第40話 スリークオーター
少々遅くなりました。本日分でございます。
どのくらい眠っていたのだろうか。
腹が減った。飯が食いたい。ログアウト……どうしたらできるんだ。
運営に報告したら、サ終しかねないか? だったら報告なんてしない方がいいんじゃ。
俺、いったいどうなったんだっけ。
「おはよう。本当によく眠ってたね」
昨日の声。誰だっけ。
「ひどいなぁ。僕はとおりすがりの妖魔さ」
とおりすがりって。ここはどこなんだよ。
俺は宇宙にいて、異世界へ向かう途中だったはず。
お前は異世界の科学者かなにかか!?
「だから、妖魔だって」
妖魔……妖魔ってなんだ。
そんな種族……そういえば魔族に幻妖魔ってのがあったような。
「いっしょにされるのは困るなぁ。幻魔っていうのは古来種だよ。妖魔は地底に住む変わった種族さ。僕が言うのもなんだけどね」
幻魔と妖魔は違う種族なのか。
「交われない種族じゃないけど。どっちも見た目は人とそんなに変わらない。でも、幻魔は魔を放出するのに長けていて、妖魔は魔を取り込むことに長けてるんだ」
へー。そんな設定があるんだ。運営も造りこんでるな。
「気になったんだけどさ。君はまるで世界を第三者のように語るけど。僕はここで生きていて、暮らしているよ」
……NPCは生きてるのと変わらないんだった。悪い、気に障ったなら謝るよ。俺の意思が全部伝わってるのが原因か。
「別に怒ったりはしてない。気になったんだ。君、面白そうだもの。お腹空いてるんだよね。何か栄養になるものを取り入れさせてやれないかなぁ……うーん。でもイカーケンをくっつけるのはちょっとなぁ」
イカーケンってなんだ!? くっつけるって?
てか、俺の意思ってどうやって理解してるんだ?
なんも見えないんだけど、俺の体どうなってる?
「君とは念通で話してる。僕の能力だよ。君の体は簡単に言えば半分しかない。ただ、強いなにかの力で包まれていたから直ぐには死ななかった。その間に時を止める空間に移動させたんだ」
……は? 時を止める? なんだそれ。最強クラスのチート能力だろ。
「そうだよね。僕もそう思うよ。その力は僕のじゃないんだ。アルカーンっていう妖魔の力」
「……弟よ。そろそろ出ていってもらいたいのだが?」
「ごめんごめん。静かにするからもう少しいさせてよ」
「ふん。そのようなもの打ち捨てておけば勝手に滅んだだろうに」
アルカーン……アルカーン? そいつってもしかして陰湿な顔立ちが整った少し匂う長身の銀髪っぽい髪色の野郎じゃねーか!?
「あれ? 君はアルカーンを知ってるの? アルカーンもこの半分の人、知り合い!?」
「そんなやつは知らん。終わったら直ぐ出ていけ」
アルカーンの弟……俺はアルカーンってやつと知り合ってたから助かったのか?
「それは違うよ。君が勝手に降って来たんだ。ノースフェルド皇国へ向かう第二陣の、僕ら使節団の野営地にね」
そういえば俺、ペイジってやつに捨てられたんだ。
「驚いたよ。僕はある重要なお方を護衛してるから、周囲を警戒しててね」
つまりだ。このまま死ななければ、俺はその場所から復活するのか。
「死んでも死ななくても君はここにいるでしょ」
いや、死んだらベースポイントに戻るはずなんだ。
「よく分からないけど、死ぬことを試してみたいの?」
……止めておく。助けてくれた人に失礼だ。
「命の選択は自由さ。でも、君からは悔しそうな、無念そうな感じが伝わって来たから」
ああ。これほどリアルな感覚で半身を奪われたんだ。許せるはずがねーよ。俺が助かるなら、ジャッジってやつを追いたい。そう考えてる。
「そうなんだ。でもね、半身を失うってすごいことだから。君の半分は特別な体になっちゃう。言うのが遅くなってごめんね」
……特別な体? どういうことだ? まさかさっきのイカーケンとやらになるのか?
「あははは。取り込むとしたら、だよ。君はね、半分が人間、半分が妖魔になるの。ううん、もうちょっと多いかな。スリークオーター(75%)だね。妖魔の核も取り付けたし」
はい? 種族変更? ヒューマンじゃなくなるってこと?
「君の種族はヒューマンって言うんだ。人間って言わないの? 君らはあっちの世界から侵略してきたんだよね?」
侵略? それはそっちの星だろう?
「ひどいなぁ。僕らは交渉したけど聞く耳を持たれなかったから、仕方なく少しエネルギーをもらってるだけのはずだよ。詳しい話は僕にも分からないけどね。君らの星からはどんどん略奪者がきてるみたい。君の星へ攻めにいってるのは報復者たちじゃないかな。僕ら妖魔はあまり興味が無いんだけどね」
どっちが侵略者かなんて、個々人の感性だもんな。
なぁ。俺の体が変わったとして、それって以前のように戦えると思うか?
「ううん、難しいと思うよ。だからね、僕がしばらく戦い方を教えるよ。そもそも君、得意な武器とか術ってある?」
格闘武器しか使ったことがない。あとは召喚ができるくらいか。
「へぇ。面白い術が使えるんだね。格闘なら僕も教えられるけどさ。色々な武器も試してみて、それからもっと妖魔らしい戦い方も覚えなよ」
妖魔らしいって言われても。妖魔ってなんなんだ。
「妖魔は妖魔さ。妖しく相手を取り込み、その能力を自分のものにする。その血が濃いほどに能力は強く洗練される。四皇は特に強い能力を持つ」
待て待て。意味が分からん。相手を取り込むってのはつまり、食うってことか?
「ちょっと違うかなぁ。食べても美味しくなさそうなモンスターとかいるでしょ? 僕、ムシとか食べたくないよ」
同感だ。食うわけじゃなく取り込む? ってのはなんだ。
「ええっとね。ある研究者のお陰で僕ら妖魔の世界も大きく変わったんだ。妖魔のタトゥー。これを肉体に刻むことで、その箇所にモンスターを封ずることができるの」
……ダメだ、話についていけなくなってきた。
ちょっと寝るわ。
「僕も念通で疲れてきたしそうしなよ。明日にはきっと話したり、少しなら動いたりできるようになっているからさ。お休み」
さて、いよいよパクリマスオンラインの物語が始まりました。
ここまでがプロローグのようなもの(長すぎ)です。




