第42話 円環の泉にて
き、今日は寝坊ではなく多忙でした!
これまでの経緯をかいつまんでリルカーンに話すと、その表情は新しい玩具でも手に入れた子供のように無邪気な笑顔へと変わる。
「面白い、すごく面白いよ! 僕はね、人の話を聞くのが好きなんだ。それも妖魔じゃない違う種族のさ。だから妖魔じゃ受けたがらない仕事も引き受けてやってる。君みたいな人に出会えるからね。その中でも君はぴかイチさ。それで? 君をあしげにしたリリと幼女って人たちはどこに?」
「幼女は名前じゃなくてあだ名みたいなものだけど。あいつらは絶魔王がいる場所に向かうって言ってた」
「へぇ。シフティス大陸への経路はしゃ断されて行き来するのは難しいはずだけど。直接向かう手段があるのかな?」
「さあな。ちなみにここはなんつー場所でなんつー大陸にあるんだ?」
「大陸? ここは地底だよ。地上世界とは領域がことなる場所さ」
地底? 地底ってなんだよ。どう見ても地上じゃねーか。太陽かどうかは知らないけど、お日様だってあるぞ。
「不思議そうな顔をしてるね。でも事実さ。ここは地底でノースフェルド皇国の領地内。地底が復活した後に、地上の影響を受けて雪も降るようになってさ。現在地はフェルド雪山って呼ばれる場所の直ぐ近くだよ」
■地底エリア、ノースフェルド皇国、フェルド雪山ふもと■
「地底っつってもここは惑星ゲンドールで間違いはないんだよな?」
「うん。惑星ゲンドールだね。地底は大きく分けて四つの勢力で統治されている。その中で最も勢力を持つのがフェルドナーガって言う僕の叔父にあたる妖魔だよ」
「叔父? お前って偉いやつだったの?」
「あははは。僕は偉くなんてない。統治なんてできないしさ。今となっては興味も無いから」
へぇ。皇帝のおいっこなんて権力にべったりって思っちまうのは地球の歴史が持つ弊害みたいなもんか。
「しかし皇帝か。日本じゃ象徴みたいに扱われてるが、かつては絶大な権力を持ってたんだよな」
「君の国にも皇帝がいるの!? すごいすごい、教えてよ! どんな力があるの? どれくらい強い? 話も面白い? 頭もいいんだよね?」
う……少年のような目を向けないでくれ。
皇帝っていう響きはどの世界でも重いに決まってるか。時代錯誤で皇帝の真なる話なんて風説でしか知らないし、それが真実かどうかも分からない。分からないことは語るべきじゃない。
話を逸らそう。
「いや、こっちの話よりフェルドナーガ? って皇帝のことを教えてくれないか?」
「いいよ。フェルドナーガは邪眼の使い手で、この地底において最も強い眼の力を持つんだ。それだけで竜を三十匹くらい壁に叩きつけたなんて伝説もある」
「……オウケイ近づくなってことだな。でもさ、お前らそいつの下に向かってるんだろ?」
「うん。使者としてだけどね。かつては僕の皇帝と争ったこともある。今は停戦して和平を結んでいるよ」
「お前の……皇帝!? 叔父なのにそのフェルドナーガってやつに仕えてるわけじゃないのか」
「いろいろあってね。今回の護衛対象者は皇帝じゃないけれど」
「こんがらがってきたな。ちょいと話の道筋を整理しようぜ」
「あはは。妖魔になったばかりで思考も混乱してそうだもんね。体は痛まない?」
「ああ、痛くはないが違和感がある。それにだ。何も食ってないから腹が減った」
「それじゃあちょっと待ってて。果物を取って来てあげる。フルフライト!」
そう叫ぶと、ふわりと空を飛んでみせる。
ずるくね? 俺にも飛ばせろよ。
妖魔ってやつの力じゃないの!?
「大人しくそこで待っててねーー!」
……そりゃ歩き回れっていうフラグだよな。
ぼーっとしてるのは性に合わないし、少し体を動かしてみるか。
俺の周りにはテントがある。テントは家みたいなもんだろうし、勝手に入るのはまずいだろう。
山の手前って言ってたが、森を切り開いたような場所を野営地にしているのだろう。ここは野営地の奥の方だな。あまり遠くに行くと迷いそうだ。
周囲の木々はみたことがないようなものばかり。なんの木だろう?
木を触ってみるが、表面の質感がリアルだ。すがすがしい自然の匂いがする。
その少し奥から水の音がかすかに聞こえた。泉でもあるのか?
顔も洗いたかったし、行ってみよう。
■ノースフェルド皇国、フェルド雪山、円環の泉■
水場に近づいてみると、遠くに誰かがいて、歌うような声が聞こえ始めた。
澄んだ声だがなんつーか……物悲しい。
「円環の地へ。あなたを探し迷っていたの。時を費やしても訪れること叶わない希望無きその地。向かうのは私だけ、手に入れよう鍵を持つその闇を振り払い。どうしても忘れられないあなたの温もりを、あなたの笑顔を、あなたの優しさをもういちど、抱き締めて、笑って、私を包んで―――」
木々を抜けた先にある泉の上。
そこには桃色のような長い髪の女性がいた。水上に立ち、舞いながら……祈るように歌を口ずさんでいる。
美しい幻想的な情景にぼう然とし、鳥肌が全身に走るような思いを感じた。
想い人に会えなくなったような、そんな歌詞。
しかしそんな俺に、お約束のようにけたたましいほど腹の虫が鳴り響く。
「やっべ」
「……誰」
「いやその。怪しいものじゃな……」
少女は泉の上を走り……それはもう猛烈なダッシュをみせた。
何がなにやら分からず、歌を聞いているときと同様にぼう然としていた。
そう。とっさに背中を向けて逃げるべきだったのだ。
少女は俺に攻撃するつもりだ!
「燃斗」
「火魔法!? しかも無詠唱かよ! やっべ……えー」
「燃斗、燃斗、燃斗、燃斗」
桃色髪の少女は俺に次から次へと指先から火魔法をぶっ放してきた。
いや、実際に魔法なんてものをまともに見るのは初めてなわけで、これが魔法じゃないならなんなんだという感じだが。
しかしだ。当たらない。
全部の火魔法が明後日の方向に飛んでいく。
何がしたいんだ。
「不審者、避けるな」
「……いや、これっぽっちも避けてないんですけど」
「怪しい。危険。排除。覗き。変態。始末。消えて」
火を撃つのは止めたようだが、少女は屈伸を始めた。
今度はなんだ? ていうか俺、なんか悪いことしたっけ?
「手は真横」
「はい?」
「キーーーーーーーーン!」
「ちょ、おま! なんで伝説の漫画ネタを!」
「えいっ」
「ぐえっ」
呆気にとられる俺に、桃色髪少女はフライングクロスチョップを決めてきた。
満面に勝ち誇った顔をしている。
「決まった。んちゃ」
「……つつつ、なんなんだお前ぇー!」
桃色髪の少女が登場。
こちらは異世界転生我が主のためにをくまなく読んで頂いた方には少しピンとくる言動がありましたね。
覚えてるわ、コレ。って人はぜひこの会にイイネをドウゾ!




