第305話 浮かぶ魔法陣
「おい主人。どうしても言っておくことがある」
「……だれだ?」
「お前が考えたんだろう! なんだこの姿は。この俺がメス妖精のような姿になってやがる!」
おかしいな。妖精っていうと羽根の生えた頭に触角のある少し可愛い外見だったはず。
主人公の周りをパタパタと飛び回り、愛嬌よくいたずらをする人型っぽい生物だ。
だが、目の前にいるのは顔面が夜影みたいなウサギに触角があり、羽根は生えているがどちらかといえば珍妙な生物。
これは……新イージスの爆誕である。
「さぁ、残ってるホブゴブリンをやっつけるぞー」
「石の話を聞けぃ!」
「その見た目じゃ、もう石じゃねーだろ」
「せっかく俺の力を扱ういい機会だったのに。もう協力してやらん!」
「いや悪かったって……と、仕留めた!」
そんな話をしながらも、残りのホブゴブリンにサクショナリーショットを命中させる。
しかし、問題となるのはサイクロプスの方だ。
俺が以前に戦って仲間にしたゴグと全然違う外見だ。
まだミッドランド島にいるときに、トロールとサイクロプスに勝ったことがある。
そして仲間になったのがデオとゴグ。
デオはトロールでゴグはサイクロプスだ。
どっちもデカかったが、俺の視界に映るサイクロプスは、頭頂部の髪が薄く、数十メートルはある緑色肌のごつい奴。
腕も足も巨木のようで、捕まったら逃れる術は無いだろう。
しかもそれだけじゃない。
まだ奴との距離はかなりあるが、こいつは……「あのサイクロプス、青白いモヤみたいなのにおおわれてないか?」
「視覚化されるほど強大な魔力持ちってことだ。主人は見るのが初めてか?」
「ああ。コンセントレートモンスターとは違う?」
「コンセントレートモンスターは希少種のことだろう。あれはただのジャイアントサイクロプスだ」
ただのサイクロプスなのにそんな強い魔力とか持つもんなの? もう少し近づいて確認したいな。
「夜影。あいつ、もらっていいか?」
「貴様、単独で相手をするつもりか」
「あれくらいのデカブツと接近戦でやり合ってみたい」
「まぁ、いいだろう」
馬車から離れ、こちらから奴に近づいていく。
その巨体差は距離を縮めるごとに実感できる。
町から町の間に存在していいサイズじゃないな。
まるで緑色の動くビル。
……少し、不用意に近づき過ぎかな。
まぁ何とかなるだろ。
俺にはR・ドライアド・Aによる防御能力だってあるんだ。
「近づいてどうするつもりだ? 主人の持ち味は中距離からの攻撃だろう?」
「そうなんだけど、気になっちまって。このモヤみてーなの、ジャッジメントと少し似てるなぁと……だが、色合いとか全然違う。もっとドス黒い感じのするモヤだった」
「ゴアアアアアアアアアアアアァ!」
「うお!? うるせぇ、鼓膜破れるわ!」
突然ばかでかい雄叫びを発して、1つしかない目が俺を見据える。
もしかしてずっと気付いてなかったのか? サイクロプスって視力が悪いのだろうか。
結構な距離まで近づいていたので、奴の太い手が、俺めがけて伸びて来る。
しかも伸びたのは手だけじゃない。
モヤみたいなのも俺を狙ってくる……捕まるわけにはいかねー。
直ぐにドライアドのツルを伸ばして防御態勢に入る……が!?
「ツルが制御できねぇ!?」
「距離を取れ主人! 魔力酔いを受けたんだ!」
「魔力酔い!? なんだそれ。そんなワード初めて知ったぞ!」
「汚染されたんだよ、主人の能力が。その能力は主人の内部にある物質を利用して生成してやがるんだろう。こいつの発してる高濃度の魔力を吸引することで毒に近い効果があったに違いない」
「ちょ、こうなったらナイトメアスリープで!」
だが、ダメだ。俺の方を見ていないし動きも止まった!? 馬車の方を向いてる?
「ミミアンが外に出てる。何するつもり……」
『失われし太古の印により我が前に仇なす全てを貫きとおせ』
「……空中に浮かぶ魔法陣?」
かなり遠いから全容を確認できないが、詠唱する声だけははっきりと聴こえる。
ミミアン自身の真正面に大きな魔法陣が浮かび上がっていき、そして……『ブラックジャスパー!』
その魔法陣より黒光りする凝縮体が放出され、サイクロプスの腹部を貫いた。
噴出する血は濃い緑色で、撃ち抜かれた場所を抑えて苦しむサイクロプス。
……その光景を見ていて、俺は完全に抜かった。
ミミアンが倒しちまったと思いこみ、安心したのだ。
「ゴガアアアアアアアアアアアアア!」
「主人! バカ野郎!」
「ぐっ。やべ、捕まった!? 握りつぶされる!」
「ゴアアアアアアアアアアア!」
サイクロプスは俺を握りつぶすのではなく、思い切り振りかぶって遠くにぶん投げやがった!
痛みで混乱してたのか?
ドライアドのツルを出そうにも、さっきの魔力酔いとやらのせいか、上手く出せない。
そのままぐんぐんと馬車から離れていってしまい、あっという間に馬車は見えなくなった。
「うおおおおお! 止まれ! どうしろってんだ。このままじゃどっかに激突して死んじまう!」
「冷静になれ。俺を変化させて使え!」
「つっても、何にだよ!? クッション? 全身を守れるほどのものになれないだろ?」
「落ち着け! もっと冷静になれ!」
冷静になってる場合かよ。
もうじき日も暮れてかなり視界も悪い。
地面も見えないしどっちへ飛ばされたかも分からねー。
このままじゃ、まずい……。




