第21話 マジックポイントの獲得
熱が下がりませぬ……
いえ、熱が解せぬ……。
■スパーバックス店内■
ノード黒霊鉱を食えなどと言う幼女。
無機物を食った奴の結末なら想像が付く。
悶え死にだ。
「あんた、バカなのか?」
「失礼な! せっかく親切で教えてやったというのに」
「親切って、変態呼ばわりしたやつにするもんなのか?」
「ふん。さては怖いんだな? 勇気のない貴様の代わりに私が見本となってやろう。ふっふっふ……」
不気味な笑みを浮かべながらインベントリより小さな黒い物体を取り出す幼女。
俺が拾ってきたやつと比べると明らかに小さいが……それをひょいとつまんで口に放り込む幼女。
あーあ、本当に食っちまったよ。どうなっても知らんぞ……「甘ーい! くぅー、黒糖にほのかなカカオを混ぜ合わせたようなこの味! いくつ食べてもたまらん!」
「え? 二個目なの?」
「いや? 十個目だが?」
「……」
十個目? そんな食って平気なのか? そんな数どこで手に入れた?
色々聞きたい気持ちもあるが、あの幸福そうな顔。
ゴクリと息を飲む。
「ふむ。覚悟を決めたようだな」
「と、とりあえず一個だけ試しに。でも、こっからレイスが出たんだよな……」
インベントリからノード黒霊鉱を取り出す。
こちらは拳大ほどの大きさもある。
仮面が邪魔だし口には収まりきらないと思うのだが。
「き、貴様! そんなでかいノード黒霊鉱どこで手に入れた!?」
「ん。クラシッククエスト」
「クラシッククエストだとぉ!? ムグッ」
「声がでかい。他のプレイヤーが入ってきたらどーすんだよ」
「むー、がーむ!」
「いってぇー!」
くそ、こんな漫才やってる場合じゃねえ。
とりあえず鉱石を舐めてみるか。
……あま、い?
あれ、なんか食えそうな気がしてきた。
これを食いたい! なんだこの高ぶる感情は! この物質を欲している? この体が。
気付いたらノード黒霊鉱をペロリと丸のみにしていた。
「ふふふ、ようこそこちら側の世界へ……だな」
「あ……れ」
先ほどまで、このスパーバックス内には俺と幼女、そしてNPCが一人いるだけだった。
だが、今の俺にはそこら中に霊の印がついたNPC? と思われる奴らが見えていた。
『ダッシュ様』
「うおお! びっくりしたオメガさんか。最悪なタイミングで背後から突然話しかけるなよ」
『申し訳ありません。マジックポイントを獲得しました。これにより、リファレンス画面が大きく変化いたします』
「マジックポイントの獲得?」
「ふむ。サポート機能の報告を受けたか」
「いや、オメガさんのだけど」
「人族は、このノード黒霊鉱を入手し食べなければ、魔法、それから霊の視認ができぬのだ」
「いい、今お前なんつった?」
「? だからマジックポイントの獲得だと」
「そっちじゃねえ! 霊がなんだって? つまりあれか? ここに見えてるの全部……」
「うむ、霊魂だ」
「食うんじゃなかった……」
「何を言っている。しかしそのでかいノード黒霊鉱ならさぞマジックポイントが増えただろう。私のは一つで十しか増えないからな」
「実はあと三つある」
「なんだと!?」
「いやー、何かに使えるかなと複数拾っといたんだけど。後は全部投げつけて化け物になっちゃったからな」
「ふむ……そんな簡単に手に入るわけがないのだが、シークレットの類か。どうだ、ダッシュよ。私と共にゲンドールの地、トリノポート大陸という場所に向かってみぬか?」
「ゲンドール、トリノポート大陸? それって異世界側の?」
「そうだ。その前にベースポイントを手にいれなければな……」
「ベースポイントって?」
「……お主、本当に何も知らんのだな」
「悪かったな。攻略サイト見ようにも重くて見れねーし。ログインした後に公式を確認しようと思ったら幼女に踏まれそうになるしで大変だったんだよ」
「ふむ。ベースポイントというのはインベントリに保管しきれない装備アイテムを保管したり、リスボーン(戦闘不能となった場合に再出発可能となる)するためのベッドを設置したりする場所だ。一度登録すれば転換移動が可能となる」
「リスボーンできるポイントか。装備は持てる数に限りがあるんだな」
「無論だ。それからアイテムの売買はそのベースポイントから公式を通して出品するほうがいいだろう。NPCに売ることもできるが、そちらはオークション形式ではない。低い金額にしかならん」
つまりオークション販売の方が高値で売れるわけか。
序盤はNPCに売ればいいが、ゆくゆくは公式オークションで取引をってことね。このシステムは別ゲーに似ているな。
「お主、カネが無いと言っていたが売れるものはあるのか?」
「どうだろ。素材とかはあるけど売りたくないな。そういやクラシッククエストの報酬確認してないや。見てみるか」
「ストッーーップ! その前にお主の実力を見たい。裏手に来い」
「おいおい、いきなりだな……」
■スパーバックス裏路地■
「さて、まず私の種族から説明しよう。私はラールフット族。人族の中で特に器用な種族で、小柄だが罠を見つけたり道具を作ったりするのが得意だ」
「へぇ。そういやヒューマン以外の種族特徴はよく知らなかったな」
「だが、見ての通り背を高く設定できぬ小さい種族なのだ」
「それは幼女キャラだからだろ?」
「幼女じゃない! ヨーコだ!」
「はいはい。それで、ラールフット族さんに何を確かめられるんですかね」
「それは貴様が考えることでもある。傀儡の舞糸、初の壱!」
「へ?」
幼女の周りに突然不細工な人形が!?
なんだこれ!?
 




