第50話 裁きの理
開始は終着点。
中身は※と■で分けております。
■地底中央エリア、アトアクルーク泉前■
「はぁ、はぁ……いったい何が起こったんだ……」
広く澄み渡る泉の前に横たわり、日が沈み切った地底の夜空を見上げていた。
アトアクルークって場所には無事到着できたんだと思う。
周囲に転がる無数のオーブ。
不可解な現象にただただ混乱するばかりだった……。
※■※■※半刻(1時間ほど)前※■※■※
アデリーに乗って爆走しながら山のような竜のブレスを回避し、俺たちは順調に進んでいた。
初撃以降山竜がブレスを吐くことは無かったが、その存在は消えないまま背後にある。
やつはまるで俺を遠くから見据えているかのように、しつこく追ってきている。
今の状況で心配なのはアデリーだ。
このアデリーという乗り物について、リルから聞いたことは全部で三つ。
ひとつ。呼び出し可能場所と制限。呼び出せるのは雪や氷がある場所で、周囲にそれらが無い場所を移動すると、速度が低下して移動可能時間も短くなる。そして、急こう配などは登ることができない。
二つ。時間制限。最長でも1刻(2時間ほど)しか呼び出しておけない。
三つ。いちど呼び出すと、笛を吹いてもしばらくは呼び出せない。
アデリーの速度なら、目的地に到着するまで十分持続することを確認はした。
しかしだ。その目的地まで雪道が続いてるかどうかは不明。
雪道が途切れた場合、その途中から徒歩での移動になる可能性もある。
今のところ平坦な雪道が続いているが……それ以外にも何かを見落としている気がする。
「ウェーイ!」
「どうした?」
急に左右へジタバタと動き始めるアデリー。とても賢いようなので、道中の選択肢は全て委ねていたが……左右の分かれ道でどっちを選ぶべきか迷っているようだ。
「アデリー、左の道に進路を取ろう」
「ウェーイ!」
急こう配は走れないって言ってたし、この先がそうでなければいいんだが。
ここまでは単純な平坦の道だったが、徐々に木々が目立ちはじめる。
少し嫌な予感がする。俺は何か大事なことを見落としている? 山竜との距離は相当あるし、あの位置から攻撃されることはないはずだ。
……? 木の上になんかいるような……「フシャアアアアアアア!」
「ゥェィ!?」
「あっぶね、なんだ、突然……モンスター!?」
左右の木。その太い枝に片手をぶら下げている何かがいたのだ。
もう片方の手には刃物を持っている。
その武器を投げつけてきやがったのを、アデリーがとっさに回避してみせる。
……俺が何を見落としているか今ので気付いた。
ここは異世界、まったく知らない場所だ。襲ってくるモンスターはあの竜だけじゃねー。
もしかしたら全てのモンスターが、俺が近づくだけで襲ってくるかもしれない。
そろそろ視界も悪くなってきた。
「アデリー、大丈夫か?」
「ウェーイ!」
アデリーは任せろと言わんばかりに速度をさらに上げる。
襲ってきたのはテナガザルとマントヒヒを足しあわせたようなモンスター。
そいつらを軽く振り切り、深くなる木々を抜け出すと……最悪の景色だった。
「くそ、雪道が途切れちまった。道をしくじったか」
「ウェーイ?」
「いや、ダメだ。引き返せばさっきの奴らが襲ってくるし、距離を詰めた山竜に近づくなんてリスクが高すぎる。このまま進もう」
「ウェーイ」
そのまま進むことはできそうだが、アデリーの速度が明らかに落ちた。
さらに、俺よりひと回り以上も大きかったアデリーが、徐々に小さくなってきている気がする。
それでもここまで来たんだ。もうひと踏ん張りで……「ウェ、ウェーイー!」
「……まじかよ。このタイミングで飛行型のモンスター多数!? こいつは逃げられそうにない。戦うしか……」
速度の落ちたアデリーに対し、素早そうな大型の鳥集団のご登場だ。
巨大カラスとでも言えばいいのだろうか。
そいつらは、待ってましたと言わんばかりに急降下してきた。
アデリーが巧みに回避してみせ、俺も仕込み剣を出してすれ違いざま応戦する。
鋭いクチバシに剣が当たると、まるで金属のような音を立てて攻撃を弾いた。
本当に鳥かよこいつら!
ちくしょう、空から攻撃しやがって。こっちには飛び道具なんか……あるかも。
ダイアウルフの攻撃。あれは確か遠くから結晶を飛ばしてくるものだったな。
早速付け替えてみよう。
「ルーニー! 頼む、ダイアウルフのオーブを!」
「ホロロロー」
アイテムバッグの印に手を当ててそう叫ぶと、鳥の鳴き声と共にクチバシが開く。
そしてダイアウルフオーブが飛び出してきた。
これをどこにセットすべきか考える。付けれるのは四か所。うち三種類はモンスター名も判明。もうひとつは使用していないから不明だ。
状況を考えればその部分に装着すべきだろう。よし、それじゃ胸部分に……ってこれ、ダイアウルフ三匹分じゃねーか。付けれるのか? 平気だよな!? 迷ってる暇、ねーわ。
「うっ……付け替えってなんか、すげー疲労感が」
「ウェイ?」
「心配してくれてるのか、お前。ただでさえ俺を守って走ってくれてるのに、情けなくなって……あ、れ?」
【逃げるな】
意を決して付け替えた途端、体が急激にだるくなった。
それを心配しようとするアデリーの声を聴いた後、体がグラグラと揺れるような感覚に陥った。
アデリーにもたれかかるのがやっとで……そして。
俺の右半身の異常さに気付いたのは、上空の鳥が急降下したそのときだった。
ぐしゃりという鈍い音と共に、その鳥が潰れて地面に転がり落ちる。さらに次々と鳥が落下してきた。
間違いなく即死。その鳥の骸は……見覚えのある闇色に包まれていた。
「なにが、起こった、んだ」
【裁け。そして貴様自身の糧にしろ。力無くば誰も裁くこと叶わぬと知れ。裁きこそ力だ。裁きから秩序が生まれるのだ】
「ウェ、ウェーイー!?」
「アデリー、ここまでで、いい。止ま……くれ」
薄れる視界の中、周囲、そして上空に多量のモンスターがいることに気付いた。
アデリーを止め、悲しそうにバイバイをするのを確認した。へへ、消える瞬間まで、可愛い、ぜ……。
【さぁ、裁け。片鱗を示せ】
なにかの声。なにかの意思。
脳に伝わるその言葉と共に、俺の意識はモンスター共の奇声と重なるように、ぶっつりと切れた。
そして……。
■※■※■数刻後■※■※■
全てのことが夢だったかのように、俺は横たわっていた。
全身のけだるさだけが強く残り、立とうとしてもフラフラと倒れこむばかり。
見覚えのある闇色。嫌悪感を覚える威圧的な頭にひびく声。
あれは、ダイアウルフのオーブが原因?
……きっと違う。
状況に焦りを感じたから? それとも疲労のせいか?
それも違うと思う。
ジャッジメントとやらに飲み込まれたあのときの闇を見た。
あのままじゃモンスターの大群から逃げられなかっただろう。
どうやってここまでたどり着いた?
山竜はどこに消えたんだ?
他のモンスター共は全て……オーブに変えたのか? 俺が? 散らばったオーブだけは回収しておかねーと……。
「ダメだ、分からねー。目開けてるのもしんどい。とにかく無事に着いたんだ……あとはあの泉に入るだけだ」
オーブをかき集めバッグに放り込むと、ゆっくりと重い体をひきずって泉に入る。
その中で妖魔の能力のひとつ、トレントの枝を手から放出すると……泉の中で濁流が起こり、俺はその流れに身を委ねた。
なぜか暖かい泉で、流されているのに包まれているような、そんな感覚を味わうのだった。
辿り着いたアトアクルークの泉。
しかしどのようにして到着したのか。意識が無かった主人公君には分かりません。
ほんのちょびっとだけアデリー君が見ていた可能性もありますが、主人公君の力についてはまだまだ未知数です。
さて、ちょうど50話。いよいよゲンドール、地上の世界へ突入!
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