第34話 グリドゥルール戦と新スキル
あっという間に1月も終わりそうですね。
引き続き体調悪しですが、頑張って毎日書いております!
案内された部屋にはおおきな灰色の体を持つグリドゥルール族とやらが三匹。
こちらの正面には縦に伸びる柱が六本あり、奴らが見えづらい。
リリとヨーコは西側、俺は東側の柱横をとおるように前進する。
まずは盾での遠距離攻撃といこう。
リッターバレットシールド。こいつの意味するところは乱雑性のある弾丸を撃てるシールド……といった意味合いだろう。
この盾は腕にはめ込むような騎士盾の形をしていて、四隅と中央に弾丸をセットする穴がある。
その穴にあらかじめ弾丸をセットしておき、内側にあるピンに指先を当て狙いを定め、召喚を行ったときのように爪先あたりから魔力を流すと弾丸が飛んでいく仕組み。
「ダッシュ君、中央のやつがこっちに来ちゃう! どうにかひきつけて!」
「分かってるよ。エトネブルーさん、早速使うぜ。リッターバレット、五連射だ!」
相手がデカブツなら都合がいい。
弾丸は狙いどおりに飛んでいき、中央にいたグリドゥルール族に向けて……噛みついた!?
これ、やっぱただの弾丸じゃねーな。
対象にぶつかるとサクラスネークの牙が噛みつくのか?
五発中三発が足と手に当たり、青い潜血が宙を舞う。
致命傷にはならないが、こりゃ効いただろ……う?
『グアアアアアアアアアアアアオオオオ!』
なんかめちゃくちゃ痛がってる。当たった場所に噛みついた牙を抜こうともがき苦しむ。
その場所がみるみる紫色に……ってあれ、毒かよ!? そういやサクラスネークの毒もまとめてエトネブルーさんに送った気がするな。噛みつく牙毒弾か!
つええ……中央のやつはしばらく動けないだろう。
リリたちも引きつった顔をしている。
「っと、危ねえ」
東にいたやつが真っすぐ俺へ突っ込んできていたのは分かっていた。
仲間がやられようが関係ないって感じだ。
そもそも仲間じゃないのかもしれない。
振るっている鉄柱みたいなやつの風切り音が普通じゃない。腕力が相当あるのだろう。振りが早いし攻撃範囲も広い。
もらったら即死だな。
なら、後ろにある柱付近で戦おう。
「おらどうしたくそ化け物。ちっとも当あたらないぜ? 図体でかすぎて、こっちの距離感すらつかめてねーんじゃねえの?」
「ウガアアアアアアア!」
バカにされてるのが分かるくらいには賢いんだな。
後退する俺に対して得物を大きく振り上げ、飛び跳ねやがった。
俺はすでに柱の裏手に回り込んでるんですけど。
……こいつ、もしかしてバカか!?
その着地位置、もろだろう!
ずしんという響きと共に最悪な姿勢を俺に見せるやつ。
ちゃんと、アレがあるんだな、お前……。
「ゴオオオオオオオオ……」
あろうことか俺が隠れた柱に向けてダイブし、又から鉄柱へストライクしにいったやつは、そのまま仰向けに倒れ転がり回る。
察するにあまりある痛み。だが、これは好機。容赦はしねえ!
「痛みは察するが、まだあっちにも敵がいるんでな!」
新しいスキルを獲得したい。
滅多にない大型のモンスターの隙を突けるチャンス。
スキル獲得の可能性を考え、やつの体めがけて飛び、心臓付近へカタールの先端をねじ込む。
「この感覚……ジャストフローとは違う」
『ユニークスキル、クルエル・ジョーカーを獲得しました』
心臓を貫いた瞬間、死神の鎌を持ったようななにかが見えた気がして、グリドゥルール族は消滅した。
新しいユニーク……クルエルって確か無慈悲とかいう意味だよな。
アレを強打してもがいている相手に心臓を貫く。そりゃ無慈悲だわ。
まさか今の、相当なレア条件達成で得たんじゃ……っといけねえ考えるのはあとだ。とにかくラッキーだったことにしておこう。
毒を受けたグリドゥルール族はまだ生きてる。
リリと幼女は西のすみで攻撃を回避しながら器用に戦っている。幼女はエリザベスちゃんを出さずに魔法支援のようなものを行っている。リリは大剣のみで、攻撃を全く受けていない様子。さすがはプロ配信者だ。これ、もしかして配信してるんじゃねーか? 負けてらんねー。
さて、エトネブルーさんにもらった弾丸は数に限りがある。
無駄撃ちはしたくねーし、かといってさっきのユニークも使用相手としてこいつには相応しくないだろう。発動条件を確認したいところだが、それよりも、他のスキルを獲得できないか試したい。
幸いにも鉄柱はもう持てないようで、毒を食らった片手はだらんと下に降ろしたままだ。
片足にも当たり移動も困難。
なら、肉弾戦だ。
柱付近まで後退していたのを一気に前進。まずはカタールでもう片方の腕を集中攻撃してやる。
「狩ってやるぜオラァー!」
「グオオオオオオ!」
「っと、危ね……」
動かせないと思っていた毒を受けた手で攻撃してきやがった!
ギリ盾で防いだが、かなり吹き飛ばされた。
やっべえ、死んだか……?
「ダッシュ君! 直ぐ回復! ほら、これ飲んで!」
「うお、生きてる……回復薬か。サンキュー、リリ!」
俺に回復薬を投げて寄越すリリ。
くっそ、恥かいた。大剣振るいながらその余裕はなんなんだ。
回復薬は飲むタイプのやつだ。一気に飲み干すと「ゲロ苦! なんだよこれ!」
「それ、君にもらったやつだよ?」
「……あっ」
そうだ。俺はリリに苦い回復薬なるものを詰めて渡したんだった。
自業自得じゃねーか!
「なんでもないですありがとう」ございます」
「油断しないで。格闘はリーチが短いんだから、死なないように気を付けて……ね!」
その大剣を振り回して死んでないってのがすげーよ。
負けてらんねー、もう食らわねーぞ。
毒で手が動かないってのは過信だった。
やっぱりここは……「リリよ。そちらの身体強化は解くぞ。ダッシュよ、そのまま少し待て。演舞輪、歩調の律速。雪白樺!」
幼女がエリザベスちゃん……じゃない、なんだこれ? うさぎのぬいぐるみ? のようなものを呼び出し、それに踊りを舞わせると……そのうさぎのぬいぐるみのようなものが俺の肩へ飛び乗った。
糸が無い? これは傀儡の術じゃないのか。
「そのウサギ、シラカバちゃんが乗っている間、お主の身体能力が強化される。いわゆるバフだ」
「ありがてえけどなんでウサギなのにカバなんだよ」
そう言うとウサギからボコリと柔らかいパンチが飛んできた。
「バカ者! カバではないシラカバだ! 落葉広葉樹だぞ」
「へぇ……ってなんでウサギが殴ってくるんだよ! まぁいい。とにかくこれで」
体が軽い。幼女は支援特化型だったのか。
てっきり玉にでも乗ってジャグリングで攻撃するのかと思ったぜ。
本来ならエリザベスちゃんで攻撃もするのだろうが、あえて支援に回ってくれてるのか。
リリの友達なだけあって、こいつもプロ級ゲーマーかもな。
毒の効果が薄れたのか、グリドゥルール族がゆっくりと起き上がった。
だが動きは鈍い。
また下をくぐり抜けて足元にワンツー。
タックルまで決めると体制が揺らぐ。
アゴが下がった。ここだろ!
「おら、アッパーだ!」
「グオオオオオ!」
『スキル、スマッシュアッパーを獲得しました』
さすがはカタール。シンプルナックルより数段威力がある。
しかしこの敵、体力が多い。
クルエルジョーカーのような一撃必殺に近い技、何かないか。
仰向けに倒れたとはいえ奴はまだ動けるし、手足のばたつきで攻撃されても死にかねない。
レウスさんの力を頼るか? いや、それよりもカタールに魔力を流してみるか。
マジック級の武器を造るためには、その魔力を流す難しさをクリアしなければならないという。
魔力は体における指先にこそ流しやすく、武器には握り手がどれにも存在する。
オプシダンカタール。その握り手に魔力を流してみると……こいつだけ青と書かれていない理由が分かった。
先端部分が光り出し、温かみを感じられるような青へと変色した。
スムーズにできた。恰好良いじゃねーか。
「落っこちるなよ、ウサギ。全速力でいくぜ!」
「ぷきゅー!」
心外なとでも言わんばかりに声を発した。
しゃべるのかよ、こいつ!
「やれ、ダッシュ」
「おらぁー! わん、つー?」
『マジックスキル、レディアントブルーを獲得しました』
青い閃光がやつの体を左右連撃で切り裂いて消滅させた。
これがマジックスキル。
カタールの攻撃範囲がより広くなっていたと思う。
今の俺の攻撃は接近し過ぎで、長剣くらいの位置まで届くだろうか。
こいつは使える。
「へぇ。マジックスキル、覚えたんだ。でもね、私だって! 高火力マジックスキルはこう使うのよ。ウィズダム・ランベージ!」
新しくなったリリの剣。その刀身が十倍くらいにでかくなり……追いつめていたグリドゥルール族を両断してみせた。
てか、あのデカブツをよく単独で追い詰めたな。幼女が何かしらの補助をしてはいたと思うが、攻撃のさばき方、間合いの測り方、いずれも絶妙だ。
リリが廃神と呼ばれるだけはある。
「ふふっ。ダッシュ君もこれくらいは直ぐできるようになってくれないと、ね?」
「リリよ。ダッシュのやつ、新しいユニークスキルも獲得していたぞ」
「ええっ? どんなやつ? 見逃したわ! どんな風な状況で覚えたの? 教えて!」
「……男子にしか分からない究極の痛みを女子に教えるつもりはない」
「なにそれ? ユニークとなんか関係あるの?」
「オオアリだ! 倒したのはいいが、俺はあいつに同情する。せめて手を合わせておこう」
俺が合唱すると同時に、その部屋は途端にがたりと音を立てて降下し始めた!?
おい、俺への合唱じゃねーぞ!
パクリマの当たり判定はボーンと呼ばれる骨組みで動かす3Dモデルを想定して
設けています。3Dモデリングを行ったことがある方にはなじみ深いかもしれませんが、著者は趣味で3モデリングもやっております。




