第304話 サクショナリーショット
ホブゴブリンはゴブリンより強い同種族だ。
ゴブリンはパクリマのチュートリアルでも戦ったことがある。
短剣や棒切れを振り回すだけの大したことがない奴らだった。
ホブゴブリンはどのくらい強いのだろうか?
ナイトメアを使ってしまえばあっさり倒せるが、それは勿体ない。
俺たちを狙ってるのは間違いないだろう。そろそろ姿が見えてもおかしくないが……。
馬車内には女子が4人。ヨーコとロジィがいるから、こっちが狙われても問題ないだろう。よし、馬車から少し離れよう。
「真っ暗になるまでに片付けて野営を急がねーとな」
「これで全部とは限らん。夜は魔物共も活発に動く」
「その辺は心配ねえよ。考えがある。夜は大人しく寝るもんだろ」
まずはミニオン・アダマントとミニオン・ドライアドを生み出す。
アダマントには馬車の護衛補助、ドライアドは俺の補助だ。
「……貴様ほど能力の変化が著しい奴も珍しい」
「使いこなせてねーけどな」
馬車の近くにドライアドの枝を地面から生やし、そこにラビッツホースの止め縄をくくりつけた。
こいつらにも後で飯をやらねーと。何が好きなんだろ。ウサギも馬も好物は人参か!?
「ゴブリンってのは賢くないんだろ?」
「ああ。武器を振るい、繁殖し、時には自種族からも奪い合う」
「それが統率を取れた動きすんの?」
「数が増えれば徒党を組み集団で活動する者が生まれる」
「ふーん。リーダーに導かれたら変わるか。さっきの町長の件じゃ長なんていらねーって話になったが、そうでもないのかな」
「種族は同種に導かれたいものだろう。貴様らは違うのか?」
「さぁな。けど、自由だから楽しいんだろ……っと、ようやく見えてきた……って俺の方、でかくね?」
「さっさと済ませるぞ。兎閃・俊行」
……さっきまで隣にいたのにもう居なくなった。
早過ぎだろあいつの動き。
東のゴブリンは任せるとして、西の方には大型のホブゴブリンが4匹。外見もゴブリンとは異なるし、ぼろそうだけど鎧とか兜をかぶってる。つまりそれだけ知性があるってことだ。
後方から巨大なボウガンのようなものを持つのが2,大ナタのようなものを背負うのが2、でかい盾を持ち槍を持つ者が2。
バランスの取れた攻撃態勢ってか。
顔面はどれも不気味で、目が血走っていて時折左右を見渡している。
嗅覚……違う、音を頼りにしてるのか。視界はそこまで広くなさそう。
殺すつもり満々って雰囲気は出てる。
もうドライアドの射程圏内に入りそうだが、少々試したいことがある。
これは7竜、サファールの力を知ったからこそできることだ。
こいつは単に海上で海水をブッパする竜ってわけじゃない。
それだけなら、威力こそ落ちるが他の竜でもできるらしい。
この竜は……「吸引する水分、サクショナリー・ウォーター」
ドライアドのツルを地中に伸ばしていき、そこから水分を吸収していく。
ドライアド自体にそんな力は無いのだが、サファールはその力を使用すると水源を探し始める。
そして、それは俺の能力であるドライアドの力を通すこともできる上、見つけた水源そのものの量を増やし、吸収する。
大津波を強制的に発生させるのもこの能力のせいだ。
そしてそれだけじゃない。
大気を暴風雨を発生させることまでできる。
こっちは今試すわけにはいかないが……「R・ドライアド・A、サクショナリーショット」
吸い上げた地中の水分を、狙いを絞り、ドライアドのツルをアダマントと骨でコーティングした銃口のようにして、7竜の力をそこから射出する。最悪の結末よりずっと威力は落ちるものの、この方法なら多くの場所で利用できる。
威力が落ちるっつっても鉄板を貫通するくらいの威力は余裕である。
……この提案、実は馬車に乗ってるミミアンのものだったりする。
狩猟祭の最中ずっと俺の行動を見ていたようで、それだけで7竜の力だと想像していたらしい。
ロッドの港町も過去に7竜に襲われたことがあるから、使用は気を付けるように注意された。
「ギョアアアアアーー!」
「ギャッギャ、ギャッギャ!」
サクショナリーショット、吸引した水の塊が、盾を持つホブゴブリン、それからボウガンを持つゴブリンを貫通。
その2匹は倒れた。
意表を突かれた残り4匹が動き出し、俺の方へと突進してくる。
「R・ドライアド・A。ディープソーンアダマンバイト!」
両手より伸びる青銀色のツルが、左右へと分散する大ナタのようなものを持つホブゴブリンの足を絡めとる。
直ぐにそのツルを切ろうとするホブゴブリン。
戦闘中、安易に下を向いちゃいけないぜ。
この地中から水分を吸引するサクショナリー状態で使用するドライアドのツルの影響で、俺自身も動けないのがデメリットだ。
まぁ、動く必要は無いっつーか。
「ドライアド・A。カッティングソーン・リング」
「ルルルー」
ドライアドのツルを輪っか状にして放出。その間に指を入れてグルグルと回す。
それをミニオン・ドライアドに渡すと、俺の動きを見様見真似でグルグルと回し、超高速にまで回転させ始めた。
「ルルルルー」
「外してもいいから教えたように投げてみな」
「ルルルー」
ミニオン・ドライアドはその輪を、ツルを外そうとしているホブゴブリンに向けて投てき。
……高速回転しながらそいつに命中。その首が吹き飛ぶ。
さらにもう1つを渡して回転させている間に、奥のホブゴブリンからボウガンの矢が飛来する。
「「ドライアド・A、ソーンプロテクト」
飛んできた矢はドライアドの強固なツルに防がれて、当たらずに地面に落下する。
足かせを外せずにいた大ナタを持っていた方のもう1匹も、ミニオン・ドライアドにより倒された。
残りは2匹。盾と槍を持つ1匹は警戒するようにしてボウガンを持つ奴を守っている。
シュヴァルツから購入した剣を使うか、それとも……「急いで倒せ! 援軍が来る!」
「なんだよ、もう少し技を試させろよな……!?」
なんて考えてたら、足下が揺らいだ?
「サイクロプスだ。奴ら、どうやら偵察兵だったらしい」
「偵察兵!? モンスターの町かなんかでもあるってのか?」
「こっちは片付いた。さっさと仕留めろ!」
「はいはい。ってなんか生ごみが焦げたみたいな臭いがするんだけど……んん?」
やっべ、よそ見してたら槍を投てき……ドライアドのツルが無い隙間に狙い撃ち!?
食らっちま……「おいバカ野郎。よそ見するな!」
「……イージスの声が聞こえるけど、俺、イージスどうしたんだっけ」
すっかり忘れていたが、俺は神石なる貴重な石ころを手に入れて、それで……そいつの力を解放したんだった。
それは俺の発案により様々な形に変化する究極の変石だった。
ハイメガオーグモンスターを攻撃するときに……「思い出した! よう、けむりんじゃないか」
「誰がけむりんだ、コラァ! 大体、主人が俺を戻さないから、煙としてつきまとうことになったんだろうが。さっさと元の姿に戻せ」
「元の姿って言われてもな。どんなのだっけ。えーと」
「おい、バカ野郎! 額に手を当てて考えたら……」
「そうだ。手乗りサイズの妖精みたいな奴だったな」
なーんて、そんなわけないんだが。
……が?




