36.変なところで鋭いね 【黒秋秀】
【黒秋秀】
「まあとにかく。今日は俺が代わりにその衝動とやらを抑える」
「…どうやって?」
「色々方法はある。けど、まずは衝動とやらが何なのかが俺には分からん」
結局、影響が出ていることは分かっても当人にしかその感覚は分からない。
曖昧な状態で力を使うのは出来れば避けたい。
率直に聞き出す事にする。
「だから、どんな感覚か教えてほしい」
「ムラムラする」
「おっけ分かった。本当にごめん」
即座に頭を下げていた。
この返事は流石に予想外だった。
「…別にいいよ。簡単に言うと吸血衝動が強まってる。物凄く喉が渇いて我慢できなくなってきてる」
そう言ってこちらに向けられた奈々の瞳が真紅に染まった。
気付けば体は動かず、視線が奈々に無理矢理惹きつけられている。
これはまずい。
「やべ……【打ち消せ】」
何かを弾くような感覚。
そしてまたゆっくりと体の自由が制限されてくるような気がする。
「…ナイス。というわけだからさっさと抑えて。このままだと手当たり次第に噛みつきそうになる」
「了解。
ーー【動は静に。静は動に。移り変わる情理。情理は移り変わらず】」
最初に奈々の意識的側面を保護。
続いて衝動を消し去る。
とはいえ、だ。
適当に【言霊】を使うのは憚られる。
よって。
「【移せ】」
「…!?何やってるの…?」
衝動を自分に移し、理解する。
…これはダメだ。
奈々が耐えれたのは普通にすごい。
「…なるほど。【打ち消せ】」
【言霊】で効果を相殺し、心を鎮める。
「…大丈夫?」
「大丈夫かどうかで言うと、大丈夫。けど、あれだな、やばいわ」
どうやら、吸血衝動は人間で言うところの性的な衝動に該当するらしい。
何がとは言わんが元気になりそうだ。
どうにかして抑えないといけない。
「…手伝える事は?」
「俺を罵ってくれ」
「は?」
ふざけただけなのに。
奈々の無言の圧が怖い。
背筋が冷え、一緒に心も落ち着いてくる。
…いやこれ恐怖で上書きされただけだな?
落ち着いたんじゃなくて恐怖で硬直してるだけだ。
「…よし、落ち着いた」
「…秀が変態じゃなかったって喜べばいいの?それとも怒ればいいの?」
「どちらでもお好……ごめんなさい無言で睨まないで」
やはり女性の心は難しい。




