第306話 バヨウ
失礼しました。話数の数値がとんでました!
「慎重に狙えよ」
「思ったよりでかい奴だ。こっちを見た!? ひっ……」
「バカ野郎、外しやがった! う、うわぁーーー!」
……なん、の音だ。
体全身が痛い。眼が開かない。
暖かい。なんかぬめぬめする。
「ぎゃああーーー!」
「畜生、よくも!」
騒がしい。なんだろう……。
また、寝るか。でも少し、生臭いな。
「う、うわああああ!」
……ダメだ、うるさくて眠れそうにない。
仕方ない、目を開けてみよう。
あれ、ヌルヌルするな。
これ、もしかして何かの胃袋の中!?
獣にでも食べられたのか。
着ているものが大分溶けてるけど、どうして無事なんだろう?
とにかく、ここから出ないと。
でも、どうやって?
刃物が……木の剣? どうしてこんなもの、持ってるんだろう。
まぁいいか。これで突いてやれば。
「幼体が急に暴れ出したぞ!? 木から落ちる!」
「奴の持つトゲに気を付けろ。猛毒があるからな!」
木剣で突いたら酷く暴れ出した。
もっと突いてやれば外に出れるかもしれない。
「なんだ? 様子が変だぞ」
「今のうちだ! 仕留めろ!」
『ギョオオオオオアアアアアアア!』
「あああ、猛毒針が刺さっちまった!」
「ガレット! 急いで倒せば体液から抗体が作れる。少し離れてろ」
もしかして飲み込んだ生物が討伐されようとしてるのか? 助けを呼ぼう。
「おおい! 中にいるんだ! 助けてくれ!」
「くたばれ怪物め!」
「おおい!」
「よくも、よくも同胞を!」
ダメだ。声が届かない。
急がないと、急がないとまずい!
必死になって木剣で突くと……その木剣からおかしなことに植物のツルが伸びてきた。
それはどんどん増えていく。
少し怖くなって木剣から手を離したが、それでも伸びる。
この量ならもしかして……かなり大きな胃袋だが、めいいっぱいこのツルを出せば。
『ギョゴオオオオ!』
「苦しみだしたぞ。効いてる!」
「いや、どうも様子がおかしい。少し離れろ! 何か特殊攻撃をするのかもしれん」
めいいっぱいツルを詰めてやった。
どうだ、お腹いっぱいだろう。
俺は逆に腹が減ったよ。
でも、これで。「さぁ、吐き出せ」
『ギョゴオオオオオ』
……最悪だ。後で水浴びをしよう。
ついでにツルが伸びる怖い木剣を吐き出せないように中に挟んでおいた。
「な、何か吐き出したぞ」
「植物のツル? 喰ったもの……いや、何かいる! 奴の子供か?」
「いや、あれは幼体だぞ。そんなことできるわけない。それに口からは産まない」
「あの体液があれば抗体が作れる。急いで……」
外に出れたのはいいけど、ここはどこだ?
そして俺は……誰なんだ。
「ただの、人みたいだぞ」
「おい、そこのお前」
「ああ……はい。生きてます」
「なぜバヨウの中にいた」
「分からない。覚えてないんだ。食われたんだと思う」
「食われて、なぜ生きてる!」
「分からない。それより、あの生き物? バヨウっていうのか。もう助からないと思う」
「何かしたのか?」
「中に木剣を挟んだけど不思議なんだ。剣の先からどんどん植物のツルが出てきて。手を離した後も出続けてたから」
「……つまりバヨウは死ぬんだな?」
「多分」
俺を飲み込んでいた生物を見ると、全身がトゲのようなものにおおわれた奇怪な生物だった。
周りに倒れている人が沢山いる。
みんな、死んでいるようだ。
「おい、あんたの体に付いた体液を回収させてくれ」
「はい? これを使うの?」
「そうだ。時間が惜しい。そのままついてきてくれ」
「えっと、分かりました」
よく分からないけど必要なら。
もしかしたら洗わせてくれるかもしれないし。
そのまま鎧を着た男についていくことにした。
「まさかバヨウに食われて生きてる奴がいるなんて信じられない奇跡だ」
「そうなんですか?」
「ああ。あんたどこから来たんだ?」
「どこから……っ、頭が痛い」
「まさか、記憶喪失か!?」
「記憶喪失……そうかもしれません」
「ふうむ。いや、今はその体液が必要だ。小さな町だがちゃんとした医療設備がある。こっちだ」
■ラテ・チルドの町と書かれた門前■
先ほどまで居たのは森の小道のような場所だった。
そこから歩いて直ぐに町へと通じる門があった。
名前はラテ・チルド。普通に読むことができる。
でも、こんな場所知らないし見た記憶も……無いと思う。
門の前にも沢山の人がいて、全員、不安そうな顔をしている。
「どうなったんだい? バヨウは?」
「どいたどいた! 抗体の元が手に入ったんだ。さっさと通してくれ!」
「なんか異臭がするよ!」
「いいからどけ! 時間が惜しいんだ!」
慌ててるけど、そんなに大事なことなのか。
それに俺を見る目。やっぱりあの生物の体液で相当臭いんだろう。
顔を下に向けてさっさと通り、その人に連れられて建物のひとつに入った。
「ジェリー。急いで抗体を作ってくれ! ガレットとマフィンがバヨウの毒にやられちまった!」
「落ち着きな。それで、肝心の抗体の材料は?」
「そいつに付着してる体液を……」
「このバカ! ちょっとそこで待ってなさい。今直ぐに拭く物を用意する」
「お、おい。急いで……」
「この人でなし。こんな可哀そうな状態で町へ入れたってのかい? すまないね……ほら」
「あの、ありがとうございます」
「抗体の材料はこれでいい。そのまま水浴びしてらっしゃい」
「はい。助かります」
……優しい人だ。
医者なのかな。
有難く水場を借りて体を洗う。
ダメだ、それでも何も、思い出せない。




