第24話 代々木ステーション前
ようやく38度越えの熱からは解放されました……全身がバキバキです!
幼女と片手を繋ぎながら、もう片方の手、五本の爪先を電柱に当てている俺。
はたから見たらキャトルミューティレーションでも願う狂信者にでも見えるだろうか。
「こら。意識を乱すでない」
「んなこと言われても」
なぜこうしているのか。答えは単純。
このファントムラインという方法で移動するためには、定期的に流れるそのファントムとやらに乗る必要があるらしい。
マジックポイントを持つと魔法が使えるようになる。
ファンタジー世界では魔法が使えるというのはオーソドックスなことかもしれない。しかしパクリマは違う。
各企業が失敗し続けている、現実味が失せた適当過ぎる常識の押し付けをプレイヤーが疑問を呈するようになったからだ。
なぜそれができるのか。どういう経緯で使えるようになったのか。
そこが肝要というのをR社開発が他五社に対してデータ込みで力説したらしい。
ただのヒューマン。それはつまり人間なわけだから、そんなものに魔力など無い。
この電柱に触れる前に、そう幼女から説明されたのだが、ノード黒霊鉱は心臓に霊体が憑りつき、魔力を強制的に体内へ流させる働きを持たせるらしい。つまり疑似核の構成をノード黒霊鉱が行ったわけだ。
外見上の変化はなく、魔力を得たからといってポンポンと魔法が使えるようになったりもしない。
魔力とは電気の流れに近いものがあるらしく、核を持てば人が扱えるというのは人間が持つ電気信号のやり取りこそその魔力の流れに近いからであるという。
特に魔力を発しやすいのはどこか。
それは今の行動で分かるだろう。爪先だ。
全く通さないわけじゃない。ここがポイントであり、広がってしまう魔力を集約するのに爪先ほど向いている部位は無い。
よくあるファンタジー世界のように手を広げて魔法を放出すれば、持っている魔力を全て放出して即時枯渇させてしまうという。言うなれば大魔法であれば手のひらから放つようなものもあるかもしれないが、集約した魔法に比べれば威力は大して出ない……と幼女からブツブツと説教されるように聞いたのがここまで。
魔力や魔法についてはもっと聞きたかったし調べておきたかったが、ここからはこのパクリマの世界観予測で考える。
あの鎖は電力を全て飲み込み、電力を魔力へ変換させゲンドールのどこかへ送っている……という筋書きがある。
ファントムラインというのは、たまに流れるわずかな電力を吸い上げ……その流れに乗って移動する荒業だろう。
急ぎで向かいたい何かしらの理由がある。
なんて考えてたら結構な時間が過ぎていたようだ。「来るぞ。いいな、絶対に私の手を放すな」
「分かっ……うおおおお!」
これはノード黒霊鉱を食ってから国立付近でも確認できた見覚えのある光景。
電線から時折なにかが伝わっているように見えた青白い変なやつ。それが流れて来たのだ。
チュートリアルで下に降りるときに見たやつと同じか? それが今ならはっきりと見える!
「乗るぞ!」
「え? どうすりゃい……」
幼女が繋いであった手を挙げると……俺は電信柱の上をマッハ25でぶっ飛ぶやつみたいに突き進んでいた。
速い。そんなことを考える暇もないほどに。しかも風圧などは感じない。
全身にあの青白い光が包んでいる。これが魔法? それとも霊体ってやつなのか?
時折ささやかな笑い声まで聞こえる気がして、背筋が凍り付いた。
それだけじゃねえ! 電柱が途切れて線が途切れて…… 「なっ、落ち」
「あはははーー……」
空中に投げ出されたかと思ったら、反対側の電線へ。
乗り継ぎ列車かよ! 心臓止まるかと思ったわ! 生半可なジェットコースターよりはるかに怖いわ。
いやいや、目をつぶっていればなんてことはないはずだ。
ていうか俺はテンプルヴァイスの中だ。
そう、テンプルヴァイスの中にいるんだ!
なのに、「うおおおお、また反対側に移るのかよぉ!」
「あははははは」
「あっはっはっはっはっは! 楽しい、楽しいぞー。何回乗っても最高だ!」
「てめ、幼女。後で覚えておけよ……」
「幼女じゃない、ヨーコだーー! あっはっはっはっはー!」
■代々木ステーション前■
「はぁ、はぁ……死ぬかと思った」
「何度も言ってるが、死ぬわけないだろう。いやー……乗りたい。ワンモア!」
「バカ言ってんな! 渋谷に行くんだろ!」
「だってぇー」
「急に幼女っぽくねだるのは止めろ……」
「幼女じゃないヨーコだ! さて、冗談はこれくらいにして。渋谷はもう目と鼻の先だがルートは選んでいいか?」
「ああ。ここって代々木だよな。へー、こんな風なんだ」
「なんだ来るのは初めてか?」
「ああ。場違いっつーかなんつーか」
「何を言ってる。代々木は学生街とビジネス街が両立する町。誰がいてもおかしくない。ニューヨークの摩天楼みたいでいいだろう?」
「ニューヨークも行ったことねーから分からねーって。でもVRゲームでもそうだったけどさ。行ったことない場所を実際に訪れたように歩き回れるのっていいよな」
「そうだな。私の知人も足が不自由で、実際に歩き回ることは難しい。だからこそこうやって……いや、すまん。先に行こう」
「……? ああ。なんかさ、すげー見られてるような気がするんだけど」
「まずいな。遠回りする必要があるか」
「なんで? もう真っすぐ南下すれば渋谷だろ?」
「今、もっともプレイヤーが集中しているエリアはどこだと思う?」
「新宿じゃねーの? そっか、北東に少し行けば新宿か」
「代々木で降りたのにも少し理由がある。こっちは私の都合だから後回しにする」
「どこに行こうとしてたんだ?」
「明治神宮だよ。もう目と鼻の先だっていうのに」
「行けばいいだろ。ええと……東に見えるあれか! おおーー、昔親父が行った話を聞いていつか行ってみたいと……」
と思ってよく見ると、まじか。
プレイヤーキル。その現場を遠目に見ちまった。
「ここ、PVPエリアか!?」
「そのようだ。明治神宮がまさかその範囲だとは……これは絶好の罠を張る狩場ってわけか」
明治神宮に用事ってのはきっと、傀儡に関連することだろう。
ラールフット族ってのは神宮で力が手に入る種族ってわけか?
「おい幼女」
「幼女じゃない、ヨーコだ! なんだ、いま別の道を……」
「明治神宮、行こうぜ」




