第29話 パクリマスオンライン、公式ショップのボリュームがえぐかった
■謎の店地下、ベースポイント部屋前■
111番という部屋に辿り着いたが、壁には機械のようなものが埋め込まれている。「なんだこれ? 公式直通の家具購入用端末か何かか? でも電気は無いんだよな……魔力回路端末? 人差し指をすっぽり嵌めるような形だな」
つまりこのベースポイントってのは使用すんのに魔力は必須ってことか。
クエストを受けて魔力持ちにならないと解放されないってわけね。
壁の機械っぽいそれに人差し指を当ててみると、音を立てて機能した。展開して開いた装置の中に、これも鍵を当てろと言わんばかりの形のものがあった。
そこに鍵を当てると扉がすっと消えて開いた。
『登録が完了しました。以後指認証のみで部屋へご案内できます』
指紋認証じゃなく人差し指全体での認証か。
これでついに、念願のマイルームを手に入れたわけだ。
部屋の中へ入ると広さはそれなりだ。ただ……なんも無ぇ。やられた、家具類は全部自分で購入しろってことじゃねーか! 壁にも入口と同様の機械があるな。これで買えってことか? 所持金が少な……いや待てよ。PKを倒したら全額奪えるんだっけ。
所持金……58万850カーネ!?
ど、どうなってんだ。
確か倒したのは四、五人程度のはずだ。
あのマギナってやつが相当持ってたのか?
落ち着け、大金だ。
俺、確実にうらまれたな。
狙われないように気を付けたいが、無理だ。
この仮面じゃ襲ってくれと言ってるようなもの。
こいつの外し方も考えないと。
落ち着こう。所持品の確認が先……いや、それよりベッドが欲しい。
まずベッドを購入して考えるべきだ。
この端末を……おお!?
【公式サイト直通大型売買ショップ、パッセンジャーへようこそ!】
壁に埋め込まれていた機械に触れると、巨大ホログラムの半透明な獣耳姉ちゃんが俺の正面に突然映し出された。
ゲーム内でホログラムかよ。TR技術、すげぇ。
しかも反対側に回ってみようとすると、くるっとこちらに向き直り、ウインクして笑顔を向けられる。
くっ……尻尾をじっくり見たかったが……やるな、パクリマ!
「あ、あのー」
「はい。ご用命はなんでございましょう?」
「これって公式のショップで間違いない?」
「はい。そのとおりでございます」
「あんたは、AI?」
「はい。AI獣人族のミミーでございます。登録認証を確認いたします。ダッシュ様でございますね。こちらのショップ利用は初めてでございますか?」
「そ、そうでございますね」
「うふふっ。ユニークな方でございますね」
おいおい。人間と大差ない雰囲気で獣耳がしゃべってるぞ。
これだけで獣耳ファンは卒倒するんじゃないか?
俺も卒倒しそうだ。
「では説明いたします。まずこちらのショップ、【パッセンジャー】は多くの機能を備えております。パッセンジャークリエイティブリマスターオンライン。その最大の魅力といっても過言ではないのでございます!」
「お、おう……」
その最大の魅力をここまで一度も触れてこなかったわけでございますが。
いかん、つられてしまう。
「では、次にコンテンツをご紹介いたしますね。パッセンジャーで行えることは複数ございます。各所にこの端末と同じようなものがあり、魔力を流すことによりアクセスが開始されます。当然魔力が低いとしゃ断されてしまうんです!」
「……つまり魔力量が少ないうちはこのパッセンジャーにアクセスできる時間も短いってこと?」
「そのとおりでございます。魔力を沢山高めて欲しい。そんな願いを込めてそのような仕組みになっています」
「つまり魔力無しの脳筋プレイには向かないってこと?」
「いえ。脳筋プレイヤーさんでも、そうでなくても魔力は高いに越したことはございません。魔法キャラと脳筋プレイは併用可能な仕様でございますから」
「つまり、どういうことだってばよ?」
脳筋プレイでも魔力がいる?
ううむ、こんがらがってきたぞ。
「分かりやすくご説明するために、この世界において電気が無いことはもうご存知でございましょうか?」
「ああ。カルメルタザイトチェーンっていうのが電気を吸い上げちまうからだろう?」
それを聞いてパチリと指を弾くミミー。
嬉しそうに笑顔を向ける獣耳。か、可愛い!
「そのとおりでございます! では、電気を魔法のようなことができるものだと感じたことはございませんか?」
「そりゃあ……よくよく考えたら電気って魔法よりすげーな」
「そうでございます。電気は実は、魔法よりすごいんです。電気がない時代を考えれば、電気が使えるというのは魔法が使えるのと同義でございます。つまり……」
「そうか! 魔力が無ければ電気がまったく無いのと変わらない。魔力は電気の代わりとして使えるから脳筋プレイヤーでも魔力が無いと移動もままならない原始時代ってことか」
「はい。攻撃するだけが魔力の使い道ではございません。いろんなことに魔力を使って欲しいという、R社からの新たなゲームへの挑戦でございます!」
「そうか、それで魔力が上げやすかったんだな」
「上げやすい? ですか?」
「ああ。俺、魔力値が称号無しで200だし」
「ええ!? ご冗談でございましょう?」
AI獣耳がびっくりしている。
こいつは貴重な表情に違いない。
写真機能をくれ。
「冗談じゃないが、たまたまだろうな。そんなことよりそろそろパッセンジャーでできることを教えてくれよ」
「失礼しました。それではまず、メイン機能からご説明いたします」
それからミミーは多くのことを教えてくれた。
まずパッセンジャー最大規模の競売システムについて。
例えば俺がゴブリンの布切れを競売に出したとしよう。
これを出品するのにまず、カーネが手数料で必要。
手数料は設定した金額の五パーセント。
そしてここが重要。手数料はカーネだ。
だが、売るときに設定する金額はカーネじゃない。
ネーカという仮想通貨だ。
このネーカを発行しているのはR社で、この仮想通貨は円に換えることもできるらしい。
商品の購入は全てネーカで行われ、自分が出品したものが売れればネーカが手に入る。
仮に100ネーカで出品設定したら、5カーネの手数料が必要なわけだ。
自分以外のやつが100カーネ以上で設定していればそちらが先に売れる競売システム。購入者側は安い金額から入札しようと試みればいい。このシステムは物流のとどこおりが少なく、どんどんと物が売れる仕組みだ。
そして、手に入ったネーカで自分も買い物ができるって仕組みだ。
この仕組みならカーネもネーカも必要になってくる。
そしてネーカだけあってもカーネは手に入らない。
カーネが無ければ商品を出品もできない。
ゲーム内でカーネを手に入れる方法は限られているようだし、RMT対策を相当行った上、極刑の法案までとおす予定があるらしい。
転売やらの対策まで隅々まで行い、不正には容赦なく対処、か。
リリの勝気っぽい性格を考えればそこまでしそうだ。
次に説明を受けたのはゲーム内の情報屋システムのこと。
このパッセンジャー内に情報屋の項目があり、そこへアクセスすると情報局という項目へ移る。
ここにはネームドモンスターの情報などを購入することができ、得た情報をもとに、隠れているレアエネミーを討伐するヒントが得られる……らしい。
こちらは残念ながらレベル30からで、解放だけはされているとのことだ。
この情報局は非常に便利で、すでに多くのプレイヤーが使っている模様。
ただ、レアエネミーの討伐はまだ指折り数えるほどしか行われていないという。
そして次。気になっていた生産項目。
生産を開始するにはクエストをこなさねば解放できないらしい。
こちらはパッセンジャーを通して多くのプレイヤーに生産依頼を行うことができる機能。
条件をいくつも追加することができる上、該当するプレイヤーをその条件で絞ることもできる。
生産は数をこなすほど新たなスキル獲得、スキル値や生産ランクの上昇などがあり、生産の受注をしたいプレイヤーであふれているらしい。
素材は持ち込み限定で、対価はカーネで支払う必要がある。
手数料も競売と同様五パーセント徴収される。
これだけだと依頼者が不利に思えるが、生産者は依頼を達成できないと評価が下がり、罰金を支払うことになる。
条件以上の提案はしないに越したことは無いようだ。
次。露店の解放方法。
こちらは町で見かけたので気になっていた。
やはりあれは公式をとおしてネーカでの取引に使用する、いわゆる目立たせる販売方法らしい。ただし手数料が高く売上の二十パーセントもカーネを取られるようだ。
競売への出品とは別に数枠の路面での出品が可能。
しかもその間に生産などを行えるから、時間の無駄にはならない。
大抵は生産職の者が露店状態にあり、例えば自らの武器を造りながら、造った道具類などをその場で販売するということができるようだ。
すでに生産までやってる奴ら、進んでるな……こっちが裏チュートリアルで時間使い過ぎていたせいだろうけど。
そして最後。ショップがあるらしいが、こちらはよく分からなかった。NPC販売している駅のショップみたいなもんか?
「現在ダッシュ様が使用可能なパッセンジャーの機能は以上でございますが、ご質問は?」
「俺が解放していて使用可能? つまりまだ他にも機能があるのか?」
「ええ。たーっくさんございますよ! どのコンテンツも大変に魅力的なものでございます。それにワールドストーリー進行で皆さんがあっと驚くような仕組みもご用意されています。ですからパッセンジャークリエイティブリマスターオンラインの世界、楽しんでくださいね!」
「ああ。お陰でやりたいことが増えたよ。早速競売を利用したいんだけど……それより先に、カーネで購入できるものもパッセンジャーにある?」
「ございますよ。こちらは競売形式ではなくノーマルショップですね。残念ながらマジックウェポン級以上はこちらのノーマルショップにはありません」
「マジックウェポン以上? それって武器のランクてきなやつ?」
「レア度と言えば良いでしょうか? それではこちらもご説明しちゃいましょう! もう少しだけミミーにお付き合いくださいね」
少しと言わず部屋にとどまってくれてもいいです。
癒しの獣耳ですから。




