37.変なところで鋭いね 【鈴森奈々】
【鈴森奈々】
月の光が私の目を鮮やかに照らす。
紅色に染まった瞳で秀の張った結界の縁を確認し、歩いて回る。
右掌に爪で切り傷をつけ、少しずつ血を垂らしておく。
いざという時の備えだ。
「…よし」
結界の縁に沿って一周した。
これで全方位、何かが侵入すれば私が知覚できる。
「…ま、意味ないかな」
秀の結界が突破されることなど、あり得ないだろうけど。
念のため、である。
…一つだけ、気がかりな事もあった。
トワは何故、秀の結界の影響を受けなかったのか。
秀は、トワが結界の中に逃げ込んできたから助けた。
ただしそれには大前提としてトワが秀の結界を知覚していた、という事になる。
その他大勢は結界の認識すら出来ていない。
全員が結界内に入り込んだのは、トワが結界に入ったから。
トワが特別だったのか。
それとも、力が通用しない相手がいる可能性があるのか。
だからこそ、備えた。
「……」
眠っている幼馴染四人と狐の子、トワ。
先に戻った秀が、優奈との間にトワを挟んで寝ている。
そして、秀のさらに隣にカレン、蓮。
蓮の右隣がカレンに取られた。
仕方ない、私は左側。
「…早い者勝ちとは。悲しい」
さっさと眠る姿勢になる。
私は吸血鬼としての力は受け継いでいるが、それでも八割以上は人間。
夜には眠くなる。
意識が沈む直前。
泣いているような寝言が聞こえた。
「ひぐっ…お母さん…」
起き上がって見てみれば、トワが眠りながら泣いていた。
泣き止ませに行くべきか。
そう考え、体を起こそうとしたのだが。
「…ったく」
ボソリと秀の声が聞こえた。
そのまま様子を見ていると、自分の元にトワを抱き寄せて頭を撫でていた。
落ち着いたのか、再び静かな寝息が聞こえ出す。
「……」
頭を下ろす。
杞憂だった。
秀は子供が苦手だと言いながらこういった時にはしっかりと対応する。
「……いつもそうすればいいのに」
「聞こえてるぞ。さっさと寝ろ」
小声の独り言に、ギリギリの声量で返事が返ってきた。
だから。
秀は、いつも変なところで鋭いのだ。




