その三
彼らはある舗道へ出た。視界も開けた。丁字路のようなここには、薄い橙の光が力強く差している。しかし光の分散が著しいがために、実際以上に烈しく輝いて見えるわけだった。
彼らや、道をゆく車の中の人々もまた、その美しさの嘘に騙されているのに気づいてはいなかった。
「これめっちゃ綺麗じゃない?」
「うん、綺麗だなあ」
彼らは塀の縁に張り付くように足を止めて、その光景を見つめていた。そして互いにその美しさを認めた。何もそこには輝きがないのではなかった。
「さっきみたいに、これカメラで撮れる?」と男はまたもや友人に頼った。男は少しワクワクした様子だった。
繊細な影と、産毛のようなその縁に漏れる光とは、変幻する残像のようにチカチカとそこに存在していた。
「うーん、こういう光はスマホでは上手く撮れないかなあ」と友人はその光景に浸っているのが男に伝わるように、目線を変えずに言った。
「やっぱそうだよなあ」と男はさっきまでのワクワクをひた隠すような、わざとらしい演技っぽい言い方で言った。それを聞いた友人は俯いた姿勢でじっと足元を見ながら、靴底を道路の地面に擦り付けた。
彼らは歩き出した。正確に言えば、また男が歩き出したのに、友人がついて行ったという感じだった。彼らは左に曲がっていった。彼らの脇を掠める車は、いつも冷たい空気を押しのけて進んでいた。
さっきの光景がきっかけとなってか、彼らの会話は以前よりも弾んだ。時々聞こえる彼らの哄笑は、太い筒のようになったこの道に響いて、さらには左に並んだ家々の向こうにも響くようであった。
友人には、その声が悲痛なものに聞こえた。しかしどうしてこうも美しくないのか、友人は知らなかった。目に見えない灯火に、彼の心は揺蕩う落葉の瞬間を感じ続けていた。
彼の中では、その幻のような火がつくるであろう僅かに明瞭になった影への認識が始まった。彼は、はしゃいだ拍子に歩いてきた道を垣間見た。彼ら自身の影法師が、肩の辺りでくっつくか、くっつかぬかの、一定の距離を保って動いているのであった。
男はそれに気づかず、お構い無しに話を続けていた。友人も直ぐに向きを戻して歩いた。道路沿いの大きな家の横を通る。彼らは、そこの木から何かが落ちるような音が聴こえたような気がした。