第35話 ヨードと魔法
ヨーコさんの突っ込みは著者が好きな銀魂のあの人を連想しています。
ズラじゃない桂だ!
部屋ごと地下へゆっくりと降りていく俺たち。
てっきり陸から鎖へ向かうもんだと思っていたが……「どこに連れて行かれるんだ?」
「海底に突き刺さった鎖付近だろうな。つまり我々は合格。問答無用で異世界送りだ」
そんなことを言いながら、幼女もリリもくつろぎだした。
現実のソレと変わらない揺れは、下降するエレベーターに乗ってるような感覚だ。つーか海底? に基地でもあんの?
日本ってそんな技術持ってるのかよ。
「そういやさ。なんでパクリマは地球でも日本の海に鎖が突き刺さるような設定なんだろ」
「ダッシュ君は魔力の源になるものってどんなものか考えてみたことある?」
「いや。魔力ってのがよく分からないものだろ?」
「そうね。でも私は、地球にも存在し得るような物質と、人とは違う種族の神秘的な能力によって生まれる事象だと考えていたの。その神秘的な能力を宿すのがノード黒霊鉱に宿るなにかよ」
う……それってあのレイスだよな。ぶるっときちまった。
目をきらきらさせながら夢のような話をするリリは、きっとファンタジーの世界が好きなんだろう。
それを現実のように体現できるリアルなテンプルヴァイスを企画したのはリリの会社だ。
理想と夢。それを叶えこのパクリマを楽しんでいるに違いない。
……何歳かは知らないけど、すげーよ。
そんなリリを見て、幼女は玉とナイフを出して、下降する部屋の中でジャグリングを始める。
すっげー。エレベーター中にできんのかよ!?
「ふむ、良い練習時間だ。なぁダッシュよ。日本はどのような資源に優れていると思う?」
「唐突だな。資源なんて全然ないから貧しい国じゃないのか? 労働力で経済をカバーするためにマンパワーが必要で、世界で最も税金を取って強制労働させる国だろ?」
「違うな。この国はある分野における資源大国だ。石灰石やヨードの、だがな」
「ヨーコの?」
「ヨーコじゃない、ヨードだ!」
ううん、突っ込んで欲しそうな雰囲気だったから出しただけだけど、ヨード?
疑問に思っていると、リリが大剣を抱えながらにこりと微笑んで答えてくれる気配。
やっぱパクリマの設定が好きなんだな。
「ゲンドールから撃ち込まれた鎖は、ヨードに引き込まれたと推測されたの。ヨードは人の成長に欠かせないものとされているわ。そして魔力の源になり得るものだとも。ヨードの資源量は日本でも千葉県付近が最大なのよ」
「知らなかった……でもヨードってなんだっけ? 元素記号でI? ミネラルみたいなやつだったよな?」
「ほう、さすがは現役高校生。甲状腺治療薬などにも使われたり、レントゲンの造影剤にも用いられる。血液と混ざりあい、白黒の濃淡差を人工的に作り出すなんて、まるで魔法みたいだろう? さらに甲状腺機能が高まり過ぎると全身は爆発的エネルギー消費状態となる。これはつまり……」
「おい幼女。さすがに高校生の俺には難しいぞ……てか、そんなことまで学校じゃ習わねーって」
「それもそうね。ヨードは産出量に対し、国外にはあまり売っていないわ。年間で金額を設定して調整してるみたいね。ほとんどが国内で利用しているのよ。牛耳っているって言えばいいのかしら。莫大な利益を国内だけで上げられる仕組み。日本の資源は国民のものなのに、国民には知らせようともしないし還元もしない。本当、悪い国よね」
「既得権益が操る社会などと言われるのも無理はない。国民には知られないように極力情報は伏せてあるからな。そんな魔法のようなヨードだが、これを組み上げるだけでなく、電力をも吸収する大食らいのカルメルタザイトチェーン。それがパクリマスオンラインの鍵をにぎっているのは間違いない」
ヨードや電気を吸収するために撃ち込まれた鎖。
異世界ゲンドールと地球であるガイア。
ストーリーなんかそっちのけで遊んでいたが、この先は見えてくるのかもしれない。
パッセンジャークリエイティブリマスターオンライン、その姿が。
そんな話をしていると、地下へ降りる部屋がガタリと停止する。どうやら目的地に着いたようだ。
部屋が停止すると同時に周囲の壁と思われていた部分がが垂れ幕のように引きあがる。
すると巨大な分厚い窓ガラスが現れた。
外は海底。明かりが灯されているようだが見えづらい。
……遠くに黒っぽい何かが見える気がする。
あれが、カルメルタザイトチェーン?
『合格した異能力者諸君。おめでとう。これから君たちには尖兵としてアレに近づく許可を与えよう。君たちの役割は二つある。ひとつ、あの鎖の開発者を探すこと。そしてもうひとつ。異世界の国家情報を調べることだ。方法は……直に分かることだろう。それでは健闘を祈る』
「いやな言い回しだな。異能力者諸君? 俺たちだけに向けて言ってるんじゃないのか」
「他にも部屋があり同時進行しているだろうな。だが、妙だな」
「確かにおかしいわね。こんなクエスト内容じゃなかったはずよ」
「違うクエストが発生したのか? そーいや思ったんだけど、固有NPCってのはガイアにもいるんじゃねーの?」
「もちろんいるわよ。日本なら政府とか……まさか、クエスト内容を書き換えられた? 世界ができて三日目で?」
「世界のゆがみをリアルにするための固有NPCが、その世界をさらにゆがめたか」
「まずいわね。NPCたちは死んだら生き返らないの。もしかするとここ以外にも次々に異世界へ送っているのかもしれないわ。自分たちの保身と欲望のために」
「……まじ? てか、どうやってあっちの世界に行くんだ? くそでかい鎖をよじ登ってくわけじゃないだろ?」
「ダッシュよ。明治神宮に向かったときのことを忘れたのか?」
明治神宮? そうか、霊線!
あの鎖でも同じように利用できるのか。だとしても宇宙に出るだろうし、そもそもここは深海なんじゃ。
「安心していいわ。ゲンドールまでは想定どおりなら簡単にたどり着けるはずよ」
「想定外のことばかり起きてるわけだが?」
「そ、そうね。ダッシュ君といると違った楽しみ方ができて配信の視聴率も上がるんだけど」
「俺を配信のダシにすんなよ……ってなんかこの部屋、前進してねーか?」
「この部屋がまるごと潜水艇のようだぞ。見ろ。鎖に近づいている」
ジャグリングを止めた幼女の言うとおり、部屋はゆっくりと海底を進んでいる。
手の込んでることで……ってこれでどうやって魔力流すんだよ。
このままじゃぶつかって海のモクズだぞ!?
「おい、魔力流す装置どこだよ!」
『それは君たちの方が良く知っているだろう』
「ダッシュよ、落ち着け。ガラスに手を当てろ。集中するのだ」
「ふふっ。カルメルタザイトチェーンがこんな近くに。キレイ……」
「って言ってる場合か! おおおお!? ぶつかる! 迫って来る!」
鎖に近づくほど恐ろしい大きさであることが分かる。
どこがキレイなんだよ! どす黒い災厄にしか見えねーわ!
「もうダメだ、ぶつかっ……」
「乗ったな」
「さぁ行くわよ。異世界へ!」
いよいよ異世界へ旅立つ三人。
果たしてこれからどうなるのでしょうか。
そして著者のいつもどおり、急展開に次ぐ急展開はいつ!?




