第26話 バトルオブシュライン《神の社》北池エリア
ようやくソロ行動を開始するダッシュ。
彼の力はどう活かされるのでしょうか。
■ヨーコと別行動する少し前■
「ダッシュよ。魔力を手に入れたのだから、貴様も魔法が使えるようになったはずだ。召喚を試してみる前に少しだけ伝えておくことがある」
「そっか、魔力がねーからレウスさんを呼び出せなかったのか」
「魔力は使えば当然ながら消耗する。ゼロになっても倒れることは無いが、魔力が減れば減るほど魔法、そして恐らく召喚の効力は弱まる」
「マジックポイントと魔力は別なんだろ?」
「そこがこのパクリマの変わったところだ。例えばだ。よくあるゲームでは知力があり、魔法の威力は知力に依存する、と。知力は魔力であり魔道士は知力が高い。それは変だと感じたことはないか? 魔法を使うのにマジックポイントというのを消費することにもだ」
「……あんま考えたこと無かったな。パクリマは知力や器用さって項目無かったから戸惑ったけどさ」
「そうだな。魔力に関して話を絞るぞ。例えば炎とは燃えるものと燃やすものがあって生み出されるだろう?」
「ああ」
「燃やすものをくべれば火は勢いを増す。これを魔力に例えるなら、魔力は燃えるものだろう?」
「魔力を注げば、注ぐほど火の勢いは上がる? 魔力が尽きれば火は消えて……魔力そのものが燃料? それってつまり魔力を大きく消費すれば魔法の威力も上がること?」
「やはり察しがいいな。そのとおりだ。魔法使用での長時間戦闘は魔力回復手段を持たねば危険だ。いいな、過信せず状況を見て戦うんだぞ」
「ああ。分かった」
……幼女は魔法に詳しかった。あいつは魔法キャラを作るために色々と調べていたんだろうな。
ベータ経験者かもしれない。
さて、インベントリからカーネの詰まった袋を取り出して、と。
『20カーネを取得しました』
「くっそ! 俺の乱数どうなってんだよ! せめて三桁くらいでろや!」
これで俺のカーネは850になった。
奪われたら悔しいので使っておいたんだが、結果は20カーネ。前回よりは多い。持てる運を使うのは今じゃない。そう自分に言い聞かせた。
気を取り直していざ明治神宮へ。入る前に多少の実験と、策略を撒き散らすために少しばかりネットサイトにアクセスした。
すでに俺はPVPエリアへ入っている。
PVPエリアには境界線があるわけではなく、近づくにつれ視界に警告が流れる。仕組みだった。
そして、切り替わった瞬間からは特に違和感がない。PV好きにはたまらない環境だろうな。
当然の話だが、非PVエリアとの切り替わり付近にはプレイヤーなんかいない。
逃げられない場所まで誘い込んでから得物を決めて襲う。
こういうのはどのPVPがあるゲームでも同じことだ。
仮にいたとしたらそいつらはただの初心者狩り。PVPを楽しむんじゃなく無意味に嫌がらせをするのが好きってだけのクソ野郎だ。そういう輩は先にレベルを上げまくって圧倒するから、入口には誰もいないってわけだ。
幼女のクエストをとっとと済ませたい理由でもある。
■エリア、明治神宮外、北東■
国内で年始一番の参拝客が訪れる、完成されて百年ちょいの若い神宮。でこれほど人気があるのは地の利、そして巧みに設計された外観から内観までのルートか。
大都市が近く人がたむろするのにも向いてる。
新宿、渋谷エリアには店も沢山あるんだろうな。ゲーム内で短距離交易ができるとかねーのかな?
カーネの稼ぎ方は開始間近の方が沢山美味い場所がある。
みんなやっきになって探してる中、そいつらから巻き上げるPK。
いい趣味してるぜ、ほんと。
ここらにもいないな。
■北参道付近■
明治神宮は本殿を中心に、北西付近に宝物殿、西に客殿、東に神楽殿、南には隔雲亭と呼ばれる建物がある。
それぞれ東西南北の参道を持ち、ひと回りすることを想定されたような造りとなっている。
幼女がクエストを受けるのは、本殿ではなく宝物殿らしい。
地図は頭の中に入れた。準備も完璧とまではいわないが、用意出来ている。来るならそろそろかな。
■北参道、北池付近■
橋の手前に女性プレイヤーが池を眺めているのが確認できた。
こんな場所ではかなげに池を……なんて、リアルじゃ趣があるのかもしれんがTRゲームじゃどう見てもただのハニートラップだろう。
こっちに気付いた。いい笑顔してんな。
悪い意味で。
「そこのプレイヤーさーん。ちょっとこっちでいいことし、な、い?」
「……はぁ。胸くそわりぃ」
「ほら、リアルで素敵なお姉さんに声かけられてるのよぉ」
「おいおっさん。その昭和漫画みてーなくっさい芝居を止めろ」
「なにこの子。むかつくわね」
……さて、視界に見えているのは女キャラ一匹だけだ。全部でこちら側に何人いるかな。
宝物殿へ抜ける道は東西南から三カ所。西側から入れば最も宝物殿に近い。つまりPKが最も多いのは西側から明治神宮に入って少々行ったところだ。幼女は合図を出すまで西側のPVPエリア入口付近に待機させてある。
こっちは裏手側になるからプレイヤーキルの配置は少ない。
この女は差し詰め南と東から来る奴らを視認して中へ引きずり込む斥候役かな。
いや、女じゃねー。中身男だろこいつは。声が太いんだよなぁ。待てよ? 幼女は澄んだ流れるような感じの声だったな。あれはまじで幼女なのか? いやいや、年齢的にテンプルヴァイス買えねーから無理だろう。
「ねぇ君。ここがPKアリな場所だって分かって言ってるよね。お姉さんになら勝てる。そう思ったから強気な発言してるんだよね」
「だからお姉さんなんてどこにもいねーだろ。気持ち悪いんだよ」
「……あっはっはっはっは。もういいや、殺すぞてめえ」
最初からもろバレなんだよ。
PKキャラが取り出したのは双剣。初期装備には見えない武器防具。動きからしてゲーム慣れもしてる。
廃人系プレイヤーでPVP専門ってとこか。
まともにやったら勝てねーわな。
だが、俺が想定してた相手はこいつじゃない。
「おいババア。いやジジイか。おいかけっこしようぜ」
「このクソ野郎が! 私は四川狩りのマギナ様だぞこのクソジャリが! いたぶってぶち殺してやる!」
四川狩りのマギナ? 聞いたことねーな。別ゲームの二つ名か? どうせ二つ名を名乗るなら、パクリマで手に入れてからにしろや。
にしても容易く挑発に乗るやつだな。
単細胞かよ。都合が良い。
ちなみにPVPエリアはログアウト可能だが、完全にログアウトするまでは五分もかかるし走りながらログアウトすることはできない。
より高いリアリティあるPVPを楽しむための工夫だと伝えているようだが、なんてことはない。
開発者もPVP狂いがいる。
だが、必須そうなクエストエリアにPVPエリアを設置してるってのは引っかかる。
何かしら、裏ルートのようなものもあるってことだろうが、開始二日目じゃそんなもんは見つかってねー。
しかしマギナ、こいつはプレイヤーネームが黄色い。黄色ってのは初めて見た。これがPKネームなのかと思ったんだが、マギナが動いたからか、奥からプレイヤーが走ってきやがった。
そいつらのネームは真っ赤だ。数は四。マギナを入れて五人のPKパーティーか。
さて、んじゃ単細胞だけ引き込むか。
「おらついてこいジジイ!」
「おいマギナ! 勝手に持ち場を離れんな!」
「黙れ。も我慢できねえんだよ! あいつは私の獲物だ! 手ぇ出すんじゃねえぞ!」
いやいや、手をだしてもらわねーと困るんだよバーカ。
北池の橋手前から後ずさりすると、勢いよく追っかけてきた。
動きがこっちより大きく劣ってる。敏捷性60ってとこか。倍の差があると随分違うな。
「はっはー! こっちは敏捷性に振りまくってるんだよ。ついてこれるわけねーだろ!」
「なっ。逃げるんじゃなくて突っ込んで来た!?」
後ずさりすりゃ前のめりになって追って来ると思ったよ。
パクリマの体はリアルに作りこまれている。
筋肉のバネ、反射など全てがリアリティにあふれる。
相手は軽装とはいえ装備もしてる。
こっちはサイバースーツに仮面の最大な身軽さだ。
武器も所持していないに等しいわけで、身軽さは圧倒的優位にある。
横をすり抜けると……四人組も武器を構えた。
見たことが無い装備ばかり。槍が二人、弓、それと鎖鎌!? あんなのもあんのか。
どれも重そうだな。しかし槍とか双剣とか定番過ぎるぜお前ら。
手を出すなって言われて尻込みしてるのが丸見えだ。
橋を封鎖せずこっち側にとおしたお前らの不運を恨めよ。
「おいじじいの仲間共。度肝を抜いてやるからよーく見てろ。これがパクリマ初の召喚レウスさんだ!」
「待て、このや……ほ、骨!? アンデッド!? 何だこれ。まさか職業スキルか!?」
おーおー、ようやくおでましかよ。相棒。
まぁレウスさんを呼び出したのは単純に注目を集めるためだけなんだけどな。
「だっはっはっはっは! やっと呼ばれたぞ。相棒! だっはっはっはっは!」
「悪かったな。早速で悪いんだが」
「おお、友達だ! ちょっと行ってくる」
「……へ?」
おい待て。召喚ってのは俺の命令どおりに動くんだろ?
勝手に動くとかそんなAI召喚、聞いてねーぞ!
さて、始まりました明治神宮PK戦。
異世界はよ! の方はもう少々お待ちくださいね。




