第39話 見えざる幻手
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……なにが起こったのかは理解できていた。
仮面の形が変わり、俺を飲み込んだんだ。
闇に包まれ、なにも動かせなくなった。
気持ち悪くなりログアウトしようとしたが、それもできなかった。
オメガさんにエラーが出ていたこともあるだろうけど、パクリマのバグじゃないのか。
異世界を目の前にして俺は初死亡したのだろう。
ヨナの声が聞こえた気がして、それから……そう。体を半分にされた。
半分ってのは真横に斬られたんじゃない。縦半分だ。
なのに、リスボーンしていない。
何も見えず、ログアウトもできずにそのままどのくらい時間が経っただろう。
家族が心配しているかもしれない。
強制的に体を動かせない。オメガさんも、もういない。
俺のテンプルヴァイスは特別だった。
だからなのか、最初からおかしかったんだ。
そんな特別感が心地よくて、考えるのを止めていた。
オメガさんにはバグがあり、俺自身が操作不能になるかもしれないことを無視していた。
「それで? 君はバグってやつのせいで体が動かないと思ってるんだね」
……なんだ? だってそうだろ。体が真っ二つになってもリスボーンしないんだ。
ログアウトもできやしない。最悪だよ。
「最悪なのかな。僕にはそうは思えないけど」
何言ってるんだ? 俺が俺自身の意識への問いかけをしてるのか?
俺の人格なら俺の意見を否定すんじゃねーよ。
「よく分からないけど、君は勘違いをしているね」
勘違い? この状況のなにが勘違いだよ。俺はこのまま病院にでも緊急搬送されるのか。
テンプルヴァイスは神経と接続する。肉体に危険な状態があれば強制的にシャットアウトされるはずだ。だが、それが機能していない。
「ふーん。あの状況じゃ神経とやらはズタズタだよね。肉体が危険な状態でもそれを自動で守る仕組みがあるの? なかなかいい防御能力だね」
……なんだ、これ。俺の意思じゃないよな。お前、誰だ? さっきのジャッジメントってやつなのか?
「ジャッジメントって? 君の体をこんな風にしたやつ?」
違う。それはもうひとり、そばにいたペイジとかいうやつだ。
俺が身に着けていた仮面から生まれた……いや、仮面に封印されていたやつか。
そいつがジャッジメントと名乗っていた。
アルカランだのアルアンダーだの、わけがわからねー。
「……古代の遺物かな。間違いない、それはアーティファクトだね」
アーティファクト? 違う。確かにアイテム欄にはユニークとあった。
「ふうん。偽装タイプのアーティファクトかな。だとするなら神話級かもしれない。相当に貴重なものを見つけたんだ。君って運がいいんだね」
おちょくるなよ。お前、いったい誰だ。こんな状況の俺のどこが、運がいいって? 大体リリや幼女が俺をあしげにしなけりゃこんなことには……いや、いつかは起こってたか。人のせいにするのはよくないって親父にもよく言われたな。
「君、面白いね。人間はさ。強欲で自分のことばかり考えるでしょ? でもさ。たまにだけど君みたいなやつがいるの、僕は知ってるんだ。勇気と思いやりがあってね。誰かのためにいつも戦って、自分が傷付いて損ばかりするのに笑っててさ。見返りなんか求めない。心が温かいんだ」
……ああ。化石レベルに少ないが、まだあの星にもいるよ。
「そうなんだ。いつかその場所に行ってみたいな。君、案内してくれない?」
こんな状況じゃできるなんて言えるわけないだろ。俺、平気なのかな。このままテンプルヴァイスの中で身動きできずにいたら、数日で死ぬよな。
「君は、死なせないよ。だからね。今はもう少し休んで。きっと眠くなるから。安心して。約束するよ。僕が君を助けるから」
……ああ。言われたとおり眠くなってきた。
なんでだろう。名前すら知らないやつなのに。
お前の声が聞けて、不安が薄れた。
これも、テンプルヴァイスの機能なのかな。
「ひどいなぁ。僕は機能なんてものじゃないよ。ただのとおりすがりで気まぐれな……妖魔さ」
さて、いよいよ物語は異世界へ。
この先どうなっていくのでしょうか。




