第97話 水玉で実験
文字数がちょっと膨らみました……。
聞き間違いじゃない。確かにゴブエサって言ってたぞ……。
こんなワード、いくらパクリマプレイヤーが多いからって他の誰かが言うとは到底考えられない。
「お兄ちゃん?」
「なぁ、あんた。もしかして……」
「……またクエストなの? どうしてゴブエサの私なんかに変なクエストが舞い込むのかな。もうひとりじゃ対処しきれないよ」
「エトネブルーさん、じゃないか?」
「……? NPCが私の名前をどうして呼ぶの?」
「いや、俺は……」
「お姉ちゃんお耳の帽子、可愛いね!」
「……」
ミーコの問いかけには無回答。この人すげー人見知りだ。
それに、俺をNPCだと思っているらしい。いや、半分NPCなんだっけ。
「あのさ、驚くかもしれねーけど」
「ごめんなさいもう無理ですクエスト破棄ですだって吐きそう」
走り出した! なんつースピードで走るんだこの人。
歩いてる道に血痕? 血の玉みたいなのを飛ばして移動してる?
……なんだろ、血詠魔古里の能力? 人間の速度じゃねーわ。
しかも向かおうとしてる先がさっきの5人組の方角だぞ!?
「おい止まれって! 俺だ、ジャッジ……違う。ダッシュだよ! あんたに依頼を出したダッシュだ!」
強風の中、声が届いたのかピタリと動きが止まった。
ただ、さっき俺とミーコが隠れていた岩陰に飛び込んじまった。
「あのお姉ちゃん面白い人?」
「そうだな。多分面白い人だ。まさかリリや幼女より先にエトネブルーさんと再会するとは思わなかったわ……」
隠れた岩陰辺りに行くと、ガサゴソという音だけが聞こえてくる。
このまま落ち着くまで話を続けてみるか。
「改めて久しぶり、エトネブルーさんで間違いないよな」
「……はい」
「そのまま聞いてくれ。俺には今、不測の事態が起こっているんだ。名前もダッシュじゃなくジャッジと名乗っている」
「……」
「で、だ。エトネブルーさんには直接お礼が言いたかったんだ」
「お礼、言われるなんて変。だって私、ただのゴブエサだし」
「あの面白い武器と盾、結構気に入ってたんだぜ。やべー奴とでくわして全て壊れちまったけどな。よかったらまた武器とか作ってくれねーかなって」
「へぇ。お兄ちゃん、あの人が好みだったのぉ?」
「お前はだまってなさい」
「その子はダッシュ……ジャッジ君の子供なの?」
「おいおい。俺は花も恥じらう17歳だぞ。こんなでっけー子供いるわけねーわ」
「そうだよ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」
「妹だったんだね。私も17歳だよ」
「そうなのか? 少し大人っぽい雰囲気だから年上だと思ってたよ。それよりエトネブルーさんはどうしてここに?」
「えっとね。生産スキルのクエストを受けたかったの。どうせ私なんてひとりで生産するくらいしかできないゴブエサだから」
「生産スキルのクエスト? そんなもんどこにも無さそうだったけど」
「お城が解禁されないと受けられないみたい。だから港で発生した他のクエストをやろうとしてたの」
「……ひとりでか?」
「うん。だって私、友達いないから」
「初めて生産依頼を出したことだし、ここで会ったのも縁だ。今日から俺が友達だぜ」
「ミーコも!」
「えっとね。でも私なんてただのゴブエサだから。オカネを稼ぐ力も無いし、作ったものだって上手く売れないし」
「なら、こうしよう。エトネブルーさんが作ったもんは俺の仲間が売る。少しだけオカネをもらうが残りはエトネブルーさんの取り分にするといい。ついでに城にも住めないか聞いてみてやろう」
「お城はまだ入れないよ?」
「普通ならな。さっきも言ったろ。不測の事態が起きてんの。話は道中すっから、いっしょに来ないか?」
「えっとね。私、クエストを続けないといけないの。ドルダール鍾乳洞ってところにね」
「それってお兄ちゃんが明日行くところじゃないの?」
「……確かに5人いるって聞いたけど、そのうちのひとりがエトネブルーさんなのか? とするとクエストのメンバーは先着順の選定タイプか何かか。ミンニャにも聞いておかねーとかな」
「……どういうこと?」
「つまりだ。俺とエトネブルーさんは一足先にパーティーメンバーのひとりと合流したってことさ」
「でも私がクエストを受けたのは港だよ」
「もしかすっとそれ、受注したの数日前じゃないか?」
「うん。そうだけど。到着したのが北東の港で開始が南の港だから、通行証クエストをこなさないといけなかったの」
「なら、間違いなさそうだ。他にもそのクエストを受注しているやつがいなかったか?」
「分からない。でも本当なら……ううん、信じるよ」
「クエストは明日だ。他メンバーのことはそん時にでも分かるからいいだろう。さて、そろそろ顔出してくれねーかな。ここで時間食ってるわけにはいかねーんだ」
「お兄ちゃん帰ったらスクワット300回と腕立て伏せ60回しないといけないの」
「ぐっ。そのとおりだ……」
「分かったよ。もう一回深呼吸するね」
ガサゴソと岩陰から出てきたエトネブルーさん。
しかしだ。
顔面に銀色のタイガーマスクを装着してるんだけど。
どこで拾ったんだ、その仮面。猫耳フードと相まって完全なる不審者だ。
俺らも似たようなもんだけど。
「そんじゃ改めてよろしく、エトネブルーさん」
「君がダッシュ君じゃなくなったなら、私も呼ばれ方を変えようかな」
「へ?」
「ゴブエサ……ううん、シルバータイガー? えっとね……シルバ。シルバって呼んで」
「あ、ああ。分かった。シルバだな?」
「じゃあミーコはシルバお姉ちゃんと手を繋いでいくね」
「……いいけど。ゴブエサと手なんて繋いで楽しいのかな」
……うーん。意外に厨二病な人なんじゃねーのかと思っちまった。
いや、俺やミーコに合わせようとしてくれてるのかな。
「見てお兄ちゃん。お姉ちゃんの手、雷帝様よりきれい」
「ねぇジャッジ君。この子、NPCだよね」
「どうなんだろうな。パクリマじゃ普通の人間と何ら変わらない気がするぜ」
「ジャッジ君はそう思うんだね。私もNPCの方が話しやすい。人の方が怖いから」
「かもな……けど、NPCにもやべー奴はいるぜ」
「君に起きたことってもしかして、NPCに殺されたとか」
「そんなとこだ。詳しいことは歩きながら話すよ」
■廃城、裏手■
港から戻りながら、エトネブルーさん……シルバには、これまでの経緯をほとんど話していた。
普段自分のことを話さないタイプなんだが、彼女にはなぜか話しやすかった。
近くにいるようでいない。そんな存在だからかもしれない。
「お兄ちゃん、城門はこっちじゃないよ?」
「普通のやり方じゃシルバが入れないから裏手に回ったんだ」
「そっか。来たときと同じように入るんだね。ミーコは何を手伝えばいい?」
「こいつを持って最上階まで行って来れるか?」
「うん。直ぐ行ってくる!」
「……どうするつもりなの? こんな高いところ、登れないよ」
「忍者じゃねーんだ。こんなところ俺も登れねーよ。こいつは実験も兼ねてるんだけど、協力してくれるか?」
「いいよ。何をすればいいの? ゴブエサになればいいの?」
「そんなもんになって何の意味があるんだ……トレントの根を伸ばすから近くに来てくれる?」
「うん」
俺の肩くらいまでの背丈だな。150センチ無いくらいか。現実と同じくらいにしてるんなら小さい方かな。
ゆっくりとトレントの根を伸ばしていくと、早速面白い反応を見せるシルバ。
「え? 地面からゴブエサが伸びてる」
「伸びてるのはトレントの根だけど」
「これ、君の種族の力なの? ヒューマンだったと思うけど、こんなことできるんだね」
「ただのヒューマンはできねーし、どんな力があんのかもよく知らねー。こいつは妖魔の能力だよ」
「妖魔? 幻妖魔じゃなくて?」
「そーいやそんな種族あったな。こいつは妖魔の力で最大4種の能力を使用することができる」
「さっき聞いた職業はその妖魔の力と違うの?」
「ああ。同時併用可能だ。シルバは職業なにか獲得したか?」
「私なんてゴブエサだから無いよ」
職業獲得のハードルはまだまだ高いままだからな。全ワールドでどのくらいの人がゲットしたんだろ。
おっと、ミーコが最上階までもう着いてる。
効果はまだ切れてない。余裕を持っていけそうだ。
「……話は後にしよう。ミーコ! 二人分着地できるとこに置いてくれー!」
「分かったー!」
「シルバ。落とさないように糸でぐるぐる巻きにするけど許してくれ」
「好きにしていいよ。体は触れられても平気なように、金属の鎧を内側に着込んでるから」
「それを聞いて安心したぜ。女性に触れるのは抵抗があるからな」
「君、変わってるね」
「そうでもない。リスクオフしてるだけさ。それじゃ行くぜ!」
トレントの根は二階の屋根程度の高さまで上げた。城の最上階はまだまだ遠い。
ここから糸を放出して最上階へ結びつけてもいいんだが、修行も兼ねている。
妖魔の能力とブルールミナスの力をどう組み合わせるかが今後の課題だ。
そのひとつとして、魚型モンスターの水を飛ばす技。つまり液体に操術を乗せてみたかった。
「アクアボール、操!」
「……水の玉? 魔法? どこから出したの?」
城壁に飛ばした水玉が壁にぶつかると、そこには確かに操術が付与されているのが分かる。
液体に操術を付与したらいったいどうなるのか。それが断片的にでも知りたかった。
トレントの枝や糸にも操術を付与できたってことは、当然水玉にも付与できると考えたのだ。
結果は期待したとおり。だが、残念ながら上手く操れるほどの制度じゃない。
しかしマーキングはできているので、これで十分。
「しっかりつかまっててくれ。躍動!」
……予測どおり。壁の水付近に移動できる。
「ひゃぁ!?」
「はっはっは。シルバも大きな可愛い声が出せるんだな。もういっちょ、躍動!」
瞬時に二段階移動完了。ミーコが用意してくれた目的地へ着地成功。二人で城内へ侵入できた。
「……びっくりした。ゴブエサになるかと思ったよ」
「いいなぁ。お兄ちゃんのそれ、楽しいよね」
「楽しいっつーか便利っつーか。使うと疲れるけどな」
「本当にお城に入れちゃったけど、私って大丈夫なのかな」
「シルバお姉ちゃん、心配しなくても雷帝様は優しいよ?」
「レドのおっさんやミンニャに見つかると怒られるかもだけどな。そうだ、こいつを身に着けておきなよ」
紫の腕章はこの国所属の証だ。
俺はつけてなくても顔パスできそうだし、今は無くてもいいだろ。
「……受け取れないよ」
「いいから気にすんなって。牢屋にでも入れられたら俺の責任になっちまうしさ」
「でも、私なんてゴブエサで。誰かに何かもらうなんて」
「上げるんじゃなくて貸しさ。それならいいだろ?」
「……うん。あのね。えっとね……ありがと」
「さて、小僧たちが待ってるだろうし、図書部屋へ戻るぞ」
「筋トレの時間だね!」
「……そうだった」
著者のイメージだと放出したウオーターボールに操術を乗せると水玉視点でうねうね動かして
壁にペチャリとぶつかってだらーっと垂れて水玉視点が解除される的なものを浮かばせたんですけど。
小説だとそうはいかないようです。
これが上手くできると自動追尾する水玉(本体隙だらけ)の技ができそうなんだけどなぁ……。




