第309話 アンセム・オーバーキル
なぜか受付をすることになってしまった。
落ち着かない……それに何をしたらいいんだろう。
呼び鈴はあるし、あっちの部屋の掃除でもしていようかな。
「あのー、少し外してもいいですか?」
「構わない。静かに見たいんだ」
「それでは、失礼します」
なんか、緊張する人だ。
それにしてもここは、何をするところなんだろう? 手紙の配送所には見えないけど。
こっちの部屋は本当に散らかってるな。
人出が足りていないのかも?
……あらかた片付いたけど、後は何をすれば。
あれ、呼び鈴だ。
「はい」
「これを受注したいのだが、できるか?」
「ええと、実はやったことがなくて。受注っていうと依頼をこなすんですよね」
「そうだ。ヴァイツウルフ12匹の討伐、それからザンジバル草の回収と付近の植物モンスターの討伐、調査だ」
「このBと書いてあるものは何でしょうか?」
「それは依頼のランクだ。すまない、先に見せるべきだったか。俺はアルトビュッヘン傭兵団の団長、アンセム・オーバーキル」
「アンセムさん……恰好良い名前ですね。これがレンズの登録証?」
「そうだ。見るのは初めてか?」
「ええと、記憶を無くしているもので……」
「……記憶?」
なんか毎回言い訳をしてるみたいで嫌だな。
アンセムさんはアゴに手を当てて少し思案している。
変な奴だと思われたかもしれない。
「ふむ……それに1人で店番を任せるとは、まったくあの娘は……仕方ない。教えてやろう」
「ありがとうございます」
「ではまず……」
アンセムさんにこのレンズの仕組みや依頼の受注の仕方などを教わり、あらかた覚えることができた。
レンズではその規模によっては国からの仕事をこなす機関のようなものらしい。
ここでは広く依頼を受けることができる傭兵の集まり所で、個人や遠方に首都のある、ルーン国からの依頼を受注できる。
単独で傭兵団として活動することも可能らしい。
その場合は受けられる依頼も少ないらし、なかなか傭兵団のランクも上がらないみたいだ。
アンセムさんのランクはB。Bランクまでの依頼は受注できるとのこと。
受注するには傭兵団所属用の腕章と受注用のプレートが必要になる。
「分かったか?」
「はい。教えていただきありがとうございます……これで依頼発行完了、ですよね?」
「ああ。手際が良いな。これは静かに依頼を探せた礼だ」
「教えてもらったのにお金をいただくわけには……」
「いいからとっておけ」
「では、遠慮なく」
この国のお金だろうか。
多分初めて見るわけじゃないんだろうけど……大きくKと書かれているコインだ。
銀色でできているから銀貨かな。
「それと、髪にゴミが付いている。取ってやるからじっとしてろ」
あれ、さっき片付けしているときに付いたのかな。
自分で取れるけど、せかっくの好意は断れない。
やっぱり女子だと思われているのだろうか。
「……よし。それじゃ俺は行く。じゃあな」
「ありがとうございました。お気をつけて」
それにしてもあの人が受けた依頼、どれも難しそうだった。
……あれ? 扉の横の窓から誰か覗いてる。
「何してるんですか、ミルフィさん」
「うっ……ちょー美味しいシーンだったのに」
「はぁ。さっきの人、依頼受けていきましたよ。せめて依頼の受注の仕方くらい教えていってくださいよ」
「あははは……直ぐ戻るつもりだったから。ごめんね」
「さっきの人、よく来るんですか?」
「君は知らなくても無理はないよね。あの人はこの町で最も強い傭兵。でもね、最近団員を失ってしまって。今、バヨウが出て大変でしょ? その討伐に参加してくれないのよ」
「ふうん。色々あるんですね」
「そういうこと。あ! そうだった。ごめんね、仕事任せちゃったけどさ。今日はチョコレさんのところに帰った方がいいわ。はい、これ」
「えっと、これは?」
「お給金よ。少ないけど」
「これも銀貨ですか」
「カーネも初めて見るの?」
「どうなんでしょう。分かりません」
「ごめんごめん、教えるね。これ1枚で千カーネ。金貨なら銀貨100枚分で十万カーネになるわね。銀貨1枚あれば1日分は十分足りるわ」
「そうなんですか。さっきの人も銀貨をくれたので」
「えぇっ!? 私、もらったことないわ……」
「静かに依頼を見たいそうですよ」
「ふーん。そっかそっか。アンセムさんは君みたいなタイプがお気に入りかぁ。むふふ」
「笑い方が怖いです。それじゃ失礼しますね……っと! そうだ、男性ものの服、用意していただけました?」
「あぁ、忘れてた! ごめーん! それ、上げるから着ていって、ね?」
「さすがにそれは困りますよ。チョコレさんにも笑われてしまいそうですから」
「えー、似合ってるからいいじゃん。そうだ! 私のリボンもサービスしちゃう」
「いりません!」
「ちぇーっ。仕方ない、約束だし後でチョコレさんのところに服を持っていくってことで」
「はぁ……分かりました。では失礼しますね」
「そうだわ! 君の名前付けてあげないとね」
「名前? ああ、呼び名ですか」
「そうねぇ、せっかくこの町に来たんだし、この町の人のような名前がいいかなぁ?」
「この町の人のような名前?」
「ええ、そうよ。可愛い名前」
「可愛い名前って……どちらかというとアンセムさんみたいな名前の方がいいんですけど」
「そぉ? うーん。そうだわ! こういう時は魔包道具で……ええと。わぁ、すっごくきれいになってる! ありがと! これじゃちゃんとお給料支払わないとだわ。でも、よいしょっと」
ああ、なんてことを! せっかく片付けたのに事務室に向かったミルフィさんがごちゃごちゃにしてしまった。
「あったあった。これよ、これ。レンズでも使えるって言ってちっとも使わなかった、傭兵団自動名前認定機!」
「ボロボロですね」
「大丈夫、きっと動くわ。君、これに触れてみて。魔包力も測れる機能が付いてるのよ。旧型機能なんだけどね」
「魔包力って本に書いてあった? やってみたいけどどうすればいいんですか?」
「簡単よ。この持ち手をぐっと引っ張るの。さぁどうぞ」
「はい。えーと、こうかな……?」




