第44話 えだが生えた
マウントドラゴンなんて竜が山にいるという話を聞いたが、なんのこっちゃさっぱり分からん。
ドラゴンなんてファンタジーの王道で、山に住んでるからマウントドラゴンなんてのはありきたり過ぎるだろう。
倒そうと思ったらでかすぎて倒せないじゃねーかってオチがみえみえだぞ。
「名前からして倒すのなんて無理じゃね?」
「倒すなんて言ってないよ。どうにかしないといけないんだ」
「竜ってのはとてつもなく強いんだろ?」
「そうだね。地底にいるような竜はどれも狂暴で強いと思う。地上はいろんな種類がいるからそんなことないんだけどさ」
「ふーん。その山道以外にフェルドナーガってやつのところへ向かう道はないのか?」
「方法はあるけど、この道から進んだ方がいいと進言されてね」
「それは信用に値するのか?」
「うーん。信用というか聞かないと死ぬかもというか。そろそろ偵察から誰か戻ってくるはずなんだけど」
「リルカーンは空を飛べるんだろ? 偵察はお手のもんじゃないのか?」
「そうだね。でも長くは飛べないよ。そうそう、僕の名前はリルカーンだけど、カーンは付けなくてもいいよ。家名みたいなものだから」
「分かった、りるだな。早速頼みたいことがあるんだが、違う服があったら譲ってくれないか。インベントリオープンしようにも開かねーんだよ」
「構わないけど、前にもリファレンスとか叫んでいたよね?」
「そっちはステータス確認だ。所持している道具を引っ張り出せるはずなんだけど。オメガさんがいないから使えないのか? てか、まじでログアウトできないんだよ。今はまだ生きてるみたいだけどこのままじゃリアルで死ぬかもしれない」
「どういうことか分からないけど、それもヤトカーンって妖魔に聞けば分かるかもしれない。今のうちに君の体についてざっと説明しておくよ。彼女は基本的なことを教えたりしないから」
そのヤトカーンっていうのは女なのか。
ログアウトできない件に関しちゃ今のところ焦っても仕方がないこと。
まずはできることからやっていこう。
リルは俺の体についてゆっくりと理解できるように話してくれた。
失われた左半身には四か所タトゥーのある妖魔の肉体が植え付けられた。
そこにモンスターオーブなるものを吸収させた……という話はぼんやりの意識で聞いていた。
姿鏡がテントの中にあり、全身を確認してみると、確かにタトゥーが入っている。
鳥のようなマーカーにも見えるが、その四か所以外での特徴は肌の白さだ。
左右差がいびつに感じられてしまう。
「色合いは馴染んできたら左右同じになると思う。問題は力だよ。妖魔は本来、特別な力がある。妖術っていう術も使えるんだけど、今の君には難しいと思う。それに僕らに備わっていた真化の力も、絶対神無き今となってはどんどん薄れてて。誰も使えなくなっちゃったんだ」
「真化?」
「魔の力が数倍に膨れ上がる禁断の力。性格も荒っぽくなるし制御も難しい」
「神に与えられた力だったのか?」
「そうだね。僕ら妖魔の生みの親。それが消滅したから徐々に消えてなくなったって結論された」
そんな力無くても、空を飛んだり邪眼とやらで竜をなぎ倒したりできるだけでチート能力だろ。
「でもね。僕ら妖魔は表に出す力が強いんじゃない。内に秘める能力が強いんだ。だから真化のことを考えるよりも君に付与されたそのタトゥーへ新たなモンスターを封印していくことが君の強さに繋がるはずだよ」
「って言われてもな。リファレンスで確認できないんじゃ、ステータス値の変化も見れやしねーし。体が動かせるようになるってだけじゃな」
「違う違う。モンスターの持つ特異的な技が使えたりする。もし幻魔種のモンスターオーブを植えたら幻魔術だって使えるんだ」
「幻魔術って?」
「魔術と違って詠唱を必要としない術さ」
……つまりあのおてんば姫、カルネが使っていた魔法か。
あれは確かに便利そうだ。
「まずはモンスターオーブの能力を使ってみなよ。今の君に適した最もありふれたオーブを提供したんだ。練習は必要だけどすぐ使えるはずだよ」
「使う? 道具みたいに使えるのか?」
「うん。君の左手にはトレントのオーブを付与してある」
「トレント? ファンタジーによくいる木の化け物みたいなやつ?」
「そうだよ。タトゥー部分に意識を集中させてごらん」
「タトゥーに意識を……」
リルに言われるがまま、左手のタトゥーをまじまじと見る。
最初に鳥として認識したせいか、俺には鳥の紋章にしか見えない。どんどんとハトマークに意識が吸い込まれる。
ふるっぽーとか泣き出さないだろうな……。
意識がハトマークへ集中すると、まるで引っ張り出されるかのように木の枝が手から伸びた!?
すげー、魔法みたいだ。
俺は木トンの使い手になったらしい。
生命の源を司る木として世界に貢献できそうだぞ。だが、なんつーかこの状況。
あれだ、小学校の生徒で一番悲しい木の役を思い出した。
「……枝が生えて悲しい気持ちになった」
「あはは。そうそう、その意気だよ。ひとつのオーブを使いこなすのだってとっても大変なんだ。入れ替えれば消滅しちゃうし、攻撃を受ければ破壊されることもある」
「うかつに左半身で攻撃受けられないってことか」
「君の場合はまだ半身で済んでるからいいけど、僕ら妖魔はそれが全身に該当する。つまりその分、君はオーブを守る術があるってことさ」
「俺の右半身は元の体のままなんだろ?」
「どうかな。正直なところ君の体については……どうやら僕より適任者が戻ってきたみたい」
リルとの話が長くなっていたようで、テントの中に誰かが入ってきた。
頼むから今度はまともなやつにしてくれ。
生えたのは草じゃありません。えだです!




