのかどうか。
頑張れるかはこっからだ。
「ジャッジ。十分な成果ですわよ。ご苦労様でした。レド、頼んでいたものを彼に」
「こいつを受け取りな。大したもんだぜまったく」
そう言いながらどさりと俺の方へ荷物を渡すレドのおっさん。
袋は全部で、三つで、うち片方はカーネが詰まった袋と思われる。
もう片方は袋の口が開いており、腕章のようなものと衣類が入っているのが見えた。
最後のひとつ、大きい袋の方は……寝袋だ! これは助かるわ。
「……ありがとうございます。ちなみにトレント材は俺の能力で出したのがほとんどです。それでもトレントが20はいたと思います」
「ポミュオ」
やべ、こいつのこと忘れてた。
「ところで……その変なやつはなんだ?」
「ええっと、小さいトレントのようなものがいたので根っこを突いてみたらこんなのだったんで。これも報告すべきかなと思い連れてきたんです」
「可愛い! ミーコが飼ってもいい?」
……トレントっぽいのって飼えるもんなの?
「いいんじゃないかしら。遊び相手も必要でしょうしね」
「やったぁー!」
「ジャッジ。あなたには伝えておかなければいけないのだけれど。ミーコについては少し困ったことがあるのよ。絶対に保護しなければならない古代種の血かどうか。それを再確認するためにも使者の手配をしたわ。今は地底にいるはずだから、少し時間はかかるかもしれない。それまでの間、あなたが守って欲しいの」
つまりミーコの護衛をしろってことか。
でも、たかだか八歳の子だ。本人がどうしたいのかを尊重してやるべきだろう。
「魔王様。ミーコのことは本人にどうしたいのかを聞いてみるべきじゃないですか?」
「もちろん聞いたわよ。わたくしの養子に迎え入れることも考えたのだけれど。その子、あなたといっしょがいいんですって。だから……そうね。そうよ。そうに違いないのだわ。雷帝ベルベディシアが命じます。その子を守ってあげなさい。それが当面のお仕事ですわよ」
「……御意」
「……ポミュオ」
俺が敬礼すると、肩の上に乗ったこいつも俺の真似をして頭を下げる。
和やかな光景に周囲の笑みがこぼれた。
やれやれ……少々おかしな状況だが、ひとまずは任務達成だな。
魔王様はまだ他に手配することがあるようで、玉座の間に残るという。
レドのおっさんには傭兵としての合格を言い渡された。どうやら魔王様の依頼を踏まえて、それをレンズへの登録試験と重ね合わせたようだ。
もらった腕章は傭兵としての証らしく、端の色がその所属国を表しているらしい。
この国は雷帝のものとなったわけだが、デイスペルというのは昔の国名で、この国は近いうちに新たな国名を発表する。
イメージカラーは定まっているのか、腕章の端は紫色だ。
そして、俺がこの国所属の第1番目の傭兵。レドのおっさんや他の傭兵は腕章の色が赤い。別国所属の証だ。
腕章といっしょに入っていたのは新品のローブ。こっちは国家からの支給品みたいだ。紫を基調にした黒色のローブで、王宮に仕えていますって雰囲気のある、さりげない箇所に刺繍を集中させた、派手ではない長衣である。
地底でもらった護衛用ローブに少し似ている気がするが、作り手のデザインセンスが光る素晴らしい品だ。
裏側に見たことがあるようなロゴが入ってる。鈴と……バラか?
所持品を確かめた後、忙しそうな魔王様に退席の会釈だけして、ミーコに連れられ王の間を出た。
■デイスペル、城内■
「ねぇお兄ちゃん。今日はもう出かけないでしょ?」
「いや、市場の方にやり残したことがあるんだ」
「危ないよ。今日はもう……」
「ほら、お前にはこいつがいるだろ? 今日だったらレドのおっさ……マスターもいるし、外出するチャンスなんだ」
「この子、名前は?」
「ポミュオ」
……名前か。まったく考えてなかったわ。
「タケノコってのはどうだ?」
「タケノコ? タケノコって食べ物のタケノコ?」
「タケノコはこの土地にもあるのか。タケノコのタケとポミュオのオでタケオとか……」
「可愛くないからヤダ」
さすがは女の子だ。俺が適当につけようとしているのがモロバレだ。
「それなら元々トレントと見間違えたし、レント……いや、レンでいいだろう」
「レン? 可愛いかも。それじゃこの子はレンだね」
「ポミュオー」
相変わらずポミュオとしか言わないが、害も無いしミーコの遊び相手にはなってくれそうだ。
「そうだミーコ。出かける前に水場を教えてくれないか」
「はーい」
ミーコに案内されたのは、灯ろうの火と同じような、水が湧き出る不思議な球体が詰められたもの。
お湯じゃないのが残念だが、これはいったい何なのだろうか。
「ミーコも浴びるー」
「……ひとりで浴びれるよな?」
「お兄ちゃんが洗って―!」
「ちょ、ちょっと待て。脱ぐなよ! いいか絶対だぞ!」
……さすがにまずいと思ったので、急いで王の間まで戻ってきた俺。
その場から抜け出そうとしていたミンニャさんの手をむんずとわしづかみにしてミーコの下まで走って戻る。
何が起きたのかさっぱり理解していないミンニャにミーコを押し付けた。
「んじゃ、後頼むわ!」
「え? え? ええっ!?」
二人がいない方へさっさとローブを持って向かい、急いで脱いで水浴びを開始。
ふう。体を洗うと心が落ち着くようだ……図書の部屋を使ってもいいってことだったが、あの部屋には物が足りな過ぎる。
寝袋と寝る場所を確保できたのはありがたいが、欲しいものが沢山あるな。
ベッドにテーブル、椅子。食事用の食器類。落ち着いて本を読むための環境を用意したいな。
この水場も、単に体を流す程度のことしかできない。
やっぱり生産スキルを身に着けないとダメかな。
明日から試すことが沢山ある。
さて……ミーコがミンニャに洗われている間に市場へ行っちまおう。
■デイスペル城外■
新しいローブは実に着心地がよく、仕込み剣が無いことを除けば数段良い装備へと変わったのが分かる。
この衣類だけでいくらするんだろう? ありがたく使わせてもらうことにしよう。
外はすっかり日が沈み暗くなっている。
ここはひとつ、新しい実験をしよう。複数あるマントウィッキーのモンスターオーブを、今度は目にセットしてみる。本に夜目が効くと書かれていたからだ。
それに同じモンスターオーブを二つセットできるのかも気になっていた。
……セットして直ぐ、周囲の状況変化に気付く。夜なのに視界が明るい。
ついでにもうひとつ。コマンダーとも言える胸部のリンク効果が目と足に及んでいることも実感した。
これなら一気に市場へ向かえるかも……っとと。
誰だ!? 腕をつかま……?
「ミーコをおいてかないで……」
「ジャッジさん。ちゃんと護衛しないとダメですよね?」
「うっ……もう洗い終わったんですか?」
「この子、魔王様といっしょに水浴び済ませてましたけど?」
「えっ?」
ミーコを見ると下手な口笛を吹きながら目をそらされた。
甘えたい年頃なのかな。仕方ない、魔チャポンのとこに連れてくだけだし、いっしょに行けばいいか。
「夜は危険ですからあまり遠くにはいかないようにした方がいいですよ」
「分かってる。市場周辺に向かうだけだ」
「市場!? ここからかなり離れて……あっ」
「直ぐ戻るからー」
悪いが時間が惜しいんでね。ミーコひとり背負うくらいなら問題ない。これも修行だ。
「もう! こちらの話を少しは聞いてくださーい!」
そんなご立腹なミンニャさんの声を遠くに聞きながら、夜の町をミーコを背負いながら飛び跳ねる。城へ向かったときよりも、段違いに速い!
リンクの数が増えたからか? 身体能力の向上を大幅に感じる。
パクリマのレベルアップじゃそこまで感じなかったのに。
そういや俺がまだゲームをしてるなら、トレントを大量に倒してレベルも上がってるのかも。
「お兄ちゃん速いー、すごいすごいー」
「しっかりつかまってろよ。もっと飛ばすぞ!」
風を切りながらよく見える目で飛び跳ね、あっという間に市場付近までたどり着いた。
間違いなく俺は人間の能力を超越した。
これがモンスターの力を支配する、妖魔の力ってやつなのか。
■デイスペル、市場■
目的地である魔チャポンがある場所までたどり着いた。
どうやら撤去はされていないらしい。まだちゃんと残ってる。
「魔チャポン、そんなに回したかったの?」
「こういうのは見つけたら直ぐ回す方が……ってなんか前見たときと少し違う気がする。なんでだ?」
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はい、2話分をまた盛っちゃいました。
明日は同曜日なんで魔チャポンまでたどりつきたいなー、なんて思いが……二話にして2回投稿してもよかったんですけどね。。この辺は作家の性格がでるところです。




