その四
彼らは引き返して駅に向かった。団地の傍に立てられた街路樹はまだ緑の葉を着込んでいる。街灯が突然については、直ぐに周りの景色に馴染んでいた。
建物の窓ガラスが、夕日をそのまま映して輝いていた。そのガラスは瓦のように重なった雲の斑点をもはっきりと映した。電車のジョイント音が甲高く街に響き、それに共鳴する街路樹も葉を軋ませていた。
「ちょっと何処かで休憩しない?」と友人が言った。
「いや、いいかな」
「ちょっと疲れたんだよ」
「まじ?じゃあ今日は解散にするか、、」と男は言って、立ち止まった」
「別に少し休憩するだけでいいんだけど、、、」
「いや、疲れてるなら、ゆっくり体を休めた方がいい。明日用事があるんだろ?」お得意の口ぶりであった。
「そんな体力を使うものでもないんだけどな」
「まあ、いいから、休んだ方がいい」
男は友人の肩を叩いた。その強引な手つきに友人は呆れ半分に諦めたようだった。
彼らはその場で別れた。街には一層冷たい風が吹き始めていた。
男は公園の方へと戻った。男の家はその奥にあったのだ。友人と別れた後も、男は速歩で歩いた。夕暮れが綺麗に染まるのも見えていないというふうに。
彼は、その美しさを浅はかな想像で作り出すことしか出来なかった。しかし彼にとっての、夕暮れの美しさとはまさにそのことを言うのであった。そして夕日を浴びる自らの姿を想像して、穢れた自惚れの念をも抱いている。誰もいなくなった公園には、通り風が吹いた。落葉だけが冷たく舞うような、宵の口である。